第33話 軽率に
ただ、走った。
走って、走って、走って。
ようやく、森に着いた。
空を見上げると、日が高く上っている。
もう授業が始まってる時間だった。
「……約束、やぶっちゃった」
明日も明後日も学園に来てって言われたのに。
それが最善のことだって、言ってくれたのに。
「――でも」
でも。
リッカルド様がそれで私を許してくれる日が、いつか来ても。
そのいつかまで、私が幸せであっていいはずがない。
私は、どうしようもなく罰せられるべきで。
幸せになるべきひとじゃない。
「……よし、」
少し伸びてきた髪を、結ぶ。
魔獣の心臓。
魔獣が稀に落とす、魔力の結晶。
それを三百――ううん、五百か千かわからないけれど。
もっと、もっとたくさん集めて。
それを私が食べてしまえば。
私が神様になれれば、全部、やり直せる?
正しいあるべき世界にできるのだろうか。
目を閉じる。
その瞬間、浮かんだのは、昨日のリッカルド様だった。
――僕は、君が好きだよ。
「……っ!」
首を振って、思考を切り替える。
たとえ。
――たとえ、そんなのただの憶測で、本当はそんなことないのかもしれないけど。
私がしていることは、どうしようもない悪あがきで、リッカルド様をただ失望させてしまうだけなのかもしれないけれど。
……でも、それでも。
「……やる、しかないわ」
だって、私は私が許せない。
これ以上、幸せになるなんて、烏滸がましいこと。
許さない。許せない。
「ごめんなさい……」
私は。
あの日、リッカルド様を、メリア様を殺した。
直接手を下したわけではない。
でも、きっと私が殺した。
だから。
――許されなくてもいい。
ううん、許されるべきじゃない。
だけど、せめて……、あなたに抱いた恋心に恥じない私になりたい。
そのためには、やっぱり、この世界をあるべき姿に戻すのだ。
リッカルド様とメリア様が、想いあっていたあの世界に
「!」
――グルル。
低い唸り声がした。
聞き慣れたその音は、魔獣の唸り声だ。
10……いや、15かな。
私という餌をじりじりと取り囲んでくる、魔獣の気配。
腰に差した剣に手を伸ばす。
はっきりとは見えなくても、気配でわかる。
あと10秒くらいで、いっきに間合いをつめるつもりだろう。
10……9……8……7……。
心の中でカウントを取る。
剣をしっかりと握りしめて、魔獣を薙ぎ払うために意識を集中させた。
4……3……2……。
1……来る!
――その、ときだった。
『ひれ伏せ』
たった、一言。
その一言で、私を取り囲んでいた、魔獣の気配が消えた。
いや、違う。
肌をぴりぴりと焦がす力に圧倒されたのだ。
「くぅーん」
まるで、ただの犬のように獰猛な魔獣たちが、伏せている。
その声の主は、ゆっくりと、私に近づき、首を傾げた。
『ここで、何をしている。――ソフィア』
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