第30話 別にいいじゃない、私とあんたの仲なんだから

 それからエロ漫画騒動がようやく落ち着いたかと思えば、今度はまた一緒にお風呂に入ろうとしてくる紗奈と攻防を繰り広げるはめになり、就寝する時間がやってくる頃には完全に疲れ切っていた。


「……なんかめちゃくちゃ疲れたんだけど」


「今日は朝から勉強を頑張ったんだから仕方がないわ」


「いやいや、疲れの主な原因はどう考えてここ数時間だからな」


 紗奈もニヤニヤしているし分かってるくせにわざとそんなことを言ったに違いない。でもここ最近は紗奈と一緒にいる時間は楽しいので別に問題はなかった。

 はっきり言って以前の紗奈と一緒にいた時は苦痛の方が圧倒的に大きく、必要最低限以上は関わりたくないとすら思っていたのだ。だから以前の紗奈のままだったら放課後勉強に付き合うこともなかったし、今のように家に招くこともなかっただろう。


「時間も遅くなってきたしそろそろ寝るか?」


「えー、せっかくのお泊まりなんだからそれはつまらないわよ」


「なら勉強の続きをするか?」


「それより昔のアルバムを見ましょうよ、確か色々あったわよね?」


「ああ、子供の頃から最近の分まで母さんがまとめたアルバムがあるし取ってくるぞ」


 俺は母さんの部屋に置いてあったアルバムを数冊持ってくる。主に俺や父さん、母さんがメインに写っているが紗奈の写真もかなりあったはずだ。幼馴染で幼稚園から高校までずっと一緒だったのだから当然だろう。俺達は早速二人でアルバムを見始める。


「あっ、これは小学四年生の時にあった山の学習の写真よね」


「だな、懐かしいな」


 岡山空港の近くにある施設に連れて行かれて一泊二日でウォークラリーやキャンプファイヤーなどをしたのはいまだに覚えている。ちなみにウォークラリーは紗奈と一緒の班であり、その時の様子の写真もアルバムの中にあった。


「そう言えばこの時は歩くのに疲れたって理由でイライラしてた紗奈をおんぶしたんだっけ」


「あれ、そうだったかしら?」


「ここに動かぬ証拠がしっかりと残ってるぞ」


 実際の場面が激写された写真を俺は指差す。そこには不機嫌そうな顔で俺におんぶされている紗奈の姿があった。俺はというと顔が完全に死んでいたわけだが、歩き疲れていたところで紗奈をおんぶしなければならなったため当然だろう。


「本当ね、全然覚えてなかったわ……」


「まあ、子供の頃の記憶って結構曖昧になるしな」


「私って本当にわがままだったのね。そっか、この頃から失敗してたんだ」


 紗奈は自己嫌悪に陥ったような表情を浮かべていた。そんな紗奈に対して俺はフォローをいれる。


「子供の頃なんてみんなこんな感じだから別に気にしなくてもいいと思うぞ」


「ありがとう、もう春人には絶対に迷惑なんてかけないから」


「常識的な頼みなら迷惑とは思わないから大丈夫だ」


 むしろ紗奈が困っていたら助けたいとすら思うほどだ。そんな話をしながら俺達は引き続き持ってきたアルバムを二人で見る。幼稚園の遠足や小学校の学芸発表会、中学校の入学式など懐かしい写真が数多く並んでいた。

 学校行事に関しては紗奈と一緒に写っている写真がとにかく多い印象だ。二人でアルバムを見て盛り上がっているうちにあっという間に時間が過ぎ、気付けば日をまたいでいた。


「流石に眠いわね」


「ああ、今日はもう寝よう」


 俺も紗奈も満足したため寝ることにしたわけだがここで新たな問題が発生する。なんと紗奈が俺と一緒にベッドで寝たいと言い始めたのだ。


「それは流石にまずいって」


「別にいいじゃない、私とあんたの仲なんだから」


「いや、でも……」


 風呂の時と同様しばらく攻防を繰り広げたが最終的には同じ部屋で寝るというところで何とか妥協してもらうことになった。俺は自分のベッドで寝て紗奈は床に布団を敷いて寝るとのことだ。

 歯磨きを済ませてお互いに寝床に入りしばらくして俺は眠りに落ちた。そして次に気がついた時は朝になっていたわけだが、何故かベッドが狭いことに気付く。まだ完全に覚醒しきっていない頭を働かせながら顔を動かすと隣には紗奈が寝ていた。


「いつの間に俺のベッドに入ってたんだよ!?」


 結局紗奈の目論見通りになってしまったらしい。やはり俺よりも紗奈の方が一枚上手だったようだ。

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