No.6 第1話(前編)の感想
(序章の感想タイトルを「第1話」としていましたが、「序章」に変更しました)
それでは本編を読んでいきます。
>第一章 焔ノ宮 葉乃香より、灯を探す、鍛冶師の旅立ち
葉乃香=ハノカ、でしょう。
主人公の名前が伏せられていたのか、これから名乗るのか。
この「葉」の字が、作品タイトルの「葉」に繋がるわけですね。
>第1葉 港町“灯銀埠”にたどりつく、家を出た鍛冶師(前編)──20歳(春の始め)
話数の表示も「葉」と「話」で“ワ”繋がり。小粋ですね。
前回は船に乗って本土から別島へ移動したので、その続きからですね。
>「ハノカ……。
> おまえは、火に愛される子じゃない。
> ……
> あのとき、おじい様が言ってくれた言葉だけが……今も胸に残ってる。
おじい様の回想。
彼女を救う大切な言葉ですよね。
“火”と“灯”が異なる意味合いであることも重要そうです。
> 代々、
> 家族も、仲間も、みんなが信じていた──青い炎を“
あの高温の炎ですか。
ある意味、滑稽な一族となっています。
> その火を使い、帝に捧げる宝剣ほうけんを作ることが、名を継ぐ証であり、誇りでもあった。
> けれど……わたしにはどうしても、その炎の尊さを、心の底から信じることができなかった。
その滑稽さを見抜いていたハノカ。
静かな才能ですよね。
> 二十歳の成人の儀で披露する予定だった、“はじまりの一振り”。
> わたしが打った懐刀は、
> 思いも込めたつもりだったし、まわりのみんなも笑ってくれたのに──
> ……それなのに、わたしだけ、嬉しくなかった。
当たり障りのない懐刀の完成度。
でもそれは目指すところでもなく、拠り所にもならない。
未熟な象徴になっています。
> 熱くて、冷たい……あの神火は。
> ずっと、手が届かないもののように感じていた。
高温の炎ですからただ燃えているだけですよね。
でもこの色を出すには色々と苦労しそうですから崇拝したい気持ちもわかります。
ハノカはここから何も感じられなかったことに、疎外感と焦燥感を抱いているわけです。
> どうして、わたしだけが。
> みんなと同じように、感じられないんだろう──
これ、周囲におじい様と師匠という理解者がいたから気付けたのですよね。
そういう理解者がいなければ迷ったまま残っていたのでは。
ハノカは幸運だったのでしょう。
> 跡を継げば、帝に捧げるための“儀礼用の刃”を打ち続けることになる。
> 形だけの“
> そんな“空っぽの火”で、この先もずっと……
> 家族にも、自分にも、嘘をついて生きていくなんて。
> ……もう、できなかった。
気付いていて見ぬふりはできない。
自分に正直で、正義感も強いのでしょう。
> だから、ただの鍛冶師として。
> “灯”に寄り添う道を選んだ、おじい様の言葉を──信じて。
そういえば、おじい様もかつて、“灯”を追い求めたのでしたか。
ハノカの父が「見つけた」と思い込んでいるわけですから、おじい様とも確執がありそうです。
> そして手紙だけを置いて、名前を残して、家を出た。
> そして
都会から島へ。
便利な生活から不便な生活へ? になるのかはわかりませんが、出奔には相当な勇気が要りそうです。
> 本土を巡るより、離れ島の方が……
飛脚の噂。郵便局員が噂話をするようなものでしょう。
こういう世界設定なら、飛脚は十分に噂を運ぶ伝書鳩でしょうね。
> そう考えて、自分なりの理由をつけてはいたけれど……本当は、分かってた。
> 子どもの頃に一度だけ見た──
> 海の向こうに浮かぶ、あの島の風景が、ずっと頭から離れなかったから。
行先は記憶にある島。
どうしてこの島を選んだのかは、一度、見たときに気になったから。
——すごいですね。気になったから選んだ。
他に噂話も情報もないわけですよ。
神火が見えないと気になって出奔するくらいですから、こういう行動力も納得です。
> あのときより、ほんの少しだけ近くなった海を……
> いま、船の上から見つめている。
無粋な解釈ですが、子供の頃に見た海面よりも、背が伸びて海面を近く見ることができる、という時間経過ですね。
> それから、その島に降りてから──
> ある依頼で立ち寄った
> ──その瞬間。
> 空気が、ぬめるように肌を這ってきた。
話が少し進みました。
依頼を受けた経緯は分かりませんが、訪れた先で何かがあったと。
ハノカの繊細さなら妙な気配でも感じそうです。
> どこか湿った膜まくみたいなものが、まとわりついてくる。
