第12話 「落ち着いた夜」

 店内に入った黒白はと言うと、入った際に黒白達は直ぐに隊列を組み、黒白を先頭に清水、波田、堀内、灰田、そして渡井の順番で進んで行く

「何度かここに来る可能性はあると思うが、今回は何を持って行くんだ?」

「電気がいつ止まるか分からないから、今回は冷蔵されている生物なまものを多く持って行こうと、あとは出来るだけ野菜も、飲料水系統はある程度店内のヤツらを倒してからの方が良いと思うから、今回は後回しに」

 進む前に渡井と黒白は今回調達する物を明確めいかくにしてからおくすることなく進み出し、ヤツらを一体一体確実に倒して行くのだった、その姿を見ていた清水は。

「すごいな」

 小声で漏らしていたが、その声に反応したヤツらが一体近づいて来ていた、それに気が付いた灰田が頭部を一突き。

「すまない、助かった」

 清水は灰田の行動に感謝を表すと、波田が唇の前で人差し指をそっと置き、静かにするようにジェスチャーをしていた、その姿を見ていた渡井と黒白の二人はどこかほっとしていた、そして五人が一息付いている最中、一人偵察に出ていた堀内が帰って来た。

「どうでした?」

 黒白は戻って来た堀内に、280mlの水が入ったペットボトルを手渡すと、堀内は音に気を付けながら少しずつ飲んでから。

「やっぱり少ないけれど、ヤツらが徘徊はいかいしている、俺が今来たルートにはヤツらの姿は確認出来なかったけれど、用心に越した事は無いと思う、何か大きな音が出る物があれば、ヤツらを引き付けている間にカートに急いで物資を詰めて移動出来ると思うけど、そんな都合が良い物があるとは思えないし、火を使う事は出来ないから、それ系統で音を鳴らす事も困難だ」

 堀内は危険性も考え情報を教えていると、黒白が。

「大きな音が出る物なら、ここに」

 一台のスマホを取り出した。

「これは?」

「さっき倒したヤツらから取ったスマホ……他にも二台ある、幸いロックも簡単に解除出来たから、アラームか何かで引き付ける事は出来るけど」

 黒白が説明していると、他のメンバーは驚き半分、呆れが半分だった。

「こいつを数秒後にアラームをセットしてすべらせる、音が鳴ったら直ぐに物資をカートに入れて急いで店内から逃げよう、念の為に逃げる際にも別のスマホでアラームを作動させるから、そうすれば危険性も少しは減ると思うけど、それでも……」

 黒白の説明を聞き驚いている面々ではあったが。

「ああ、わかっている、それでも油断は禁物だからな」

 渡井がそう言い、気を引き締めて黒白達は直ぐに行動に移すのだった、黒白はさっき説明した通りに、アラームを30秒後にセットしスマホを勢い良く滑らせると減速したタイミングでアラームが鳴りだし、その音に釣られたヤツらは一体、また一体と音のする方に向かって行った、しかし音に反応しないヤツらもいる為、そいつらに関しては移動する際に確実に倒して行った

 急いでカートとカゴを持って来た黒白達はその中に食材を詰め込んで行き、詰め終わったのを確認した後に、黒白がもう一台のスマホのアラームを作動させる準備をしていると外から、車の警報音が鳴り響いて来た、その音はアラームの何倍も大きく、店内にいるヤツらの大半が一斉に外に向かって移動し始めた

 幸いにもガラスがあるおかげもあり、外に出て行くヤツらはいなかったが、入り口に近いヤツらは外に出て行く、しかし黒白達もその音を利用し外に脱出するのだった。

 外に出て辺りを見渡すと、海藤、山田、加藤、菊池、大道の五人が五台の車の中に居る事を確認すると事態を察し

「そう言う事か」

 黒白は静かに呟いた後に、店内から全員が出てきた事を確認すると、一番近くに止まっていた大道が乗る車をノックした、ノックの音に最初はヤツらだと勘違いしていたが、黒白の姿を確認するとドアロックを解除し物資の積み込みをしていく

