第9話 「対策・呆れ」

 学校近くの最後の曲がり角を曲がると、三体のヤツらが学校に近づいていた、それを撃退しようと、校門に大人の姿がそこにはあった

 しかしヤツらは三体では無く、黒白の目に写っている三体の他に、その前方に更にもう二体の姿があった、学校の方では校門近くでヤツらの姿を見て騒ぎが起きている事もあり、何度声を上げてもヤツらが黒白の方を振り向く事は無く、より大きな声がしている学校の方へと向かっていた

 その様子を見て、黒白は声を上げるのを止め、自身の正面にいる、ヤツらを的確に倒して行った、しかし校門前にいる大人たちはそうではない、近づかせまいと、リーチの長い物で何とか牽制けんせいは出来ているものの、ヤツらがそれで引くことは無い

 そんな中、黒白は気付かれ無いように背後から近づき、一体を倒し、ヤツらが倒れた音に反応し、振り向いた瞬間に乗じて、最後の一体も倒すことに成功した

 黒白の行動に対して、校門前に居た人々は驚きを隠せずにいたが、その中には昨日堀内達と墓所で一緒にいた菊谷きくやの姿があった。

「君は黒白だったね、ほかの皆は?」

 菊谷は黒白の姿しか見えない事を心配して聞いて見ると。

「海藤さん達は無事です。後から走って来る、だけど今は……」

 黒白が息を切らしながらそう伝えると、菊谷は

「分かった、急ごう」

 他のメンバーの安否を確認すると、黒白と共に一先ひとまずグラウンドへと向かう事にした。

 だが黒白はその前に、持って来た食料の入ったバッグを調理室に置きに行くと、そこにはまだ結月達が避難せずにとどまっていた。

「どうして、まだここに?何かあったら危ないから、一先ず体育館に避難しないと」

 調理室にいる人々は、黒白の提案をもうとはしなかった。

「なにかお腹に入れないと、行動もしづらいだろうし、何かと入用いりようだろう、だからみんなで作っていたのさ」

 黒白はそう言われると何も反論できなくなってしまい、少し考え。

「もしも、何かあった時の為にこの中の物を一つ持って行って、服とかに隠すことが出来るサイズだから、順番に……」

 渋々そう言うと、近くに居た人はバッグの中を見ると驚いていた

「この中身を渡したからと言って戦いを強制する気は無い、けれど今のこの状況を考えると何が起きてもおかしくは無いから」

 そう告げると、全員が黒白から武器として使える物を受け取った、そして最後に結月、瑠奈、凛香の三人も…しかし三人も同じように受け渡した後に結月にだけ手紙を渡した、その中には

『みんなが寝静まった当たりに、三人で屋上に来て欲しい』

 という内容だった、その内容をまだ知らない結月に黒白はそっと

「三人で後で見て欲しい」

 小さく声を掛けた後に

「俺が出て行ったら、しっかり施錠してください、余程の事が無い限り扉を開けない様に、たとえそれが怪我人だとしても……落ち着いたら俺か海藤さんが来るので」

 そう言い扉を閉めると、結月は言われた通りに施錠し、黒白の無事を祈り、落ち着いたらみんなで食べる食事の準備をし始めたのだった、そこにいる人々は皆、黒白の事を信じており、誰も軽蔑けいべつしたりするような人はどこにもいなかった

 そして黒白が周囲の安全を確認しようと立ち上がると、海藤達も学校にたどり着いた。

「無事か?」

 到着早々、海藤は黒白の安否を確認すると

「俺は無事です、海藤さん達は?」

 即答した後に、海藤たちの安否を確認し

「俺たちも大丈夫だ……それよりも」

 静かにそう答えると、海藤は先ほど黒白が倒したヤツらを見ると

「あれはあのまま放置で大丈夫、それよりも周囲の安全確保と他の人達の安否を確認しないと……とりあえず、調理室の人たちと門番をしていた人たちは大丈夫、後は他の人たちを確認してもらえれば、俺は周囲の安全を確認して来る」