> それに、足首を何かに掴まれているような感覚で、呼吸も心なしか重たい。
生理的に嫌な感じ、というやつですね。
こういう場所からは早く離れたいものです。
> ずっと荷車を引いてきたから……疲れのせい、かもしれない。
>「……あれ、疲れちゃった、のかな……」
正常性バイアスです。
要するに異常があっても「いつもどおり」と無理に解釈して安定しようとする人間の思考です。
> でも、胸の奥のざわつきは、そう簡単に消えてくれなかった。
> 顔を上げると、通りを行く人たちの姿が……どこか、おかしい。
> 顔と体が、わずかにズレて見えた。
いきなり遭遇すると自分の体調不良のほうを疑いますよね、これ。
全員が異常に見えるわけですよ。
> 空気も、重たく濁ってるような気がして。
> ますます息苦しくて、のどが張りついたまま、声が出なかった。
> さっきまでの美しい風景は、なにも変わっていないのに。
> それでも、わたしには違って“視えていた”……。
それでも周囲がおかしいと認識できるのは、ハノカの芯が強いですね。
何が起こっているのでしょう。
>「どうして、こんなことになってるの……」
> 震える指先で、依頼の荷車の手綱を、ぎゅっと握りしめていた。
> 爪が真っ白になるくらい、強く。
訪れた町が幽霊だらけになっている。
古いですけどファイナルファンタジー3のカズスの村みたいな感じです。
(注:訪問当初、村人が呪いで幽霊——画面上は棒人間っぽい何か―になっています)
いきなり変な人ばかりだと驚きよりも恐怖です。
> あのときは、まだ何も知らなかった。
> 希望の奥で揺れていた、小さな不安にも──気づけなかった。
出奔した当初。
当然に、故郷への寂しさや生活への不安も抱えているでしょうけれど、未知への希望もあります。
この小さな不安とは、それとは別の何かなのでしょう。
> ……いま思えば。
> 島に着いたときが、わたしの本当の旅が始まった。
> ──その記憶が、いまも胸の奥で燻くすぶっている。
出奔=島への到着、と認識していましたが、冒頭の船に乗る前も色々あったのでしょうね。
そして今のこのくだりも回想というわけです。
文法:『島についたときが、~』の接続助詞としての繋ぎ方が不自然です。
> その郷に向かう、少し前……。
> “
> 島じゅうの
> わたしは
本題のシーンの始まりです。
唯一の港町ということは、島自体は小さいのかもしれません。
> 船を降りて、石畳の地面に足をつけた……そのとたん。
> 目の端で光を直に見たような、焼けるような痛みが走った。
> 「……いたっ! ゴミでも入ったかな……」
チカッとするやつでしょうか。
車の運転中になると厄介なんですよね(何
> 少し痛みが続いたけど、手の甲でそっとこすっているうちに、おさまっていった。
何事もなかったかのように書かれていますが、きっと伏線です。
> わたしは顔を上げて──その町を見つめた。
>
> 港の開発はもうすっかり終わっていて、記憶にあった町並みとは違って見える。
ここが子供の頃に見ていた島の一部だったわけですね。
時代の流れを感じます。
> 足元をすり抜けた潮風が、ほんのり湿った匂いを運んできた。
> それが頬をなでていく感触に、思わず空を仰いでいた。
> 雲が少ない青空と、
ハノカにとって印象的な街並みなんでしょうね。
> 京は碁盤目ごばんめのように道がまっすぐで、どこへも迷わずに進めた。
> でも、ここの港町は──
> 広場をぐるりと囲むように、あちこちに屋台が並んでいて。
> 奥へ行くと、建物と建物のあいだの道が重なるように続いていた。
都と地方を比べたらそういう印象です。
この時点でハノカが箱入り娘とかお嬢様っぽく思えて、この先に不安を覚えます。
> 異国の雰囲気を取り入れた、島で唯一の港だって聞いていたけど……
> わたしにとっては、すべてが“異国そのもの”みたいに感じられた。
“異国の雰囲気”。
このお話は和風ファンタジーなので建物が江戸時代のような設えなのでしょう。
そこに赤煉瓦が混じっているので異国情緒というわけですね。
> 通りを歩く人たちの中には、見慣れない服を着ている人もいた。
> ふわりと揺れる“すかーと”──お母様が話していた服だ。
洋服も目新しいわけです。
流行っているところを見ると、この町は外国文化には寛容なのでしょう。
> たしかに可愛いけれど、動きづらそうで。
>「いつもの
> お母様は、いつものみたいに少し眉を下げて笑っていたな……。
うん? お母様と自分の回想と、見ているものと、オーバーラップしてます?
