第3話 入学式
――ああ。もう一度リッカルド様に会えるなんて。
喜びを噛みしめながら、リッカルド様に微笑む。
私は、あなたを喪わないためだったら、なんでもできる。
どうしようもなく、あなたが、好きだから。
「……僕の名前、知ってるの?」
驚いたように、リッカルド様が眉をあげた。
……当然だわ。
私は、あなたに恋をしている。
そして――そんなあなたを一度殺してしまったのだから。
「公爵子息さまの名前くらい、憶えておりますよ」
微笑みながら、さも当然のようにそういう。
すると、リッカルド様も納得したようだった。
しばらくリッカルド様とお話しした。
それは、今後の予定などの他愛ない話だったけれど。
お話しできたことが、とても、嬉しかった。
男女別に整列しなければならなくなったので、リッカルド様と別れてホールの右にいく。
その途中で、マリーが心配そうな顔をした。
「ソフィア、大丈夫?」
「え?」
そっとハンカチを差し出された。
……どうして、ハンカチを?
疑問に思いつつ、ハンカチを頬にあてる。
「!!」
そのときになって、はじめて気づいた。
涙が流れていたのだ。
「悲しいことがあったわけじゃないの」
マリーに首を振る。
「だから、大丈夫。ありがとう、マリー」
むしろ、嬉しいことだわ。
だって、リッカルド様はまだその瞳に絶望を浮かべていない。
その黒の瞳は、私が惹かれたのと同じ、柔らかな光をたたえていた。
もう二度と、あんなリッカルド様の瞳は見たくない。……だから。
マリーにお礼をいって、ハンカチで涙を拭う。
……よし。ここから、がんばらなくちゃ。
魔獣の心臓を300個早く集めて、もう女神の加護をいらない世界を創るんだ。
そうしたら、リッカルド様は、笑って暮らせるはずだから。
◇
入学式を終え、マリーと別れて、魔獣騎士科の教室へ行く。
クラスメイトたちを見ると、今年は女子生徒は私だけのようだった。
……そうよね。女性はたいてい淑女科だものね。
でも、伯爵家の末娘で、まだ、恋人もいない私。
そんな私が、この国で騎士として身を立てようと考えることはあまりおかしいことではない。
学科は途中で転科もできる。
だから、どうせすぐに、淑女科に変わる……とは思われるだろうけれど。
もちろん、そんなつもりはない。
私は魔獣の心臓を300個集めなければならないから。
教室で担任の先生から今後の予定の説明を受け、解散する。
「うーん」
予定表をみながら、考える。
三年以内に、魔獣の心臓を300個集めなければならないのに、魔獣の森に行く回数が少なすぎるわ。
「やっぱり、夜……?」
魔獣学科には、寮の門限が適用されない。
学園の東にある魔獣の森に夜に個人的に行って集めるしかなさそうね。単純計算で一年間に100個集めるなら──。
「なにが、夜なの?」
「!」
考え事をしていると、急に話しかけられて驚いた。
「リッカルド様?」
「ソフィア嬢が、何か悩んでるみたいだったから、気になって」
そういって、リッカルド様は笑う。
リッカルド様はとても、人好きな性格なのだった。
「いえ、なんでも……」
慌てて書き込んでいた予定表を後ろに隠す。
「そう?」
「はい」
リッカルド様は、不思議そうな顔をしたけれど、それ以上追求はしてこなかった。
「ソフィア嬢、もう暗いから、女子寮まで送っていくよ」
「い、いえ! 大丈夫です。これでも魔獣騎士科の生徒ですから」
確かこの時点では双方好意を抱いているだけで、まだ、お付き合いはされていなかったと思うけど。メリア様に悪いし。
慌ててぶんぶんと首をふると、その必死さがおかしかったのか、リッカルド様は、ぷはっ、と笑った。
「大丈夫だよ、送り狼にはならないから」
いえ、別にそんなことを心配しているわけではないんだけど。
それに、リッカルド様になら……なんて、考えるだけ烏滸がましいわね。
私が、考えなければならないのは、リッカルド様の幸せだけなのに。
赤くなったり、青くなったりしている私に、またひとつおかしそうにリッカルド様は微笑んだ。
「いこうか」
そういってエスコートされるがままに、女子寮まで送ってもらったのだった。
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