 黒白は急いで周囲を確認しに動き出した、その様子を見てどこか危うさを感じた海藤は止めようとしたが、辰巳が黒白の方へ歩き出し

「私が彼と一緒に周囲を確認してきます。あなた方はみなさんの安否を」

 そう言うと、海藤は一言

「頼む……行こう」

 伝えた後に、国枝と渡井の二人と共に校内に入り、手分けしてみんなの安否を確認しに向かった。

 その頃黒白は、部室の一つに武器の入ったバッグを隠し、グラウンドへ歩いて行った、フェンスの向こうにはヤツらの姿があったが、今は地震の影響で、町中の方が少し騒がしくなっている事もあり、そちらの方に行こうとしていたが、校内に侵入してくるのも時間の問題のような気もしていた。

 そのため黒白は周囲に他のヤツらがいない事を確認してから、音を立てて自分の方に気を引いた、その音に反応したヤツらはフェンスまで進んできた、黒白はそいつのシャツを引っ張り、その勢いを利用し鉈で一突き、どうにか倒す事に成功した、様子を見ていた辰巳は驚いていたが、すぐに黒白に近づき

「黒白君、大丈夫ですか?」

 黒白の事を心配すると、黒白は冷静に。

「ええ、それよりも」

 返答しつつも周囲の安全を確認していた。

「分かっています。一人では大変でしょう、私も手伝うので、手分けして確認していきましょう」

 辰巳はそう提案すると黒白は。

「ええ、お願いします」

 提案を呑みこみ、反対側の確認を辰巳のお願いすると、辰巳もそれを了承し、二人は別々に安全確認をして行くのだった。

 辰巳側で一番危険な部分はプールに向かう途中にある坂だ、そこは降りて行くと住宅街に通じている為、最もヤツらが侵入してくる可能性が大きい場所でもある、黒白が避難して来た日に数台の車を使ってバリケードを作り侵入を阻んでいたが、地震の影響でどうなっているかはまだ未確認だ。

「今のところは大丈夫そうですが、念の為……」

 辰巳はそう呟き、坂を下って行くと、一体の奴らが車の下に出来たわずかな隙間から、這い出て来るのに気が付き、完全に姿を表す前に倒した、その後も周囲を確認していたが異常は何も見つけられずにいた。

「下から出て来るのは想定してなかったですね……早急に報告して、対策をこうじなければいけませんね」

 辰巳はそう言い、メモ帳を取り出し、今見つけた事を詳細しょうさいにメモして、それと同時に対策もメモしていた、そのあとも周囲を警戒しつつ、異常がない事を確認し、黒白との合流地点のテニスコートまでたどり着いた。

 かつてのテニスコートも今となっては死者を弔う場所になってはいるが、人にとってはそう言った場所もまた必要なのだ、仮にそれが今しか出来ないとしても、死者を思い、いつくしむ場所は。

 しかし死者に囚われてはいけない、囚われてしまえば命取りになってしまう、時には取り返しの付かない事になってしまう場合もあるからだ、世界がこうなる前は仮に囚われてしまってもどうにかするすべは残されていたが、世界がおかしくなってしまってからは、一人一人が生きる事に精一杯になってしまい、戦うかそれともかと、選択を迫られている、世界も人も少しずつ変わって行く、それは良い方向なのか、悪い方向なのかは誰にも分からない……そう、誰しもが選択を迫られているのだ。


 一方その頃、黒白はと言うと住宅街に続く道を注意しながら見つつ、グラウンド内にもヤツらの姿が無いか見ていた、見ている限りヤツらの影は見当らないが、どこから出て来るかも分からない為、警戒を強くする事に越したことは無いのだ、フェンスを越えた住宅街にはヤツらのような姿が見えはするが、それがヤツらなのかは分からない、しかし、一度視線を外すとその姿は消えている為、気の所為の可能性すらあり、分からなくなっていた。

「少しでも対策をしておいて損はないだろう……技術室とかに木材はあるはずだから、木材や、教室の椅子も壊してバリケードにしてみよう、そうすれば多少はマシになるだろう」

