『転生サイドスロー ～左腕の魔球で全国制覇～』

第十二話 県大会初戦 蒼北工業戦（中編）

※前編まで：0−0。二回はレフト前→送り→三塁狙いの当たりを二塁・水島のダイブで阻止。空気はきわめて拮抗。

三回表　蒼北の三巡目を見据える一巡目終盤

　一番から始まる回。山根はサインを出す前に、胸の前で人差し指を一本立てた。

　（“低め徹底”だな）

　初球、外低めへ直球。見逃し。二球目は同じ“入口”から遅らせたスライダーを沈める。バットが前に出て、砂を切る音。0-2。

　三球目はフロントドア気味のシュート。踏み込んだつま先の前、膝をえぐる高さに差し込む。詰まって三塁ゴロ。篠原が一歩で寄って、軽く体をひねり一塁へ——アウト。

　二番。送りもできる器用屋。ここで球数を使わせてくるのが蒼北のいやらしさだ。

　初球、外スラを見てボール。二球目、外直球でストライク。三球目、内シュートをファウルにされる。

　（粘る。外直球をもう一本、目線を上げて——）

　四球目、ベルトライン外の直球。ファウル。

　五球目、外スラをわずかに外して釣る。振らない。

　フルカウント。山根が“時間”を作るように一度立ち上がり、再びミットを低く沈めた。

　六球目、外直球ギリギリ。見逃し三振。主審の右腕が上がり、蒼北ベンチからため息が漏れる。

　三番。ミート巧者。

　初球、外直球を当ててきた。二塁頭上へフラフラ——。

　「俺だ！」水島が背走し、最後の半歩で体を返してグラブへ吸い込ませる。スリーアウト。

　（守りが、俺を助けてくれている）

三回裏　蒼志館の反撃の芽

　八番・水島が初球叩きで三遊間を破る。続く九番・山根は送る構えを見せつつ、相手が前に出た瞬間に引いて四球をもぎ取る。無死一、二塁。

　一番・小坂はきっちり一塁線へ転がして送り、ワンアウト二、三塁。スタンドが色めき立つ。

　二番・篠原。初球、内角高めをファウル。二球目、外スラを我慢してボール。三球目——

　カキン、と鋭いライナーが三塁正面。三塁手が本能でグラブを出し、捕ってそのまま三塁ベースを踏む。飛び出していた三走・水島が戻れない。ダブルプレー。

　（蒼北の“堅守速攻”。これだ）

　ベンチに戻る篠原は悔しげに舌打ちしたが、すぐに顔を上げた。「次、取り返す」

四回表　初めての重圧

　四番・堂前。初球の外直球をライト前へ合わせられる。ノーアウト一塁。

　五番は迷わず送りの構え。俺はクイックで外直球を低く投げ、転がされた球を山根が確実に一塁へ。ワンアウト二塁。

　六番、右の中距離。ここで一本出れば先制。山根は外直球→外直球で“待ち”を作らせ、三球目に内シュート。詰まらせて三塁ゴロ。篠原が前へ、体を止めて三塁へ送る——セーフ。判断が一瞬早ければ刺せたかもしれないが、無理はできない。ワンアウト一、三塁。

