第35話 そばにいて
「……でも」
私は、あなたにそう言ってもらえる資格がない。
「ねぇ、ソフィア」
リッカルド様が私に近づく。
「僕は、君が好きだよ」
もう一度同じ言葉をまっすぐに伝えられて、息ができない。
「ソフィアが好きなんだ」
リッカルド様が、私の手に、触れる。
「……あ」
手から力が抜けて、剣が滑り落ちそうになる。
その柄を掴み、リッカルド様は剣を地面に置いた。
「何度だっていうよ。……僕は君が好きだ」
再び、私の手に、触れる。
「……それで、あるべき姿って、なに?」
「……それ、は」
メリア様とリッカルド様が想い合う、世界。
私が奪った、私が壊した、かつての世界。
「ーーねぇ、ソフィア」
リッカルド様は私の手を強く握った。
「ソフィアは、僕のことが好き?」
「……はい」
嘘はつかない。
もう、嘘をつくことはできない。
「うん。僕も、君が好きだよ」
リッカルド様が嬉しそうに黒曜の瞳を細めた。
ーーああ。
その瞳に映ったらどんな気分だろう。
そう、夢想したことは星の数ほどある。
「……だから。だからね、ソフィア」
リッカルド様は、握った手を引いた。
「!!」
思わずバランスを崩して、リッカルド様の方へ倒れ込む。
すると、強く抱きしめられた。
「……どうか、僕の今の気持ちを否定しないで」
リッカルド様の、今の気持ち……。
「君が過去にしたことがもし罪で、君が罰を受けなければならないというのならーー」
ーー僕は、君よりもっと罪深い罪人だ。
「……え?」
囁かれた言葉に瞬きをする。
リッカルド様が、罪人?
「君という妻がありながら、不貞を働いたんだ。罰せられるべきだ」
「でもっ、でも、それは私のせいで……」
私がいなかったら、リッカルド様とメリア様は、不倫なんてしなかった。する必要もなかった。
「ううん、違うよ。僕らを夫婦と定めたのは、君じゃない。女神だよ。そして、僕は妻を迎えておきながら、不倫をした最低野郎だ」
「ちがいます! 私が、わたしーー」
私のせいで、二人は。
思い出すのは、溺死体。
どこまでも穏やかな顔をした、二人は。
「ソフィア、僕を許さないで」
「そんなこと……!!」
そもそも、リッカルド様とメリア様を引き裂いたのは、私だ。
原因を作ったのは私なのに、許す許さないもない。
「……僕のそばにいて、ソフィア。ごめんね、君を傷つけたのに、こんなことを願う僕は罪深い」
リッカルド様はぎゅ、と強く私を抱きしめると囁いた。
「ーー君が、好きなんだ。どうしようもなく、君が」
「……リッカルドさま」
……でも。でも、私は。
「君がしたことが罪なら、僕もその罪を背負うから。……だから、ずっとそばにいて」
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