 その後も黒白は各車のドアをノックして行き、詰め込んで行くのだった、物資の方もスマホのアラームと車の警報音のおかげもあり一人一台のカートに詰め込むことが出来た、その為すぐに車に詰め込む事は出来ないが、手分けして詰め込んだ事に寄り、調達して来た物を早めに詰め込む事は出来た。

 だが問題は馬屋の方だ、彼の居る場所には50体近くの奴らで埋め尽くされており、救助に行くのは困難を極め、途中から馬屋の声も聞こえなくなっており、ただ警報音だけが鳴り響いていた……

「行こう……」

 黒白にとって嫌な人物であったのは周りも知っていたが、黒白はこんな世界になってから一度も取らなかった選択をしなければ行けなかった、それは……見捨てるという事だ。

 黒白は嫌な相手ではあったが救えない事への失望がそこにはあった、そして黒白のその思いを言われずとも受け取った面々は車を走らせた。

 車内では馬屋を亡くした事により何とも言えない空気になっており、黒白もまた落ち込んでいた、黒白と同乗している海藤もなんて言葉を掛ければ良いか分からなくなっていた。

「お前が気に病む事じゃない、俺がもっとあの人を見ているべきだった、あそこまで言ったにも関わらず、あのような行動をするとは正直思っていなかったから、今回の責任は全て俺にある」

 海藤はそう言っていたが、黒白は色々と考えてしまっていた

『自分がリーダーをやらなければ良かったのではないか、そもそもあの男を連れて行かなければ、もっと強く拒絶しておけば良かったのではないか、』

 と、それでも海藤は言葉をかけ続けた。

「今回の事で俺たちは再認識した部分もある、今回のように物資調達をしに行くのであれば、実力がともわない上に規律を乱すものが居るのであれば厳しくせざるを得ないという事、そして少しでも自衛が出来るように鍛えて行く事を……そうでもしなければ今のこの世界では生きて行く事が困難だ、今回の事を教訓として覚え、前に進んで行くしかないのさ、俺たちもお前も」

 海藤の言葉に納得した黒白は静かに。

「そう…ですね」

 とだけ答え、黒白達は学校へと戻って行くのだった。


 学校へ戻ると黒白達は一度物資を下すために昇降口前に駐車した、そして物資を下ろしていると作業を手伝うために一人また一人と人が集まってきて作業は直ぐに終わったのだが、数人の男が黒白達の元にやって来て。

「車をバリケード変わりにするんだってな、もし良ければ俺たちが乗って来た車も使ってくれ」

 願ってもない申し出が有り、海藤達は喜んでいたが黒白だけは違った。

「本当に良いんですか?バリケードとして使う以上、何かあった時に使う事は出来ないですよ」

 黒白はどうにも、その人たちの事が信用出来ずにいた。

「ガソリンメーターを見てもらえば分かると思うけど、ほとんど入っていないんだよ、こうなる前に入れておけば使い道もあったろうに……だから、バリケードに車を使うって聞いた時に、自分の車も使ってもらえたらなって思って、このくらいしか手伝えなくて申し訳ないけど」

 大人しそうな青年がそう話すと、最初に話しかけて来た男が。

「そいつの言う通りなんだよ、ガソリンもほぼ空だし、世界がこの状態だと、車の使い方も限られてくる、それに学生君に任せっきりにするのは良くないから、少しでも協力させて欲しくてさ」

 黒白は完全に信用は出来ないものの、バリケードとして使わせてもらう事が出来るのであれば、もう一度車調達に行こうかと考えていたので、それもしなくて済むと考え、疑念が残りはしたが、その申し出を受ける事にした。

「分かりました、ではお願いします」

 と言った後に黒白は。

「ありがとうございます。作業は一休みしてからでも大丈夫ですか?」

 お礼を言った後に提案すると、黒白達の疲労も理解しており。

「ああ大丈夫だ、俺たちは既に朝食を貰ったが、君たちはまだなんだろう」

「ええ、食べる前に出発したので…でもまぁこの状況を見ると、それも無理そうでけどね」

「まぁ仕方のない事でもあると思うし、あの人は君以外にも迷惑をかけていたりしたみたいだけど、あの人を信頼していた人たちも少なからずいたみたいだからね」

 周囲は馬屋が物資調達に行って、死んだ事を聞かされ騒然そうぜんとしていた、今まで無事に帰って来ていた、黒白のして来た事がいかに困難であったかが少なからず知れた事を意味する、外で物資を取って帰って来ることは常に命の危険が隣合わせになっており、少しの油断やおごり、そして欲が死を招く結果となる。

「あの人が何故、離れた所に居たのかは俺達にも分からない、周囲が多少とは言え安全だったから、俺たちは直ぐに駆けつける事が出来る範囲で距離を取って、動いていた、最初はあの人もそうだったが、気が付いた頃には距離が離れていて、助けに行くのも難しくなっていた……」

 あの時は気丈に振舞っていたが、やはりいており、周りに居た渡井たちは海藤を責める事なく。

「あの時は仕方ないですよ、俺や他の人たちだって気が付くのが遅れていたし」

 渡井は何とか元気づけられるように言葉を掛けていたが、海藤のショックは大きいようで返す言葉も無い様子だった。

「俺も……あの状況なら俺も海藤さんと同じ判断をしていたと思う、理由は何だとしても、何かしらの方法で人の命を奪ったと感じているのであれば少しでも多く、その人の生きていたかった時間を、一分一秒でも多く自分が生きて・・・生き足掻あがいて行くって考える様にしないと……」

 黒白は静かな声で海藤に伝えると、海藤は涙を浮かべながら。

「そう……だな、しかし」

 黒白の言葉でも元気を取り戻せずにいた、無理もない黒白は無理やり自分に言い聞かせ、前を向くようにしてきたが、海藤にとって自身の判断ミスで人一人を死に追いやってしまったのだから。

「今も昔も人は死ぬ、どんなに平和であったとしても必ず、だから俺たちは居なくなってしまった人たちの分まで、生きて行く必要がある、その人達の分の思いや記憶を持って……それに今の場合、ヤツらになってしまう危険性が少しでもあるのだとしたら、その時も迷わない様にしないと」

 黒白は苦しくなりながらも、厳しいことを言ったが、海藤は言われた事を少し考え。

「悪い、今日は少しだけで良いから休ませてくれ、黒白悪いが代理を頼まれてくれないか?」

 黒白は今日のリーダーを頼みたいと言われ、少し悩み。

「分かった、その代わり誰か補佐に着いてくれるのであれば」

 渋々了承したが、黒白の言葉に直ぐに反応したのは。

「黒白君が良いと言ってくれるのであれば、私がその役目やっても良いですか?」

 声のする方を見て見ると、そこには辰巳の姿があった。

「辰巳さんとなら安心出来るから、むしろこちらからお願いしても良い?」

 黒白は辰巳の方を見て頭を下げると、辰巳も嬉しかったのか

「私で良ければ、是非…と言っても今日はそんなにやる事は無いのでは?」

 辰巳は今日やらなければならない事を思い返してみたが、これと言ったものは思いつかずにいたが、

「この後は車を順番に入れて、バリケードの設置かな、その後に残りの台数を確認して、足りない車があるのであれば、後日取りに行く感じで」

「なるほど、そう言う事ですか。そうしましたら、黒白君たちが朝食を取っている間に作業を進めて行きますよ、少しでも早く終わった方が、黒白君も他の皆も早めに休むことが出来ると思いますし」