 黒白は周囲を確認しながら、いくつかバリケードを作る案を考えていた、そして。

「バリケード作りまで手伝ったら、出発するか……」

 そう考えていると、黒白もかつてのテニスコートまでたどり着いた……少しの間、空を見ていると辰巳も到着し、情報交換を行った。

「たしかに広いとは言え、バリケードはあった方が良いですね」

「下の隙間を這ってくるのは、予想していなかった」

 正面の方は用水路がある為、校門以外は比較的ひかくてき安全だが、他の場所そうでは無かった、正面の事もあり、心のどこかで安心してはいたが、他の場所から侵入してくる危険性はある事を再確認すると二人は急いでそのことを海藤に伝えに向かった。


 時は少しさかのぼり、校内の状況を調べようと海藤達三人が中に入ると、先ほどの地震の影響で靴が散乱し、花瓶など床に落ちている物がいくつか見受けられた、それらの事は特に気にすることなく、三人はそのまま避難者が多くいる体育館の方に向かった。

 そんな中、渡井は一年生教室に避難している人たちの安否を確認してくると言い、二人とは一度別行動することにしたのだった、そして海藤と国枝の二人が体育館に到着し中を一通り見てはみたが、これと言って大きな以上は無かった、その際に怪我をしている人や、自分たちが居ない間に避難して来た人が居ないかどうかも確認し、最後に二か所の準備室も調べてみたが、物が倒れているくらいで、それ以外は大きな問題も無く二人はその場を後した

 海藤達と離れた渡井はと言うと、一年生の教室は二階と三階に分かれており、二階の方のみ、今は避難場所として使っている、そこの状態を調べに行くのだった、二階に上がりすぐ傍にある教室に入ると掃除用具ロッカーが倒れて来て、それに足が挟まれている女性がいる事に気が付き、急ぎ救助し

「大丈夫ですか?少し待ってく下さいね、すぐにどかしますから」

 ロッカーをなんとか元の位置に戻した。

「痛い所は無いですか?」

 挟まれていた女性に声をかけると。

「ええ、何とか……いっ」

 女性は何とか立ってみたのだが、挟まれた時の衝撃で右足を痛めていたらしく、痛み堪えな《こら》えながら、動いてはみたが、まともに歩行することは困難でその様子を見かねた渡井は。

「肩を貸しますよ、急いで看護師の人たちにみてもらいましょう」

 渡井がそう提案すると、女性は。

「分かりました。お願いします」

 素直に提案を受け入れ、二人は一先ず剣道場に向かう事にしたのだった、道すがら他の教室も見てはみたが、大きな異常は無く、何事も無く目的の場所に到着することが出来た、そして渡井が剣道場に到着するのと同時に海藤達も戻って来た。

