uリアルn

@raou

第1話

東京​新宿東口、そこは眠らない街歌舞伎町。

その雑踏をかき分け、多くの若者達が足早に行き交う。

尾根龍弥、通称おいねは、その人波に逆らうようにして歩いていた。

ふと目に止まった大型ビジョンに目を配りタバコに火をつける。

[東京では過去最高気温を記録し……]

アナウンサーの声も雑踏に掻き消される

おいね「あぢぃーな ちくしょう」

元暴走族上がりの彼は、汗を拭い悪態をつきながら、今日もいつものようにシノギの現場へ向かっていた。


​同じ頃、歌舞伎町の雑居ビルの一室

スカウト会社『コネクト』その社長室の更に奥にある隠し部屋の中。

コネクト代表取締役︰神堂真虎、通称マコが静かに笑みを浮かべていた。

デスクにはいくつものモニターが並び、街の様子がリアルタイムで映し出されている。

マコ「おいねは、まだか?」

そう呟き、彼は隣に立つ部下に目をやった。

「おそらくもうすぐ着くかと」

部下は緊張した面持ちで答える。

マコは冷酷で合理的、それでいて人望が厚い。だが、その微笑みの裏に潜む冷たさを、誰もが知っていた。

尾根が向かっていたのは、新興ヤクザ『旺介組』の事務所だった。

組長の吉良旺介、通称ラオウは、過激な武闘派で知られていて、若くして頭角を現した男だ。

冷静沈着で計算高く血も涙もない。

尾根は少しばかり緊張していた。

ヤクザとの交渉は常にリスクが伴う。

しかし、彼には守るべきものがあった。

おいね「ラオウさん、時間通りっす」

組長の前に立ち、頭を下げる。

ラオウ「おいね、待ってたぜ」

冷たい目で彼を見つめる。

おいね「今回もいい子、揃えときましたよ」

そう言って、ホステスたちの写真を見せる。

そこに写っている女性たちの表情は、どこか諦めているように見えた。

​交渉が終わり、鞄を受け取り、尾根は事務所を出る。だが、その足は重かった。

おいね「このままでいいのか…」

心の中で葛藤が渦巻く。

義理人情に厚い彼は、利用される女性たちを前に、自分の仕事に疑問を抱き始めていた。

一方、別の場所では、高金利で金を貸し付ける金融会社『カネマルファイナンス』社長

若月龍一、通称ワカが、返済の滞った債務者を追い詰めていた。

ワカは優しさと残虐非道、両面を合わせ持つ男だ。

ワカ「おい、いつになったら返すんだ?お前娘を風呂屋に沈めて、返済させてもいいんだぞ?」

若月の言葉は、債務者の心をえぐる。

「どうかそれだけは」

涙を流しながら若月の足にしがみつき懇願する、債務者は絶望の淵に立たされていた。

その頃、「カネマルファイナンス」の事務員、鵜飼奈々、通称ウナポンは、淡々とPCに向かっていた。

彼女の表情は冷静で、感情を一切表に出さない。

ワカ「今帰った、ウナポン次のターゲットは?」

声をかけると、彼女は静かに答える。

「赤羽凛さんです。風俗店「艶夢」のNo.1泡姫ですね」

その名を聞き、若月は興味深げに口角を上げた。赤羽凛、通称アカリン。

主婦であり、『艶夢』のNo.1でもある彼女は、多額の借金を抱えていた。

赤羽は『艶夢』の従業員である玉城伽羅、通称キャンと共に、客の対応をしていた。

玉城は優しく、今時の若者だ。

キャン「アカリンさん、無理しないでね」

心配そうに声をかけられ、赤羽は笑顔で答える。

アカリン「大丈夫、大丈夫。これくらい、どうってことないよ」

そう言いながらも、彼女の心は借金の重圧に苛まれていた。


​その夜、赤羽は銀座CLUB『LUNA』のオーナーママ、浜崎莉子、通称ハマちゃんと会っていた。

浜崎は財界や芸能界に広いパイプを持ち、老舗CLUBを切り盛りするかなりのやり手で、赤羽とは昔馴染みの知り合いだ。

アカリン「ハマちゃん、どうにかならないかな…」と借金の相談を持ちかける。

静かに彼女の言葉を聞き、やがて口を開いた。

ハマちゃん「アカリン、あなたなら大丈夫、ただ…それには代償が必要になるわ」

その言葉に、赤羽は迷いの表情を浮かべていた。


​一方、『LUNA』のボーイ、夜久京一、通称ヨルボウは、店内の様子を観察していた。

彼は頭脳明晰で、常に冷静だ。

その視線の先にいたのは、過去の全てを誰には語らない謎に包まれたNo.1音羽奏、通称メロディと。

容姿端麗で客に笑顔を振りまくNo.2、是津静乃、通称ゼノだった。

前奏は客に笑顔を向けながらも、その目は冷たく、深い闇を抱えているようだった。

そして、街の一角、交番勤務の巡査、雨宮葉流杜、通称パトは、街の様子を警戒しながらも、女性に目を奪われていた。

パト「ったく、あんな薄着で出歩きやがって何やってんだ…」

そう呟きながらも、雨宮は僅かな胸騒ぎを感じていた。

この街の裏側で何が起きているのか、彼は直感的に感じているようであった。

それぞれの思惑が交錯する新宿の夜。それぞれの人生が、金と欲望、暴力と掟に絡めとられていく。この街で、誰が勝ち、誰が絶望の底に沈むのか。

幕は、静かに開かれたばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る