 辰巳は黒白達の身を案じ、提案をして来た、それに対し黒白は少し考えてから、その提案に乗る事にし

「お願いします……やり方なんですけど」

 黒白は辰巳達に頼んだ後に、車を止める順番を教えて行った、サイズは問わずに一台一台奥まで駐車していき、車間距離を開ける事は無いように止め、ヤツらの侵入する穴を埋めて行く事にした、そして車体側面には穴を掘っていた時に出た余分な土を土嚢どのうにしていた為、それを敷き詰めて行く事、それでも穴が開いていた場合は元から学校にある土嚢を使用し、完全に穴を塞ぐ事、説明を聞いていた面々は黒白の考えに感心していた。

「黒白君はまだ、若いのにすごいでしょう、今までもこのように沢山の事を考え、実行に移してきたのですよ」

 辰巳が何故か嬉しそうに言っている様子を見ていた渡井は思わず。

「なんで、あんたが一番嬉しそうなんだよ」

 少しだけ嬉しそうにしながら笑っていたが、すぐに元に戻り。

「とりあえず、食事を取ってそれから動くことにしよう」

 渡井は落ち着いた様子で話し、一同は調理室に向かうのだった、しかしヤツらと本格的に戦うのが初めてだった大道たちの足取りは重く、中々歩き出せずにいた。

「今後は先生たちも物資調達や見張りをすることも増えてくると思う、だから食べれる時に少しでも食べて置かないと、いずれ倒れる可能性があるから」

 黒白は大道の横を通り過ぎる最中に声を掛けると、大道たちはその言葉に納得し黒白の後ろを着いて行く形で歩き出すのだった、そして調理室に到着した渡井が扉を引くと、そこには片づけをしている、人たちの姿があった。

「あなた達帰って来たのね」

 横から声を掛けられた渡井は。

「ええ、少し前に帰ったのですが、食事の方お願いしたくて……」

 言いかけると、その人は話をさえぎり。

「入っておいで、流石に外で食べさせるのは無理があるから、室内で食べて頂戴ちょうだい

 渡井たちは言われるがまま教室に入ると、そこでは静たちが自分達と帰って来たメンバー用の食事を作り終え、食べる準備をしている所だった、そこには結月達三人の姿もあり、黒白に気が付いた。

「黒さん、おかえりなさい」

「おかえり」

「おかえりなさい」

 結月、凛香、瑠奈の三人から言われた黒白は少し照れくさそうに。

「ただいま」

 小声で返すと、それを聞いていた結月達は嬉しそうに各々おのおの頷いており、それを見ていた周囲は温かい目で彼らを見ていた。

 そして静は優しく手を叩き、調理班と調達班のメンバーも食事を取り、可能な範囲で情報共有していくのだった、交換した内容はあまり無く有益ゆうえきな情報も多くは無かったが、周囲に住んでいた人たちから、自身達の家に入って持って来て欲しい物があるという声が聞こえたと教えてくれた、しかし現状だと大きなメリットが無いのに危険を冒すのは調達班からすれば首を縦に振る事は困難だった。

「難しそう?」

 一人の女性が心配そうに聞いて来ると。

「現状だと難しいですね、可能な限り物資をたくわえておかないといけないですし、バリケードの強化もしておきたいところですね、少しでもここを安全にして行きたいですし…ですが、薬等の様に重要性が高い物でしたら……」

