22:Double Header

銃声が響く。

サーバールーム前の通路に、金属の咆哮がこだまする。


両腕に銃火器を装備した機体――GV-11Aが、連射を開始していた。

その銃口は殺意をもって一直線にライラを狙っている。


ライラは身を低くし、備品用の棚の裏へ滑り込む。

弾痕が金属板を穿ち、火花を散らす音が近くで弾けた。


続いてHR-22Rが迫る。

肩部装甲が異様に分厚く、床を揺らすような足取りで突進してくる。


横に跳んで回避。

HR-22Rは壁に衝突したが、巻き込まれたラックはひしゃげ、壁は大きくひびが入る。


HR-22Rを強く蹴ってみるが、装甲は厚く、少し後退する程度で、そのボディに凹みすらない。

そこへ回り込んできたGV-11Aが撃ち込んでくる。

間一髪で回避し、机に隠れる。HR-22Rの装甲なら巻き込まれても銃弾は弾かれるようだ。

この二体の連携をどうにかして攻略しなければならない。


「銃の方を狙ってもデカいのが邪魔だし、デカいのを狙っても銃が面倒……

そもそもデカいのは効かないし……」


その時、イヤモニからロウの声が割り込んできた。

『よーし、状況は把握した。コイツらには生体認証がついてる。』


「生体認証?」

『主犯の情報が登録されてるってこと。

つまり、あいつのことは撃てない……たぶんな。ここまで言えば分かるだろ。』


「そうだけど……たぶんって何!?」

『物は試しだ。 まさか銃弾を避けて倒すなんてことはできないだろ。』


ライラはため息をついた。遮蔽越しに、縛られたままの主犯をちらりと見る。

「……わかった。」


ライラは遮蔽物から身を起こすと、縛り上げた主犯の襟首をつかんで引き寄せた。


「ちょ、ちょっと待て! 何を――」

主犯が叫ぶより早く、彼女はその身体を持ち上げ、射撃中のGV-11Aの正面に突き出す。


「お、おい、俺を巻き込む気か!? 非人道的だぞ!」

詐欺師アンタが言えた立場じゃないでしょ!」


瞬間、GV-11Aの銃口がぴたりと止まった。

規格通り、生体認証ブロックが作動している。金属の瞳が警告灯のように淡く瞬く。

その背後、HR-22Rが重装甲を軋ませながら接近してくる。

床を揺らす足音が、もう間近に迫っていた。


「それっ!」


ライラは主犯をそのままGV-11Aに向かって突き飛ばした。

バランスを崩した主犯がよろけ、ロボットの足元へ転がり込む。


その瞬間、彼女は身を低くして宙返りを打つ。

HR-22Rの巨大な腕が振り下ろされるより早く、ライラの身体はその軌道を抜け、背後に着地した。


これでGV-11A―HR-22R―ライラとなる位置取りができた。

『なるほど、それなら銃撃を防ぎつつデカブツを相手にできるな。』

「そういうこと。」


『それで、そいつを倒す手段はあるのか?』

「ある!」


HR-22Rの鈍重な一歩が床を震わせた。

真正面から来る突進ではない。ライラの一歩右に誘導されたことで、巨体がわずかに進路をずらした。


ライラはそのタイミングを見逃さない。

わざと姿勢を崩したように見せて、前のめりに転がる――その刹那、HR-22Rの右腕が上から振り下ろされた。


空振り。


ライラは地を蹴り、上方向へ伸びた腕の下へ滑り込む。

がら空きになった胸部へ、両腕を沿わせた。


肘から先に、紫電がほとばしる。


「――エクスプロージョン・バースト!」


轟音とともに、HR-22Rの巨体が前方へ弾かれるように吹き飛んだ。

そのままGV-11Aに激突。火花と金属の破裂音が響き、二体まとめて崩れ落ちる。


床には、ぐしゃりと潰れた金属片と、赤い警告灯が点滅していた。

巻き込まれる寸前で転がり抜けた主犯が、呆然とその様子を見つめていた。


『……なんだそりゃ? 必殺技なのは分かるが、そんな趣味があったのか……』

床に散らばったロボの残骸を横目に、イヤモニからロウの呆れた声が飛んできた。


「好きで言ったわけじゃないから! 真似しただけだし! ちゃんと、このあと考えるから!」

顔を真っ赤にしながら、ライラは必死に言い返す。


『おう、是非聞かせてくれ。“エクスプロージョンなんとか”よりマシなやつをな。ついでに録音しといたぞ。』


「やめてよ! 後で蹴り飛ばすから!」

うなるように反撃するも、ロウの笑い声が返ってくるばかりだった。


『わかったわかった。ほら、はやくサーバールームに向かうんだな。』

「……もう最悪っ!」


パタパタと両手で顔を仰ぎながら、火照った頬を冷まそうとする。

視線を落とせば、そこには唖然とした顔のまま固まっている主犯がいた。


「さてと――ほら、アンタにはまだ役目があるから。ついてきなさい。」

ライラは縛り上げている主犯を引っ張り、床を鳴らしながらサーバールームの扉へと向かっていった。



***********************************************************************************

【GV-11A】

汎用警備用に設計された射撃型警備ボット。

両腕に中口径の電磁加速ライフルを装備し、高速かつ正確な射撃を行う。

生体識別による誤射防止機能が搭載されており、登録済み人物には反応しない。


【HR-22R】

近接迎撃を目的とした重装型警備ボット。

重厚な外装と衝撃吸収構造で並の攻撃を無効化する耐久力を誇る。

一撃ごとの動作は重いが、ラッシュ時には突進力と制圧力を兼ね備える。

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