　七番、小柄な一年。スクイズの匂いがする。

　（来るか？　来ないか？）

　初球、外高め直球で様子を見せる。バントの構えは見せたが、引いた。

　二球目、さらに外直球。動かず。

　三球目、こちらが焦れて内へ行くと読んだのか——本当に来た。三塁線へ完璧な転がし。

　（間に合う！）

　前へ飛び出し、素手で掬い、ホームへサイドスロー。山根がタッチ。アウト！

　ベンチが爆発する。「隼人、ナイス！」

　返球体勢のまま一塁を一瞬見るが、送らない。二アウト一、二塁。

　八番。初球、外スラを見逃し。二球目、外直球ファウル。0-2。

　最後は低め、もう一段沈むスライダー。空振り三振。

　（**対ピンチ○**が自然に入る。呼吸が、落ち着いている）

　蒼北ベンチのコーチが小声でつぶやく。「あの左、打球反応まで速いのか……」

四回裏　攻め切れない蒼志館

　三番・篠原が気迫の二塁打で口火を切る。

　四番・海斗は初球の外カットを強振、芯を外されて一ゴロ。走者三塁。

　五番・佐伯は外スラを当てるのがやっとで浅いレフトフライ。タッチアップはできない。

　六番・小畑、カウント2-2から内角直球を見逃し三振。

　蒼北のバッテリーは“低め徹底”をこちらにもやり返してきた。スコアボードは依然として0の列が並ぶ。

五回表　細工に細工を重ねる蒼北

　一番から。初球、セーフティ気味に三塁側へ小さな当たり。篠原が猛然と前進、素手で掴み、体勢を崩しながら一塁へダーツ。微差でアウト。

　二番。初球、外直球。二球目、同じ“入口”からのスラ。空振り。

　三球目、投げた瞬間に二塁方向へスタートの気配。バスターエンドランだ。

　（合わせられる！）

　外直球を半個高く。バットの上に球を乗せさせず、キャッチャーフライ。戻る走者。ツーアウト。

　三番は粘って八球目、外スラを引っかけてショートゴロ。スリーアウト。

　蒼北ベンチから聞こえる。「三巡目は“最初の五センチ”を見ろ。最後は見ない」

五回裏　均衡を割る一手が出ない

　七番・水島がスラを拾ってセンター前。八番・山根は送り。ワンアウト二塁。

　九番・如月（俺）は代打を出されず、打席へ。ベンチの藤堂が短く言う。「やれるか」

　うなずく。初球、外直球バントの構えで見せる。二球目も外直球——今度は叩く構えから引いてボール。

　三球目、内角直球を敢えて引っ張らず、三塁線へセーフティ。三塁手が素早く出てきて処理、一塁はアウト。二塁走者は三塁へ。ツーアウト三塁。

　一番・小坂、カウント1-2から外スラに空振り。点にならない。

　（守り合い、読み合い。一本が遠い）

六回表　心臓が静かに鳴る

　四番・堂前。初球、外直球。スイング、ファウル。

　二球目、外スラを見逃し。0-2。

　三球目、内シュート。折れかけたバットから弱いゴロが三遊間へ。篠原が追いつくも間一髪セーフ。ノーアウト一塁。

　五番、送りの構えから引いてヒッティング。外直球を逆らわず左へ。レフト前。ノーアウト一、二塁。

　（初めての“大きい”ピンチ。ここが勝負所だ）

　マウンドに山根、篠原、水島が集まる。

　「低め、低めだ。ゴロでいい。絶対に浮かすな」

　山根の言葉に全員がうなずく。輪が解け、俺は左膝の“返し”を一度確認してからセットに入った。

　六番。初球、外直球を見逃し。二球目、外スラを当てにくる——ファウル。0-2。

　（三球目は見せ球。外直球を半個外）

　手は出ない。1-2。

　四球目、インローへシュート。芯を外す手応え——ゴロが二塁へ。水島→篠原→一塁。

　「二ッ！」

　ダブルプレー完成。二死三塁。

　スタンドが割れるように湧いた。拳を握りかけたが、まだ終わっていない。

　七番。スクイズのサインは十分ありうる。山根は初球から“高め外し”を要求。バントの構え——引いた。

　（二球目、外低め直球。トンネルを見せて——）

　打者は見送る。1-1。

　三球目、外スラ。空振り。

　四球目、もう一段下。砂をかすめるスライダー。

　——ブン。

　届かない。三振。

　**【低め○】**のアイコンが、視界の端に小さく灯った気がした。

　蒼北ベンチの天草（四番）が、静かにバットを握り直す。「次、回せよ。次は俺が決める」

六回裏　最初の“割れ目”

　二番・篠原が粘って四球。すぐさま二盗を狙い——送球がそれる。無死二塁。

　三番・海斗は送りを決めてワンアウト三塁。

　四番・佐伯。蒼北バッテリーは敬遠気味に四球を選び、ワンアウト一、三塁。

　五番・小畑。内角直球で攻められ、2-2から外スラに泳がされ空振り。ツーアウト。

　六番・中西。山根がベンチから短く合図を送る。「初球、逆方向」

　初球、外直球。中西はファウルで粘る。二球目、外スラ。カット。三球目、内シュート——差し込まれながらも一二塁間へ転がす。

　セカンドが前へ、逆シングル。体を回しざまに一塁へ——アウト。

　スタンドの歓声がため息に変わる。

　（いまのも点になる打球だった。わずかに“外”。蒼北の守備はやはり固い）

　スコアは動かず、0−0のまま最終盤へ。

蒼北ベンチ視点（短）

　コーチ：「如月は低めが決まりだした。上では勝負するな。見るな、切れ。最後だけ捨てろ」

　天草：「次の回、先頭を出してくれればいい。俺が返す」

　キャプテン：「機動力は温存。一点勝負だ」

蒼志館ベンチ視点（短）

　藤堂監督：「次の回、如月は球数80手前。あと一回、任せる。高城、後ろを準備」

　高城：「了解」

　篠原：「一点、取りゃいい。取るぞ」

　山根（小声で俺へ）：「低め徹底は正解。次は“最初の五センチ”をもっと揃える。外直→外スラ→内シュート、全部一本に見せろ」

　俺はうなずき、左手の指先で縫い目をなぞった。指の腹が、硬く、確かだ。

この回はここまで。扇の要が落とす合図、夏の陽炎の揺れ、スコアボードに並ぶ零。

次の一球が、試合の均衡を切り裂く。

現在の能力表（如月 隼人）

球速：136km/h

コントロール：B

スタミナ：B（球数80弱、なお余力）

変化球：スライダー5（低め精度UP）／シュート3

特殊能力：奪三振◎／対ピンチ○（発動）／低め○（新）／キレ○／打たれ強さ○／逃げ球／クイック○

メモ：スクイズ阻止で“打球反応の良さ”評価上昇／三巡目へ“入口の統一”深化中