「あれ?渡井、ここでどうしたんだ?一年生教室の方を見て来るんじゃ?それにそちらの女性は?」

 海藤は渡井と彼が肩を貸している女性の事を気にしており。

「説明は後にします、一先ずこの人を先生たちに診てもらわないと」

 渡井は剣道場に入って行き、その際に海藤は女性が足を引きずっている事に気が付き、渡井の変わりに扉を開けるのだった。

「ありがとうございます」

 渡井は礼を言いそのまま中に入って行った。

「すみません、誰か彼女を診てもらえませんか?」

 剣道場に入った渡井は、周囲にいる医者や看護師の人たちにそう聞くと篠原が真っ先に反応した。

「どうしましたか?」

 篠原はすぐに渡井の方に近づき。

「こちらの女性が倒れて来た掃除ロッカーに足を挟まれていたので、連れて来たので容態ようだいを見ては頂けないですか?」

 渡井は状況を説明し心配そうに、質問すると。

「そうことなら、先に診てやれ、こっちは今のところ人が足りているから、篠原さんはその後に休憩してくれば良い」

 白衣を来た大柄な男性が慣れた様子で、奥の方から声を掛けて来た。

「分かりました。そしたら二人はこっちに来て」

 篠原も落ち着いた様子で返事をすると、渡井と女性を左側の空いて居るスペースに連れて行くとそこには椅子が置いてあり。

「そこに彼女を座らせて頂戴」

 篠原がそう促すと、渡井は静かに頷き、言われたままに彼女を椅子に座らせた。

「どんな状態だったの?」

 篠原が渡井と女性に詳しく話を聞くために質問すると。

「俺は外から帰って来て、地震の影響を確認したくて、確認の最中に、彼女が倒れて来た掃除用具ロッカーに足を挟まれているのを見つけて、ここまで連れて来ました」

 渡井がそう言うと、次は女性が口を開いた。

「地震が起きる前に、あの教室から椅子と机を出すように頼まれていて、作業していたんです。だけど地震が発生して隠れようとした矢先にロッカーが倒れて来て、足を挟まれてしまって、身動きが出来なくて困っている時に、この人に助けてもらいました」

 彼女は篠原に診察をしてもらいながら説明をすると、何度か痛みを我慢している部分もあった。

「なるほどね……いま見た感じだと、骨にひびが入っている可能性が大きいかな、今の状態であれば数か月で感知するとは思うけど、今のこの状態だとレントゲンも取れないから詳しいのは分からないかな、でも何かで固定しとかないと、危険だから」

 篠原はそう言い、ギプスを使いヒビが入っていると思われる場所をしっかりと固定し。

「これで大丈夫、だけど出来る限り安静にするように」

 そう告げると。

「それじゃあ、しばらく休憩に行ってきまーす」

 そう声を掛け剣道場を後にするのだった。


 篠原が出て行って数分後、黒白と辰巳の二人が海藤を探しに剣道場までやって来た、二人が近づいて来た事に気が付いた海藤は二人に手を振ると、それに気が付いた二人は何も返さずにいた。

「二人とも外はどうだった?中の方は見た感じ大丈夫だったが」

 海藤はその後に校内の状態を共有した、校内の一部では物が散乱してはいるが、今回の地震で怪我人けがにんは数人いたが命に別状は無いとの事、そして死傷者ししょうしゃはおらず、更には黒白達が物資を取りに行っている際に避難して来た人も居ないとの事だった。

「それなら一先ずは安心ですね」

「はい」

 辰巳と黒白はそう言ったあった後に二人が見て来た状況を伝えた、今のところヤツらが侵入してきた形跡は無いのだが、今のフェンスの状態や車の配置ではヤツらの侵入を許してしまうという事

「実際問題、私はヤツらが車の下から這って出て来たところを、仕留めました、今回は一体でしたが、今後の事を考えると更に増える可能性や気が付かない間に侵入を許してしまう事もあります、そうなってしまったらと思うと」

 辰巳は不安そうに言うと、海藤も。

「たしかにその懸念けねんはあるな、黒白はどう思う?」

 海藤は黒白の意見を参考にしたいと考え。

「俺としては車の方から先に片付けた方が良いと思う、向こうであれば隙間を埋めるだけだから、多少は早く終わるだろう、その後にフェンスの方を急いで対処した方が良いと思う、こっちは集団で来られたら、すぐに突破されてしまうと思うから、補強出来そうなものは幸い校内にある物を使えばある程度は何とかなると思う」

 黒白はそう言った後に、使えそうな物資について提案した、それは以下の通りだ

『技術室等にある木材の椅子、理科室にある、丸椅子、各教室の椅子や机、体育準備室で見つけた太鼓などの木材』

 いずれにしても、今の状況では使い道に困る部分もある物なので、バリケードや少しでも自分達の安全の為になるのであれば利用しない手はないだろう。

「分かった、だが本格的にバリケードを作るのは明日にしよう」

 海藤がそう言うと、黒白は不思議そうにしていたが。

「黒白君、私も今気が付きましたが、既に16時を過ぎています」

 辰巳に言われ、空を見上げると、いつの間にか夕暮れ時になっていた。

「こんな時間だったのか」

 黒白は呟いた後に、続いて。

「そうしたら、明日直ぐにでも作業に取り掛かれるように準備だけでもしよう、使える物を運ぶ事くらいは出来るだろうし」

 そう提案すると、海藤たちは黒白の回転の速さに驚愕きょうがくしていた、そして。

「分かった、出来るだけ明日使う物は1階に運んでおこう」

 海藤は黒白の提案を呑み、すぐに行動した、しかし黒白はその前に調理室にいる人々に周囲の安全を知らせてくると言い、一度海藤達と離れるのだった、そして黒白は調理室にいる人々に。

