第2話
【
(分からないな)
全容は見えて来た。
普通は見えて来るものが多ければ、分かって来るものも多くなるわけだが、
この戦いに関しては分かって来ることが増えても、益々霧が掛かってくるような印象を受ける。
当然、接する国境が暗に存在する
そこで突発的に武力衝突が起きても全く不思議では無い。
もう一度、江陵の地図を見る。
これを描いたという
江陵から続く【
彼はその当たりは詳しくないようで、詳細にとまでは行かなかったが大まかな地図を描いてくれた。
蜀の出身者が何人か砦にいるので、詳細を聞いてもっと詳しい地図を描けるようにして来ますと意気込み、今は部屋を離れている。
大まかだが、位置関係は分かる。
【白帝城】の東、河沿いに【
さほど高くない、小さな山だ。
【
位置関係としては【剄門山】を砦化するのは、別に悪くない。
相手は三国最強と言われる水軍を保有する呉軍なのだ。
ましてや【
曹魏に対しては、防衛の最前線は
合肥がそこにあり孫呉の進出を押さえる限り、
だが蜀は違う。
長江で繋がる北から南の流れは、蜀には孫呉の
河沿いに砦や拠点を築く動きは、赤壁から理に適っている。
さもなくば、江陵から一気に敵が白帝城に押し寄せるからだ。
(だがそれなら、何故蜀は【
龐統は近隣の村で民兵を集めていたようなのだ。
その情報が流れている。
しかし村ごと接収するようなことではなく、雇い入れる形で【剄門山】に人を集め、短時間で瞬く間にこれを要塞化したらしい。
この手腕は見事だと思う。
あとは蜀が河を遡上し兵を送り込めばいいだけだった。
竹簡に、今まで知らなかった情報が載っていた。
人が死ななかった戦いだと書いてあったのだ。
山が盛大に燃え、豊かな森が生い茂っていた場所が遠目に黒く見えるほど焼けたので、山中に展開していた部隊は全滅したと思われていたが、死体は少なかったらしい。
船に乗せ【剄門山】の手勢を龐統は白帝城に撤退させていたことが分かった。
龐統が何故その船に乗らなかったのか、その当たりのことは分からない。
陣中に一人残っていたなどという証言もあり、真相は分からなかった。
(龐統)
【
諸葛亮の人となりは大分分かって来てる部分はあるのだが、
呉にいたことは確かで、軽い役職にも就いていたようだが、凡人でも務まる程度のもので全く重用されていないと言っていい。
だが蜀に行かず呉にいたことは事実なのだ。
重用されず、結局は蜀に行ったけれど。
反対に劉備は龐統を快く迎え入れたようで、すぐに大きな役職を与えられていた。
だから蜀で冷遇された訳ではない。
しかし孤立した【剄門山】で、龐統が死んだのは事実だ。
そして郭嘉が気になったのは呉軍にもほぼ、犠牲者が出ていないことだった。
陣を張っていた蜀軍に多大な被害が出たのだろうと思っていたが、これも直前で龐統が兵を逃がしていたことで、さした被害が出ていない。
(
呉軍の江陵部隊を率いていたのは
呉蜀同盟が瓦解した後、重要な局地となる江陵に、
郭嘉は何か龐統の意図したことが行われなかったため陣が崩れたのだろうと見ていたが、龐統が兵を直前で撤退させていたなら、彼の意図は適ったということなのだろうか。
あの戦いに置いた、
それが全く見えてこない。
「軍医殿」
数秒して軍医がやって来る。
「なにか」
「雨戸を開いて。雪が見たい」
「風邪を引きますぞ」
「温かくする」
毛布に深く入った郭嘉に、軍医はため息をつき雨戸を開いた。
光が射し込んで眩しく、郭嘉は少し目を閉じた。
吹雪いてないが、雪は多く舞っていた。
「ありがとう」
「私の所まで冷えてきたら閉めますよ。
湯が冷める……」
雨が降ると空は暗いのに、雪が降っても空は明るいんだなと、郭嘉にとってもこれほどの雪は珍しかった。
古の時代から、雪を花のように歌う者達はいたが、
確かに春の花びらのようだ。
郭嘉は一目も会ったことが無かったし、あの戦いにも参戦出来なかった。
それでも熱を帯びて
どんな男か、
見えて来るのだ。
――龐統だけが謎だ。
郭嘉を以ってしても影すら捉えられない。
特に呉への仕官はともかく、それ以前のことだ。
周瑜など【赤壁】の戦いぶりを聞いただけで郭嘉には、
一番最初は呉に仕官したのなら、一番最初に何かを見出したのは孫呉だったのだろうか。
あそこも創始の
曹魏とは明確にそこが違う。
民草は劉備を真の漢王室の守護者などと讃えても、世には劉備の仁徳の曖昧さを嫌う人間も存在する。
そういう人間は遠い南から
明るくとも降らずにはいられないかのように、雪は降り注いで来る。
……まるで何者かが語り掛けて来るかのようだ。
郭嘉はゆっくりと支えを使い、身を起こした。
「……郭嘉殿……」
頭が痛むような声音で、物音に気付いた軍医がやって来て、懲りずに寝台の上で身を起こしている郭嘉を見て言ったが、郭嘉は子供のような無邪気さで窓を開けてくれなどと戯れに願ったさっきとは全く違う落ち着いた表情で、微かに笑んで見せた。
そこにあった上着を、自分で手に取り肩に掛ける。
「――
優しい声だったが端正な横顔を見せた郭嘉に、曹操にも仕えてきた軍医はすかさず何かを感じ取ったらしい。
すぐに「かしこまりました」と
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