 渡井が途中まで言いかけると。

「絶対に取って来れるわけじゃない、どのタイミングでヤツらと戦うかも分からないし、行きは大丈夫でも帰りにって可能性もある」

 黒白は少し冷たく言っていたが、その後に。

「いつになるかは分からないし、取って来れる確証も無いけれど、地図に場所を示して置けば誰かが取りに行く可能性だってあるだろうし」

 そう付け加え、そして黒白は水を飲み干した後に、食べ終えた自身の食器を洗い

「ごちそうさまでした。それにありがとうございます」

 と伝え、静かに調理室を後にするのだった、結月達が見ている黒白の後ろ姿は何かを我慢している様にも感じられ。

「黒さん、大丈夫かな……」

 結月は小声で心配そうに呟いていたが、それは誰の耳にも届いてはいなかった、しかし結月の様子が少しおかしい事に気が付いた瑠奈もまた、結月に。

「どうしたの」

 聞いていたが。

「何でもないから、大丈夫だよ」

 黒白の様子が気になったのを他の面々に悟らせてはイケないと思った結月は平静へいせいよそおい、片づけを始めるのだった。

 しばらく作業をしていると、食事を終えた人達が片付けを手伝ってくれたのだが、その際にも考え事をしていた結月は、調理室から出て行こうとしていた渡来達を呼び止めた。

「どうかしましたか?物資で何か欲しい物があるのであれば、明日の朝にでも聞きますが」

 渡井は直ぐにでもバリケードを設置したかったのもあり、後回しにしようと考えていたのだが。

「物資の事では無いんです。渡井さんや辰巳さん、海藤さんの都合が良い時で良いので私にもヤツらの倒し方や物資を調達する時の注意点を教えて欲しいんです。お願いします」

 結月はそう言い頭を深く下げていたが、その様子をその見ていて周囲の人達は驚いており、結月の行動を見ていた凛香と瑠奈の二人も。

「私にもお願いします」

「私もお願いします」

 結月と同じように頭を下げていた、その様子を見ていた一人の女性は。

「何を言っているの、あなた達が進んで危険な事をする必要は無いのだから……」

 三人を止めようと前に出て来たが。

「いつまでも守って貰うばかりじゃなくて、私も頑張りたい、すぐに物資調達とかは無理だと思うけど、警備のお手伝いも出来ると思うし」

 その人の言葉を遮り、本当の部分は隠し通したまま、それでも力になりたいと思う部分も本当ではあったので、結月に続いて凛香と瑠奈の二人も同様に何度も頭を下げていた、三人の熱意に根負けした渡井と辰巳の両名は。

「分かりました。私たち三人の誰かの時間が空いて居る時で良いのであれば、辰巳さんもそれで大丈夫ですか?」

「ええ、分かりました。三人の思いも分かりますので、微力ながらお手伝いさせて頂きます」

 渡井は渋々了承している様子だったが、辰巳は三人と面識がある事もあってか彼女達の思いも汲み取り、了承するのだった。

 その頃、黒白はと言うと自身が休んでいる屋上の一角に行き、近日中に出発する準備を密かに進めていた、食料は必要最小限、飲料水を500mlのペットボトルで二本、後は自分が持てない分の武器を出来るだけバッグに詰めていた、持って行くことが出来そうに無い武器は誰にもバレない様に屋上に隠していた、黒白がこの場所で休んでいる事に気が付いているのは恐らく、結月達三人くらいだと思うが、気付いていない可能性だってある。

「念の為に彼女……」

 一度言いかけたが、ふと名前で呼んで欲しいと言っていた事を思い出し。

「結月さんに物資の隠し場所を伝えておくか」

 いきなり呼び捨てにするのはハードルが高く感じた黒白は「さん」を付けて呼ぶことにしたそれでも、黒白にとってこの行動も確かな一歩に違いない、なかなか人を信じられない彼にとって、この行動は人を信じようと動き出した一歩なのだから、そして物資を隠した黒白は急いで外に向かう為に階段を下りて行った、昇降口を出るとそこには渡井達が待っており。

「すいません。遅れました」

 黒白が申し訳なさそうにしていると。

「大丈夫、俺たちもさっき来たところだから」

 渡井が言った事は事実で、食事を取ったあとに全員別々に休息を取っていた、そして黒白が戻って来る数分前に昇降口前に集まった所に黒白もタイミング良く合流し。

「それなら良かった」

 それでも黒白は、社交辞令だと思い、申し訳なさそうに返答をしていたが、すぐに調子を取り戻し。

「そうしたら、日が暮れる前に作業を終わらせてしまおう」

 黒白の掛け声に賛同した面々は。

「おう!」

 小声で返事をして各自自分が持って来た車に乗り込み、移動するのだった、黒白や渡井は周囲を警戒しながら車の誘導ゆうどうをして行った、車を駐車した後は誘導を運転手と交代し、土嚢を隙間なく詰めて行き、ヤツらの侵入を少しでもふせげるようにしていく、そして無事に皆の協力の元、全ての作業を終える事が出来たのだった。