「一先ず周囲は安全だ」

 と伝えてから校内に入り、海藤達が向かった体育館に足を運ぶのだった。

黒白が体育館の中に入ると、そこにいる人々は黒白が避難している人々の為に何を やっているか知らない者や知ろうとしない者が大半の為、皆は黒白の事をまるで腫物はれものを見るかの様に見ていた。

 その中にはかつての友人や近所に住んでいた人も姿あった、黒白はその人たちを尻目に目的の体育館倉庫へと向かった。

 扉を開けるとそこには、太鼓を持ちだそうとする、海藤達の姿があり、辰巳や国枝は太鼓の取り外せる部分を取り外し、渡井と海藤の二人は他にバリケードに使えそうな物が無いか付近を探していた。

 そして黒白はと言うと、扉を取り外そうとしていた、体育館倉庫の扉はどちらも引き戸になっており、簡単に取り外すことが出来る設計になっているのだ、しかし取り外したことによって中で何をやっていたのかが見えてしまい、前に黒白が太鼓や旗などを燃やすと言い、それにたいして怒っていた人たちからすれば冒涜ぼうとくしたと言っても過言では無い。

「あんたら一体なにをやっているんだ‼」

 取り外したことにより、倉庫内でやっていた事が判明し、怒鳴り声が聞こえてきた

「こんなところでやるより、下に持って行きません?下なら道具もあるし」

 黒白はその怒鳴り声を無視して、話し出すと一人の男が黒白に掴みかかってきた、黒白はその手を振り払い

「なにか?」

 威圧的な態度を取りつつ振り返ると、黒白の対応に納得がいかなかったのか至近距離で

「あんた達そんな所でなにをやっているんだ、それに不破!お前も目上の人に対してその言葉遣いは何事だ‼」

 怒鳴って来たが、黒白は少し苛立った様子で、その人物の事を見て見ると、その人の名は 馬屋 鹿畏(うまや かい)と言う男だった、彼は黒白達が避難している学校で教師をしているのだが、黒白が在校していた時に何度も衝突していた男で、衝突していた理由の大半が言い掛かりや思い込み、そして勘違いから来ている事から幾度いくどとなく衝突していた

「なんだ、あんたか……何の用?用事が無いならどっかに行ってくれない?邪魔だし」

 その為、黒白は馬屋の事を嫌っており、馬屋もまた黒白の事を目のかたきにしているのだ

「何の用だと!そんなの決まっているじゃないか、何故お前らは太鼓を分解しているのだ!」

「何故ってヤツらが来た時にバリケードのパーツとして使う為さ」

「バリケードだと!それにヤツらは暴徒と化している人間なのだから、警察や国に任せれば良いだろう」

 馬屋の発言に体育館にいる人々は頷いた、それに黒白や海藤達は驚きを隠せずにいた

「国や警察に任せる?」

 黒白は馬屋の発言に対して苛立いらだちを隠せずに

「ああそうだ、時間が立てばきっと……」

 馬屋はそう言いだしたが黒白はそれをさえぎ

「時間が立てば?何を寝惚ねぼけた事をほざいてやがる!!既に三日経っているんだぞ!それに電話も繋がらない、警察や自衛隊、国が動いている気配もない・・・ここだけじゃない!世界中がこのありさまなんだよ!死者が人を喰らい!噛まれた人は別の誰かを襲う!生き延びたければ、どうにかしてヤツらを倒す他ないんだよ‼」

