第13話 頭突き

そこで、私がとった選択は。

「……そう、でしたか?」

 首をかしげる。何とかしてこの場をやり過ごすしかない。

「そうだよ」


 けれど、リッカルド様はそんな私を見て、目を細めた。

 私の指に、リッカルド様の指がからめられる。


「!」


 思わずびくりと体を揺らした。

「僕に手段を選ばなくさせたのは──君だ」

「私、は……」

 私は、ただあなたに生きていてほしくて。

 けれど、喉が乾いて言葉にならない。


「ねぇ、ソフィア嬢」

 リッカルド様は、そっと囁く。

「君を閉じ込めてしまおうか」


 またまた、ご冗談を~。リッカルド様にはメリア様がいらっしゃるじゃないですか。


 ……なんて、いえる雰囲気じゃない。


 代わりにでてきたのは、

「ど、して……」

 どうして今のあなたが私に執着するのか。


 わかりきったことを問う、言葉だった。


「……そう。あれだけ言ったのにわからないんだね」

 いや、わかってる。

私が自分を蔑ろにするから。

蔑ろにする人を、自分を粗末に扱う人を、リッカルド様は許さない。赦せない。


 ……でも。でもね。

「リッカルド様は……」

「うん?」

「私のようなものがいる度に、いちいち婚約を結ぶおつもりですか?」


 い、言っちゃったー!!!


 声に出してからしまったと思うけれど、もう遅い。一度でた言葉は取り消せないのだ。


 でも、でもね、リッカルド様。

 私たちは、もう子供とは言えない年だ。

 自分の責任は、自分で持たなくてはならない。


 だから……。


「……君は、僕のことをそんな風に思ってるんだ」


 君の考えはよくわかったよ、と言われた。

「まさか、僕が誰にでもこんなことをすると思われているなんて」


 ――こうすれば、伝わるんだろうか。


 リッカルド様は囁いて、顔を近づけた。


 リッカルド様の長い睫毛がふれそうになるほど、近い。


 けれど、それを意識する前に──。

 鈍い音を立てて、私の額とリッカルド様の額が衝突した。否、衝突させた。

「!?」

 リッカルド様が驚いた顔をして、私から距離ができる。

その隙を見逃さなかった。


「申し訳ありません、リッカルド様! 私、とても大事な用事を思い出したので、これで!!」

 ベッドから転がり落ちるようにして、その場を去る。


「はあっ、はあっ……」

 全力で女子寮までをかけた。


 心臓がどくどくと脈打っている。


 その理由が、走っているせいだけではないと知りながら、私はその感情から目を、逸らした。




◇ ◇ ◇


 ──今日は散々な目に遭ったわ。

 自室に戻り、息をはく。


『ソフィア』


 自室では実体化した、悪魔が不機嫌そうな目でじっとりと私を見ている。

「……わかってるわ」

 ちゃんと、わかってる。


 私は、悪魔の贄だ。それ以上でも、それ以下でもない。


「私は……」


 あなたが生きていてくれる世界を作る。たとえ、あなたに嫌われようと。

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