第21話 茶番


 翌朝。

 昨日はいつもよりかなり早く女子寮に戻ったからか、いつもより体が軽い。


「……ふぅ」


 今日も一日がんばろう。

 すべては、リッカルド様が死なない世界を作るため。

「心臓を集めなくっちゃね」




◇◇◇


 私は今日の授業に出席せず、魔獣の森にきていた。

 今までわりとまじめに学園生活を送っていたけれど、考えてみれば、私にその必要はない。


 もちろん、両親に実家に連れ戻されない程度の成績と出席率は必要だ。

でも、私の一番の目的は、三年の間に――いやもっとはやく、三百個の魔物の心臓を集めること。


 だったら、学園生活なんて、結局のところ茶番だ。 


 なんで今までそうしなかったかというと、リッカルド様を少しでも長く見ていたかったから。

でも、リッカルド様にも嫌われてしまっただろう今、ようやく覚悟が決まった。


『ソフィア』

「なぁに?」


 悪魔が姿を表した。


 じとりと私を睨む、その顔は明らかに不満げだわ。


『なぜ、学園にいかない?』

「なぜって、学園にいっている間も、魔獣を狩れば、もっとはやくあなたを神にできるのよ?」


 それに、そうしない理由がないもの。


『いいのか? お前は本当に――』


 悪魔って、やっぱり悪魔らしくない。

 私は思わず苦笑しながら、悪魔を見た。

「もしかして、悪魔って、私が魔獣の心臓を三百個集められるとおもってなかった?」


『……!』


「ふぅん。図星なのね」


 こんなに焦った顔をする悪魔は初めてで、笑ってしまう。


『――ソフィア』


「なに、悪魔。私との契約を、忘れたとは言わせないわよ。そもそも、時を戻してくれたのも、あなたが神になりたいからでしょう?」


 神、という言葉を聞いたとき、悪魔の瞳が揺れた。


『……そう、我はかつて神とよばれたもの』

 あれ?


 最初に聞いたときとは、若干違う言い回しに、何か引っ掛かりを感じる。

 けれど、浮かんだ引っ掛かりは、悪魔の悲しげな顔に霧散した。

「だったら、いつもみたいに、不遜な態度で待ってなさいよ。そんな顔、あなたには似合わないわ」


『……』


 悪魔は黙って、私を見つめる。


『……ソフィア』

 そして、絞り出すような声で私を呼んだ。


「ん?」

『お前には――幸せになってもらわねば』


「悪魔?」

 悪魔は俯いた。


『そうでなければ、――て、――までした意味が……』

「悪魔、どうしたの?」

 悪魔の言葉は、小さく早口で聞き取りにくく、いくつか聞こえなかった。



『いや……なんでもない』

 そういって顔を上げた悪魔の顔は、いつもの皮肉げな表情を浮かべていた。


「悪魔?」

『お前に来客のようだぞ』


 そういって、ふっときえる。

 それから、少しして聞こえてきたのは……。


「ここにいたんだね、ソフィア嬢」

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