 怒鳴った、その迫力はくりょくに押された馬屋は数歩、後退あとずさ

「何を言って……倒すだと、そんな事をしたら犯罪ではないか」

 周囲は馬屋の言葉に同意していたが、黒白は馬屋や周囲の反応に驚くというよりは、完全にあきれていた……

「あんたの事は昔から馬鹿だと思ってはいたが、あんただけじゃなくて他の連中も、ここまで現状を理解出来ていないとは正直思っていなかった」

 怒りを通り越していた黒白は。

「すいません海藤さん、ここに居たくないから、さっさとそいつを運びだそう」

 少し疲れた様子で話しかけると、海藤も。

「そうだな、正直ここまでとは俺も思っていなかった」

 呆れた様子で、黒白の提案に同意し、二人は周りの制止に気にも止めずに太鼓を運び出すのだった。

「あんた達、そこまで言うのであれば今日以降、何も食べれなくなると思っていた方が良いぞ」

「どう言う意味だよ」

 渡井の発言に、馬屋の傍にいた男が反応すると。

「お前らがここ数日食べていた食事や、使っていた医療品の大半はあの子が命がけで取って来た物がほとんどだ、それなのにも関わらず、あんた達は自分の事しか考えず、しまいには、ここに避難している人たちの為に行動しているあの子に対して、あそこまで言ったんだ、いい歳した大人なんだから言葉の責任くらい、ちゃんと持てよ」

 渡井もまた苛立ちを隠せずに反論すると、馬屋は。

「そんなはず…無いだろう」

 何とか反論する材料を探していたが、当然見つかるはずが無いのだ、何せここの中学校には給食室と言うものが存在せず、全校生徒の昼食は各自宅から弁当を持参してくる決まりなのだから、パンデミックが起こったその日から、ここには食料なんて存在しないのだ、黒白が命がけで調達して来た物以外は……

 医療品だって限りはある、ゆえに黒白は初日から少しずつ医療品も調達していたのだ、その事実を知ろうともしなかった彼らにとって、今回の事は大きな過ちだ、自分たちの事だけを考え、他者の事を考えようとしていなかった彼らにとって。

「俺も今日、彼に着いて行って感じたが、本当に命懸けだぞ、一瞬の油断が自身の死や仲間の死に直結する、やらなきゃやられるんだよ、自分も仲間も……それなのにあの子は命をけて、ここに居る人々の為に行動している、本来ならば俺達大人が真っ先に動かないといけない事なのに、それなのにあんた達は何も疑問に感じずに、言いたい事だけ言い、それっきりだ、今もあの子はここを守れるように行動しているんだぞ、恥ずかしくないのか」

 渡井の怒りは収まる様子が無く、現実をその場にいる全員に突き付けていた。

「そうですね、黒白君は本当に頑張っています。何を言われようと、ですが今回の事で何となく分かった事もあります。なぜ黒白君が食事を取ろうとしないのか、人がいる場所で休息を取ろうとしないのかも……渡井さん、国枝さん。すみません。私も黒白君の手伝いをしてきますね、これ以上ここに居ると、私も我慢できそうに無いので」

 辰巳も静かな怒りをいだきつつ、静かに離れて行った、しかし国枝達もまた。

「とりあえず、ここにもう用は無いので俺も行きますね、井出さんの言う通り、俺もこれ以上ここに居たくないので、黒白君の事は少ししか知らないけど、あんなに頑張っている人の事をあそこまで傷付け、少しでも現状を理解しようとしない事に正直、呆れてしまったので」

 我慢の限界が来そうだった事もあり、離れて行く直前に。

「わかった少ししたら、俺もそっちに向かううよ」

 渡井がそう返答すると。

「分かりました、海藤さん達にそう伝えておきますね」

 そう返事をし、そのまま階段を下りて行った。

「今後あんたらがどう動くのか、どう思っているのか、あの子がどう動くのか、何を考えているのかは正直分からない、けれどここ数日の間、あんた達も俺たちもあの子に大きな借りがある、それだけは忘れない方が良いぞ…もしもこの中にあの子に謝罪したいと思う人が居るのなら、後でちゃんと誤っておけよ」

 そう言い残し、渡井も出て行った、そして体育館には自分たちの不甲斐なさに思い悩む者、何も知らなかった事に罪悪感を覚える者、そして未だ現実を受け入れようとしない者と様々だった。

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