 作業を終え、校舎に戻る前にふと空を見上げると、夕暮色の空と太陽が黒白達を照らしていた。

「奇麗な夕日だな」

 堀内がボソッと呟くと。

「ええ、そうですね」

「本当に」

 辰巳と渡井の二人も賛同しており、手伝いに来ていた海斗もその夕日をながめながら。

「今みたいに夕日を眺めていられるのも、あとどのくらいなんだろう」

 静かに、まだ世界が壊れる前の日々を思い出しながら歩き出した、昇降口に戻ると丁度、炊き出しの準備が始まっていて、その中には。

「おつかれさま」

 結月達三人の姿もあり、黒白はそっと声を掛けると彼女達は嬉しそうにしていて。

「黒さんおつかれさま」

「おつかれさまです」

「おつかれさま」

 結月達も黒白に声を掛けると。

「何か手伝う事はある?」

 自分の作業が終わっていた事もあり、何か手伝いたいと思った黒白だったが。

「黒さんありがとう、大丈夫だから黒さんは休んでて、朝から動いていたから疲れたでしょ、休める時に少しでも休まないと、ご飯は皆と一緒に食べる?それとも後にする?」

 結月は黒白の体調や周囲の状態を見て、優しく聞いて来た。

「それじゃあ後にしようかな、今の状態だとゆっくり出来そうにも無いから」

 黒白はさっきまでの不安そうな雰囲気とは別に結月と話している時はとても落ち着いた様子で。

「わかった、そしたら私たち調理班の人達が食べる時に呼びに行くね、あの場所で良い?」

 この言葉で黒白は結月はどこで自分が休んでいるかを把握していると感じ、いずれあの場所に武器や少量ではあるが食料も隠してある事を伝えようと思い。

「頼む……また」

 とだけ伝え、例の場所に向かうのだった、そんな黒白に対し結月は。

「またね」

 嬉しそうにしながら、そう呟いていた。

 休憩場所に戻った黒白は数枚の紙にメッセージを書いて行った、一通は家族への手紙、そして結月達三人にも一通ずつ手紙を書き、海藤と辰巳の二人にも手紙を書き一枚の封筒に入れて行くのだった、その手紙は一度物資の中に入れて見つからない様に隠し。

「明後日の夜明け前に出発しよう」

 一人そう呟くと、下から結月が上がって来た。

「黒さん、炊き出し終わったから、食べてない人は調理室で食べようだって」

 上がって行く際に黒白の独り言が微かに聞こえ。

「誰かいるの?」

 不思議そうに覗き込むと、そこに居たのは黒白ただ一人で。

「いや誰も、ただの独り言だよ」

 黒白は何かを隠す様子も無く、答えると結月はその言葉を信じ。

「そう」

 一言返事をし、二人で調理室へと向かうのだったその道中。

「そろそろ、出発するの?」

 不安そうに聞いて見ると、黒白は少し躊躇ためらった様子ではあったが、正直に。

「ああ、明後日当たりには出発するつもり、でも」

 伝えると、結月は寂しそうにもしていた。

「うん、分かってる……だから、黒さんが帰って来るまで色々と頑張る、ヤツらの倒し方や見つからない様にする方法、それに外で一人になった時や、いざと言う時の対処法も」

 結月は黒白の足手纏あしでまといにならない様に、そして少しでも力になれる様にと思い。

「だから、安心して行って来て」

 いくつかの思いを胸に秘め、告げたのだった、黒白もまた結月が何かを我慢しているのは察していたが、今聞くのは野暮やぼだと思い。

「分かった、でも無理だけはしないでくれ……結月…さんも」

 黒白は何とか呼び捨てで呼ぼうと思ったのだが、どうしても恥ずかしさが勝ってしまい、少し遅れてから、継承を付けて呼ぶと二人は何故か可笑しくなってしまい、周囲に響かない様に声を押し殺しながら笑っていた、それでも微かに漏れている笑い声に釣られ、戻りが遅い二人を探しに来た、瑠奈にその現場を見られ。