ちょっと分かりづらいかも。
>「あ、あそこ、露店の反物たんもの屋さんなんだ。
> へぇ──
これは独り言ですね。
そう聞こえてきたのかと思いました。
> 鮮やかな布が、潮風にゆらゆらと揺れていた。
> 軽やかで、赤や黄の色味が、ひときわ明るく感じられる。
港町って、磯の香りが漂ってあちこちで日干ししてたりして。
干物やらを売っているイメージですけれど、全然違いますね。
外国文化によって別産業が発達している様子です。
> ほかに何があるのかなって、人ごみをぬって見渡していくと──
> 昔立ち寄った飾り屋は、倉庫になっていた。
> ……お父様と一緒に、お母様への贈り物を探しに来たとき。
> 夢中で、その背中を追いかけて、買い物が終わるとそのまま京きょうに戻ったから、思い出せるところは少ないけれど──
> それでも、この港の景色には、どこか懐かしさが残っていた。
あれ? すみません、勘違いしておりました。
遠目に見ただけでなく、この別島に上陸したことがあったのですね。
お店が無くなっているのを見ると時間の経過と侘しさを感じたりします。
でもこの島は発展しているから、それ以上に見るものが増えていそうですね。
> 今では、道の石畳にレンガが敷かれて、観光客の足音が明るく響いている。
> たしか──あの頃は、まだ工事中だったはず。
> そんなふうに過去をたどっていたら、いつのまにか、わたしの足取りまで軽くなっていて。
> 「……なんだろう。ふふ、ちょっと、どきどきする」
> 今は、自分の“見たいもの”を、ちゃんと見て歩ける。
> それだけで、何もかもが、少しずつ変わってきた気がする。
昔は父親の背を追うだけの訪問だったけれど、今は自由のまま。
ちょうど父親に縛られていた今までとこれからの対比ですね。
> だけど……つい笑っていたら、お父様の口ぐせを思い出してしまった。
> ほんの数日前まで、当たり前だった日々。
そんなことを思っていたら父親を思い出してしまいました。
> あれは、鍛冶仲間の納品を一緒に手伝った日だった。
> 帝に呼ばれていたはずの父が、いつもより早く帰ってきて──
> 鍛冶場に戻る途中、険しい顔で立っていた父に呼び止められた。
> 『ハノカ! “
> 良しと声をかけるまで、罰として、鋼板を打ち続けることだ』
跡取りが仲間(下っ端)の仕事を手伝うと下積みの修行をさせられる。
あれ? やっていることは同じなのでは?
