第十二話 県大会初戦 蒼北工業戦(前編)
開会式の空気
夏の陽射しが、グラウンドの芝を鮮やかに照らしていた。
県大会初日。開会式の行進に並んだ蒼志館ナインは、少し誇らしげな顔をしていた。
「いよいよ始まるな……」
篠原の低い声に、誰もが頷く。
俺は帽子の庇を指で軽く押さえ、入場門をくぐった。
スタンドには保護者やOB、地元の観客がぎっしり。
「頑張れ蒼志館!」
声援が耳に届くたび、胸の奥で心臓が大きく脈打った。
相手は蒼北工業。県内でも“堅守速攻”で知られるチームだ。
長打力よりも確実に走者を進め、小技を絡めて得点をもぎ取る。
「油断すれば一気に崩されるぞ」
監督・藤堂の言葉が、脳裏に焼き付いている。
◆
試合開始
プレイボールの声が響き渡る。
蒼志館の守りから始まった。
俺はマウンドに立ち、深呼吸をした。
土の感触、観客のざわめき、照りつける太陽。
すべてを飲み込んで、集中を一点に絞る。
バッテリーを組むのは山根。マスクの奥から鋭い視線を送ってきた。
「立ち上がり、外直球で攻めろ」
サインがすぐに出る。
一回表 蒼北工業の攻撃
一番打者
右打ちの俊足タイプ。構えは小さく、足を速く動かしている。セーフティバントの気配も強い。
初球、外直球。
——スパッ。
ミットに収まり、ストライクの声。打者はバントの構えを見せたが、バットは出ず。
二球目、クイックでインシュート。
バットに当てられ、三塁線へのゴロ。
「バントじゃない、ゴロだ!」
篠原が素早く前進、軽快にさばいて一塁送球アウト。
ワンナウト。
(ふう……まずは一つ)
二番打者
送りバントもできる器用な打者。ランナーなしでも粘ってくるタイプだ。
初球、外スライダー。空振り。
「0-1」
山根がすぐに次のサインを出す。二球目、外直球。見逃し。0-2。
(ここで勝負だ)
三球目、外角低めへスライダー。
——ブンッ。
バットが空を切った。空振り三振。
スタンドから歓声が上がる。
「如月ナイスピッチ!」
胸が少し熱くなるが、すぐに気持ちを切り替える。
三番打者
蒼北工業の中心打者。長打力はないが、チームで一番ミートが巧い。
ここを抑えれば、流れを掴める。
初球、外直球。ファウル。
二球目、内角シュート。詰まった打球が一塁線に転がる。
「ファウル!」
(0-2……追い込んだ)
三球目、外スライダーを要求されたが、俺は首を振った。
「……?」
山根が一瞬驚く。俺は次のサインに頷く。外直球、全力。
腕を振り抜いた。
——ズバァン!
ミットが弾ける音。
主審の右腕が大きく上がった。
「ストライーク、スリー!」
三振。
山根がマスクの奥で微かに笑う。俺は帽子を軽く触り、ベンチへ戻った。
蒼志館の攻撃(裏)
一回裏、蒼志館の攻撃は二番・篠原がヒットで出塁。すぐさま盗塁を決め、チャンスを作る。
だが三番、四番が凡退し、無得点。
スコアは0-0のまま二回へ進む。
二回表 蒼北工業の攻撃
四番打者
がっしりした体格のスラッガー。とはいえ蒼北らしく大振りはせず、確実にミートしてくる。
初球、外直球。ファウル。
二球目、外スライダー。見逃し。0-2。
三球目、内角シュート。
——カキン!
強烈なライナーが三遊間を抜ける。レフト前ヒット。
「ノーアウト一塁!」
スタンドがざわつく。蒼北のベンチからも大きな声が飛んだ。
五番打者
送りバントの構え。
(やはり手堅い……)
俺はクイックで外直球。打者はそのまま転がし、バント成功。
ワンナウト二塁。
六番打者
ここで打てば先制点。蒼北にとっては絶好の場面。
初球、外スライダー。ファウル。
二球目、外直球。ボール。
三球目、再び外直球。打者は引っ張ろうとするが、詰まって三塁ゴロ。
篠原が前進して捕り、ランナーを牽制。送球は一塁アウト。
ツーアウト二塁。
七番打者
打席に立つのは、小柄で俊足の一年生。力はないが、バットコントロールは鋭い。
初球、外直球を合わせてきた。
打球はセカンド横を抜けるかに見えたが——
「取った!」
二塁・水島が飛びつき、グラブに収める。即座に一塁送球。アウト!
観客がどよめく。
「ナイスプレー!」
俺は帽子を取って水島に軽く掲げた。
「助かった」
水島は笑って親指を立てる。
ピンチを切り抜け、スコアは0-0のまま。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:136km/h
コントロール:B
スタミナ:B
変化球:スライダー5/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○(軽度発動)/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○
備考:初回を三者凡退、二回はピンチを背後の守備で救われる
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