「二人とも何してるの?みんな待ってるよ?」

 二人を見ていた瑠奈も静かにでも、どこか嬉しそうに笑っていた」

「さあ行こう」

 瑠奈は元気よく二人に言うと、結月と黒白の二人も。

「うん」

「ああ」

 その元気に当てられ、調理室へと向かい、扉を開けると同時に遅れて来た二人は。

「「すみませんでした」」

 謝罪をすると、渡井達も準備を手伝っており。

「気にするな、黒白君はいつも頑張っているから、それくらい大丈夫…それに遅れて来てくれたおかげで、こうして夕飯の準備を手伝う事も出来る、君が居たら全部やってしまいそうだから」

 渡井は、普段なら大人が率先してやらなければいけない事を黒白がやっているのを、本人が居ない所で気にしていた事もあり、黒白が居たらやりそうな事を率先してやっていた、それは辰巳も同じで、渡井が先に手を出すか、辰巳が先に手を出すかと言った具合に半ば競争の様なものをしていた、それに触発されてなのか堀内や灰田や波田の二人も手伝いをしていた。

「それに結月ちゃんや瑠奈ちゃん、凛香ちゃんも沢山手伝いをしてくれるから、私たちも助かっているのよ」

「そうそう」

「怪我人の介護に炊き出しの手伝い、倉庫の整理とか色んな事を手伝ってくれて本当に感謝しているのよ」

「だからお昼にお願いしていた事には驚いたけど、あなた達が決めて事なのであれば、私達は応援するし、少しでも協力するからね」

 ここ数日、結月達と一緒に行動して来た人達は、彼女達の優しさや思いを間近で感じ取っていた事もあり、彼女達の決めた事を応援すると決めていたのだった。

「そう言えば、海藤さんは?」

 食事を取りながら、海藤の事を聞いて見ると辰巳が口を開いた。

「海藤さんなら、大丈夫そうでしたよ、黒白君と別れた後に様子を見に行って見たのですが、彼も彼なりに割り切っている様子でしたよ」

 辰巳がそっと伝えると、渡井達もどこか安心した様子で、黒白も安堵していた。

「多分なんだけど、これからヤツらと戦ったり、今回の海藤さんの様になる人、それにどうしても手を汚さないといけない時が来ると思う、だから少しでも苦しくなってきたら誰かに言ったり、そういう人がいたらケアしてあげて欲しい」

 黒白はこの場に居る人達にどこか温かさを感じており、自分が居なくなる事を伏せた上で、自分が居ない間の事、そして今後の事を密かに託すのだった。

「任せて下さい」

「任せなさい」

 調理室に居る人達は黒白の頼みを快く了承していたのだが、言葉の本当の部分を理解している結月だけは素直に頷く事は出来なかったが。

「わかった」

 それでも心配させまいと快く返事をしていた、しかし黒白は結月に我慢させてしまっている事に気が付き、『申し訳ない』と言う思いはそっと心に中に留め。

「ありがとう……ございます」

 感謝の気持ちを伝えていた

「明日の物資調達なんだがどうする?」

 渡井は黒白に明日の行動予定を聞いて見ると、黒白は。

「明日は試しに俺抜きで行ってみたら?」

 明後日には自分がここから姿を消す事を視野に入れ提案してみた。

「今後の事を考えるとその方が良い気がして、どの調達にも俺が付いていける保証はどこにも無いと思うし、もっとたくさんの物資が必要になることを考えると、今のうちに経験を積んで行くことは大事だから」

