1-8 - 扉の内に閉じ込められて
「なんで!?」
優は机を全力でたたいた。ギシッと嫌な音がする。
それに答えたのは、黄色の歯車に宿る、ポケタルク・サンシティ『ロケット・ツー・ダイナ』ロッキン――優からはポケットと呼ばれている――だ。
「元の所有者が死なないと、所有者権限は移らないからねえ」
ポケットは本日何度目かもわからない、大きなため息をついた。
(ここまで歯車の嫉妬心に蝕まれた人は、優が初めてだよ。ここまでくるとおいらじゃどうしようもない。あーあ、疲れた……)
ポケットが桃色の歯車をちらっと見た。ポケットはこれまで何度も歯車の所有者同士が争うのを見てきた。魔法というものは強力すぎるがゆえに、お互いにとんでもないダメージを与える。
だから、所有者同士の争いは、両者ともに無残な姿で死を遂げる。首から上が何も残さず消え去ったり、体が破裂し周囲に人だったものが飛び散ったりと、凄惨な結果をあげればきりがない。
ポケットはいつも、主にそうなってほしくないと願っていたし、今も優にそうはなってほしくないのだが、自分たちではもうどうしようもなかった。
「じゃあ、蓮を確実に殺さないと……」
「そうだね……」
ポケットは争いを好まない気質だ。だが、歯車に宿る者として主のすることをサポートしなければならない。
この二つの間に挟まれ潰されそうになりながら、ポケットは日々心を痛めていた。いつかストレスで気が狂うかもしれない。ポケットはそれが何より怖かった。
優が寝ている間に、こそっと歯車を返してくれば許してくれるだろうか。いや、蓮は許してくれても、優はまた奪いに行くだろう。それに、なんてことをするんだと、ポケットも攻撃されるかもしれない。
優の精神状態はだいぶヤバい。何をしでかすか、何をしてくるか全くわからないから、ポケットはおとなしく従っている。
「ふう……ポケット、蓮が今どこにいるのか調べてきてくれる? たぶん、入院でもしてるんじゃないかしら」
「わかったよ」
ポケットは家の窓から、ふらふらと外に出て行った。
優はそれを満足げに見つめると、置いてある桃色の歯車に視線を移し、二つ目の魔法を得た自分を想像し、その喜びに浸った。
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