第二十七話 合宿初日 ― 個々の課題に挑む
夏の終わり、合宿の始まり
八月下旬。蝉の声が弱まり始めたグラウンドに、蒼志館ナインが集まった。
「今日から三泊四日の強化合宿だ」
藤堂監督の声が響く。
新チームになって初めての合宿。
負けた悔しさを胸に、誰もが無言で準備運動を始めていた。
篠原キャプテンが掛け声を上げる。
「よし、いくぞ! この合宿で、それぞれ課題を克服するんだ!」
如月の挑戦 ― 球速アップ
まず俺に課されたのは「フォーム改造」と「基礎体力強化」だった。
高城が練習に顔を出し、アドバイザー役を買って出ていた。
「お前は球持ちが良くなった。でも、それだけじゃ通用しない。鷺沼の打球、忘れてないだろ?」
「……忘れられるかよ」
高城は白線の前に立ち、模範のフォームを見せる。
「球速を上げるには“腕の振り”じゃない。下半身からの連動だ」
俺はその動きを真似して投げるが、バランスを崩し、ボールは大きく外れた。
「ちくしょう……」
「焦るな。如月。初日は体に覚えさせるだけでいい」
腕と脚の動きを意識しながら、投げ込みが続いた。汗が滴り、全身が軋むように痛んだ。
小坂の挑戦 ― バントと足
一方、グラウンドの片隅では小坂がバント練習をしていた。
マシンの球を必死に転がそうとするが、強すぎてピッチャー正面に飛ぶ。
「ダメだ、殺せてねぇ!」
悔しそうに叫ぶ小坂に、篠原が声をかける。
「手首で押すな。最後は球を“置く”んだ」
やり直し。今度は三塁線へ転がった。
「ナイス!」と声が飛ぶ。
そのまま一塁へ全力疾走。ギリギリでセーフ。
「これだ、小坂! お前の武器は足だ!」
佐伯の挑戦 ― 勝負強さ
ネット裏では佐伯がティーバッティングを続けていた。
フルスイングすれば大きな打球は飛ぶ。だがコーチが首を振る。
「お前は豪快だが、ここ一番で仕留めきれなかった。力だけじゃ足りない」
佐伯は唇を噛む。
「じゃあどうすれば……」
「状況を読むんだ。走者がいるときは強引に引っ張るな。逆方向に転がす技術を身につけろ」
彼は逆方向へ意識して振り始めた。最初は凡フライ。それでも繰り返し、少しずつ芯を捉える感覚を掴んでいく。
山根の挑戦 ― リードの幅
キャッチャー山根は、コーチとノートを挟んで話し込んでいた。
「お前のリードは悪くない。ただ、相手が格上だと狭くなる」
「……もっと大胆に、ですね」
「そうだ。失敗も経験になる。合宿でどんどん配球パターンを試せ」
山根は頷き、ブルペンへ向かった。
如月と組み、意図的に「意外な球」を要求してみる。
「今ここでインロー直球だ」
俺は驚いたが、そのまま投げた。打者役の佐伯が見逃す。
「やっぱり効くな」
山根の目に小さな光が宿っていた。
夜のミーティング
夕食後、部屋に戻る前に簡単なミーティングが開かれた。
篠原がホワイトボードに「課題」と大きく書く。
「今日わかったことを言え。明日はそれを超える」
小坂は「バントをもっと正確に」と言い、佐伯は「逆方向を徹底する」と答えた。
山根は「リードの幅を広げる」と記した。
そして俺は——。
「フォーム改造で球速を上げる。……明日は、140を出したい」
みんなが一瞬黙り、それから笑った。
「お前ならやれる」
その声が、胸に響いた。
寮の夜
布団に入っても、頭の中には投球フォームのイメージが繰り返された。
(下半身を使う。腕は後から……リリースをもっと前へ……)
ボールを握る指先に汗が滲んでいた。
(絶対に、鷺沼に打たれたままじゃ終われない。俺は、もっと強くなる)
現在の能力表(如月 隼人)
球速:137km/h
コントロール:B+
スタミナ:B
変化球:スライダー6/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○/球持ち○
備考:合宿初日/フォーム改造に挑戦/「明日こそ140kmを」と誓う
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます