フラれてから始まる残念ヒロインのラブコメ
利零翡翠
第1話 水落優弥は空気が読めない
日は地平線のそばまで落ちて、もう辺りはオレンジに染まった夕方だというのに俺は学校の階段を上っていた。
今日は金曜日。だから明日、明後日と学校に行くことはないから、今日の内に取りに戻らねばならないのだ。そう、ライトノベルを。
不覚にも机の中に忘れてしまったラノベを取りに、わざわざ帰り道を戻ってきた。
俺は五年も前に完結したあの作品に今更ながらハマり、平日なのにもかかわらず四日で一気に二巻も読んでしまった。今日とこの土日でまたさらに一気読みをするつもりだったのだが、この通り忘れて取りに戻る始末となった。
それに、裏門から二年生の下駄箱は反対方向にあるため余計に校舎の周りを歩かなければならない。さらに俺の教室は下駄箱から反対方向にある。
疑似的に往復をして三階まで上り、ようやく教室にたどり着いたときだった。
ドアの向こう側から声が聞こえる。
教室内に誰かがいる。それも一人じゃない。
ドアの小窓から覗いてみると、窓側の席で女子と男子が二人っきりでなにやら話をしている。
後ろ姿では誰なのか分からない。というか顔を見ても名前が出てこない可能性がある。
まだ五月だし、俺は人と話をするような生活を送っていないので仕方がない。
だが少しすればなんとなく予想できた。
男子の方は
女子の方は
で、その二人が放課後の教室でいったい何をしているのだろうか。部活があればここには残らないだろうし、俺みたいに帰宅部であれば早々に帰るかどこか外で寄り道をするだろう。
とりあえず、俺は室内に入りたいのだが……。しかし、まぁ、顔立ち整った二人が放課後の斜陽差し込む教室で、誰の視線にも邪魔されずにいる。
こんな絵になる光景……俺が入ったら二人の時間を邪魔することになる……が、知らん。
「私、あなたのことがす――きゃあああぁぁぁ!」
お構いなしにドアを開けると同時に神明が大絶叫。びっくりした……そんなに大声を出さなくても……。
教室内が静かになり、時間が止まったような感覚になっていると、目をまん丸にした彼女がギギギッと首を回してこちらを見る。
「あっ、
丸岡の方が話しかけてきた。ていうか俺の名前覚えているのか、すごいな……。俺、お前と話したことないんだけど。
「あぁ忘れ物取りに来たんだ」
と、俺は廊下側の自分の席まで行って机の中を覗き込む。やはりここにあったか。
お目当てのラノベを手に入れる。
これ無しでは土日を乗り越えられない。大事にかばんにしまいつつ、来た道を戻って帰路についた。
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