> 熱した四角い
> その晩には、お箸も持てないほど、腕も足も痺れていた。
> それでも……
厳しい修行だったようですね。
それでも慣れてしまうのはハノカに適正があるのでしょう。
> 「最後にやったのは……いつだっけ。十七とか、だったかな。
> もう……そういうことも、言われないんだ……」
> 空を仰いで、潮風をすぅ、と吸い込んだ。風に揺れて朱色の羽織も一緒になびく。
> 生まれたときから続けていたから、修行は苦じゃなかった。
> だけど今は……胸の奥のつかえが、ほんの少し、和らいだ気がした。
胸のつかえが和らぐ。鬱屈した世界からの解放感。
例えば受験が終わって勉強から解放されたような、光が見えたところなのでしょう。
よほど父親の方針が苦痛だった面があったからこそ、こう感じたわけです。
それでも下積みがないと技術は上達しませんから、厳しくされたことには複雑な心境でしょう。
>「いらっしゃーい! 美味しくて、食べやすい串焼きあるよ〜!」
>「わっ──びっくりした……っ」
> 屋台の前を通ったとたん、耳をふさいでも届いてきそうな、おばさんの朗らかな声が響いた。
> ──こういう賑やかさも、この港町らしさなのかもしれない。
驚いているところで冷静な分析。
厳しい修行の成果でしょうか、多少のことでは動じないのかもしれません。
> 香ばしい匂いの合間から、ふわりと甘い香りが混じってくる。
> 目を向ければ、少し離れた屋台で──鈴の形をした、素朴なお菓子が鉄板の上をころころと転がっていた。
> 思わず足がそちらへ向きかけて──ある事を思い出して、立ち止まる。
> おばあ様が仕立ててくれた、四葉柄のガマ口を取り出して、中を確認した。
お財布も手作り。
前近代ですから当然なのですが、ちょっとした価値を感じてしまいます。
>「……こういうときは、手持ちを見てから、だよね」
> ──最初のお宿探しのときは、見た目だけで決めてしまって。
> あとで、小さな村の格安な宿にびっくりしたんだった。
>
> それから何度か泊まり歩いて、乗り合い馬車と、ここまでの船代も払って──
現実に戻ってきました。
値段の比較ができるあたり、箱入り過ぎず、市井に出ていたのでしょう。
でも、仕事をしなければ減る一方です。
>「……そろそろ、ちょっと気をつけないと」
> お昼は、船の中で軽くすませたけど……。
> 今日は、お菓子よりも先に、お宿を見つけたほうがいいかも。
> 鈴のかたちのお菓子を口に入れながら、“すかーと”を揺らして歩く女の子たちを横目に──
> わたしは、赤煉瓦あかレンガの建物と、白くて背の高い建物の間──細い小路こみちへと足を向けた。
鈴カステラですかね……?
鈴まんじゅうとか、色々想像できますが詳しく書いてません。気になります(何
買い食いお散歩しながら路地へ……
> 入り口の方は明るいのに、音がすうっと消えていく。
> まるで、光まで吸い込まれていくみたいだった。
>「……ここで、合ってる……はず、だよね」
> 船で会った行商人が、「名前を出さなくても働ける仕事がある」って、そう教えてくれた場所。
なるほど、怪しい場所へ踏み入れたのはそういうことでしたか。
本家からの追手は気になりますよね。
> でも空は明るいのに、どこか空気が違っていた。
> 少しだけ足が止まりかけたとき、小路の奥から、紙を手にした若い男の人たちが歩いてきた。
そりゃ、そんな怪しいところへ行けば怪しい雰囲気になります。
これは覚悟が足りないのでは。
>「シケた仕事だ」「やらないよりマシ」──そんな声が、耳に引っかかった。
> すれ違った瞬間、二人の体が一瞬、歪むように視界が揺れた気がした。
> ……考えすぎ、かな。早く行かなきゃ。
一瞬、殴られたのかと思いました(笑
回想前の、人に影が重なる現象がここで見えたわけですね。
> 鞄のひもを握り直して、ふぅ、と息を整える。
> 男の人たちが通った、薄暗い小路を進んだ。
そういえば前近代和風ですが鞄なんですね。
荷物は籠とか風呂敷を想像していました。
> 通りの角には、古びた掲示板が立っていた。
> 雨風にさらされた木枠には、新しい紙と、色褪せた紙が重なって貼られていた。
> 掲示板を覗き込んでいた人たちが、次々と立ち去っていく。
> その流れに紛れるように、わたしも前へと足を運んだ。
依頼掲示板、でしょうか。
場末の商売に手を付けに来てしまいました。
以上が第1話(前編)です。
港町について場末の依頼場所を訪問するところまで、ですね。
半分くらいが回想でした。
この作品、繊細に描かれているところが作風で好ましいところです。
ただ、序章とこの第1葉(前編)前半部分で被っている内容が多く、少しくどい印象を受けました。もし改稿されることがあるようでしたらご参考ください。
続きを読んでいきます。
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