 まともに戦える人材が少ないのは事実だが、更に協力したいと申し出もあった、それは黒白にとっても、渡井達にとっても願ってもない事だった、そして。

「たしかに黒白君の言う通りだ、今の内であれば俺たちも同行する事は出来るが、今後はどうなるか一切分からないからな」

 渡井は何かを察したのかは分からないが、黒白の意見に賛同し続けて。

「そしたら明日は、黒白君を除いた今日のメンバーでもう一度同じところに行こうかなと思うのだがどうだろうか?」

 行き先を提案して見ると、黒白は少し考えたのちに。

「そうだな、同じところであれば少しは慣れていると思うし、ただあそこは入口が二か所あるから、見張りを四人置いて探索した方が安全性も高いだろう…他の注意事項はいつも通りで…もしも倉庫の中を探索する場合は更に注意して」

 もしもの可能性を考え、注意を促し出発の直前には武器の確認、そして戻って来る際には、必ず噛まれていないかの確認もするように伝えた、それらをすることに寄り自分たちの安全は勿論、避難している人々の安全も確保出来るからだ。

「そして誰かがここに避難して来たり、帰還した時にも必ず身体チェックはした方が良いと思う、物資調達にいた人たちが武器を持っているのは当たり前のことだけど、避難者が何か武器を持ってここに居る人達に危害を加える可能性もあるから、誰か信頼出来る人、数人に管理を任せるとかね…俺以外で」

 黒白は追加で提案しつつも、自信を指名しない様に釘を刺していた。

「そんなに嫌か?」

 渡井は少し圧を掛ける様に質問してきたが、黒白は直ぐに。

「嫌だね」

 即答し、続けて。

「海藤さんにも伝えてあるけど、俺は遅かれ早かれここから出て行く、一度戻って来るつもりではいるけれど、それ以降は戻って来るつもりは無い」

 強めに言い切り、ここから出て行く事を知らなかった面々は驚きを隠せずにいた、そして出て行くのを止めようとしていた人も居たが、その人が口を開き切る前に。

「出て行くことは、ここに着いた辺りで直ぐに決めていた事だし、このことを知っている人は他にも数人いる、だから誰に何を言われたとしても、変えるつもりは無い、それになんとなくだけど動いた方が良いそんな気がする」

 強く言い切ると同時に本人にも分からないが、予感めいたモノが働いているのだった。

 黒白のそれが遥か遠い未来、あるいは近い未来に良い方向に進んで行くことは誰も知る由も無く、その場にいる面々は黒白の決定を黙って飲み込む事しか出来ずにいた、そんな中で辰巳も覚悟を決めた雰囲気だったが、それを黒白に言うのはまだ時期では無いと判断し、そっと飲み込んでいた、そして食事を終えた黒白はそっと自分の食器を洗い始め、慣れた手つきで片付けも進めて行き。

「それに今後どうなって行くのかは本当に分からない、だからこそ情報や戦う方法を模索していくのは大切だと思う、だから動くことにしたんだ」

 先ほどの口調とは違い落ち着いた様子だったが、どこかに不安や恐怖も隠れているのだろう、そんな雰囲気も感じられた、それでも言葉の中には黒白なりの覚悟もあった、それに気が付いた結月、凛、瑠奈、辰巳の四人は心の中で頷き、それと同時に黒白が帰って来るまでの間に少しでも多く戦うすべを身に着け、それ以外にも各々おのおのが自分達に出来る事を学んで行く事を誓っていた。

 彼女達以外の人々はどこか納得が出来ない人も居たみたいだが、自分達が黒白にした事を考えて見ると納得せざるを得ないと分かっていた事もあり、何も言い返す事も出来ずにいた、それでもと思う人も居たようだったが、他の人に肩を叩かれ言うのを辞めていた、そして黒白が全員分の食器を洗い終え、その食器を何も言わずに片付けている結月達三人の姿に気が付いた黒白は思わず微笑んでいたが表情を直ぐに戻し。

「ありがとう、そしてお休み」

 声を掛け静かにその場を後にするのだった、黒白の後ろ姿を見送り、結月達も体育館へと戻って行くのだった、黒白が避難して来てから五日目の夜に黒白は初めてゆっくりと休息を取る事が出来たのだった。

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