第4話

 俺は魔王の息子として生まれた。

 魔族の血を引く者として、父の後継として、人々に恐れられる存在として。

 けれど、俺は知っていた。

 未来を垣間見る力を持つ俺には、ただ一つの結末が幾度となく突きつけられていたのだ。


――勇者の剣に倒れ、無惨に地に伏す自分の姿。


 何度も足掻いた。

 だが、運命は必ず同じ場所へと収束していく。

 ならばせめて、誰かの盾として果てることで意味を残したい。


 戦場は炎と絶叫の渦。

 勇者は白銀の鎧を輝かせ、光の剣を振り上げた。


 その刹那、背後から仲間の悲鳴が響いた。

 振り返れば、魔族の兵が勇者の一撃に晒されようとしていた。


 考えるより先に、身体が動いていた。

 俺は仲間を庇うように前へ飛び出した。


 閃光が奔り、世界が焼ける。

 次の瞬間、胸に鋭い痛みが走った。

 勇者の剣は仲間を貫く代わりに、俺を深々と穿っていた。


 仲間は無事だった。

 その姿を視界の端に見て、わずかに安堵の笑みがこぼれる。


 だが――結末は変わらなかった。

 未来で何度も見た通りの光景。

 胸を穿つ剣。流れ出る血。

 何も変わらない。


「……守れた、か……」


 声は掠れ、すぐに血に溶けて消えた。

 誇りを示せたはずなのに、胸を満たすのは冷たい虚しさだけだった。

 守ることすら、この筋書きの一部だったのだ。


 勇者の瞳は一瞬だけ揺れた。

 だが、その剣は揺るがなかった。


 暗闇が迫る。

 最後に胸をよぎったのは、どうあがいても抗えぬ筋書きへの絶望だった。


――俺の死に意味はない。


 そうして俺は、深い闇に沈んでいった。

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