第47話 爆発音と救難信号、こんな時でも、先に駆け付ける
ユリウスたちリーダーは、爆発音のした方へ行こうと言い出した。救難信号が上がったからだ。おそらく十組と十一組だろう。
ところが、こちらの組の中に動こうとしない女子がいた。
ベルタだ。「あっちにだって冒険者がいるんだから任せたらいいでしょ」と言って、自分たちを避難させろとフランクに命令する。
十四組のクラーラは怯えて足が動かないようだ。ビルギットが「なんのために参加したのよ、度胸を付けなさい!」と発破を掛けている。
ゲアリンデは女子ながら「行きますわよ!」と前に出た。釣られて十五組の女子も従っている。
一年の男子の中には震える子もいたが、なにしろリーダーが行くと言っているし、ゲアリンデのようにやる気の女子がいるので断れないようだった。
音のした方向を見るため、シロイが木に登った。
「すり鉢状の底から煙が出てる。あ、学校の子たちが、ばらばらに逃げてる気配があるよ。冒険者は、動いてない?」
「なんだと!」
「待って。なんだか様子が変だよ。エイプが興奮してる」
「俺たちは先を急ぐ。お前、そのまま木の上をいけるか?」
「うん!」
ユリウスに言われて了承する。
下の方で「なに、あの子、まるで猿みたいだわ」という声がした。ベルタだった。
すると、ヴィルフリートが振り返って彼女に注意した。
「守ってくれる冒険者に向かって失礼だろう」
「そんなこと……」
「あなた、ダンジョンの中でまで皆の邪魔をするつもり? 静かについてらっしゃい! 怖ければ、一人で待てばよろしいのよ」
「なんですって?」
「ヴィルフリート、その女どもを黙らせろ!」
「俺に指図するな」
木の下で混乱が続く。
一括したのはフランクだ。
「そんな場合じゃねぇだろ。さっさと、助けに行くんじゃなかったのか?」
「行きます!」
「ぐっ、分かってる。アルベルトも先に行ってくれ」
「おう。皆、行くぞ。ゲアリンデ嬢もこっちに集中してくれ」
「分かりましたわ」
「ふんっ、何様よ」
ゲアリンデがアルベルトに呼ばれて場を離れると、途端にベルタが悪態をつく。
シロイは呆れた気持ちになりながら、枝を蹴った。
密集した木々が多いから、確かにベルタの言った通り「猿のように」動ける。彼女の台詞に傷付くことはなかったけれど、ヴィルフリートが注意してくれたのは嬉しかった。
シロイはふふっと笑いながら木々を飛び移った。途中でファビーをリュックから出す。彼は魔法が自在に使えるので、見た目よりは動ける。
皆には
ファビーは魔法生物だ。師匠が創った。だから本物のヴィーゼルとは違う。色も白い。
幻獣にも個体差はあるし、特殊個体だって存在する。皆も「珍しい色のヴィーゼル」だと勘違いしていた。
もしファビーがもっと大きく、強いと言われる幻獣であれば物珍しさから目立ったかもしれない。実際には小型種だ。魔法使いの卵たちも特に気にしていなかった。
むしろ、子供のシロイが幻獣を連れていることの方を気にしていたようだ。まだ幼いのに召喚魔法が使えるのかと思ったらしい。
一応、聞かれたら「師匠の幻獣だ」と説明している。それだけで勝手に安心してくれるのだから嘘も方便だ。
ファビーはシロイの動きに合わせ、ふわっと飛んで移動を続けた。
(エイプが集まってきましたね。警戒音は発していないように思いましたが、聞き逃したのでしょうか)
「仲間を呼ぶ鳴き声だよね? わたしも聞いてない」
(だとすると、おかしいですね。集まるのが早すぎます)
「そうだよね。それに爆発音がしたのもおかしくない? 先生が最初に注意してたもん。ダンジョン内では大型の魔法を使ってはいけないって。だから攻撃用の魔道具も禁止だよね。アイテムだって制限されていたのに」
(ヴィルフリートがぼやいていましたね。アイテムを選別して組み合わせ、戦いに投入するのも魔法使いの力の見せ所です。制限されては戦う術が減ってしまいますよ)
「攻撃魔法を持たない学生は大変だよね」
(その分、同じ組の仲間に戦ってもらうそうですが、彼の組は人の話を聞かない女の子と文句だけは一丁前の男子二人でしたから)
「ヴィルフリートの指示をちゃんと受け取れない感じだったね」
(アルベルトの組もですし、ユリウスの組も問題が多そうです)
十五組はリーダーしか観察できていないが、文句ばかりだったのでやはり問題がありそうだ。
シロイとファビーは同時に「大変だね」(大変ですね)と呟いた。
現場に着くと、シロイは光源指向のアイテムを発動させた。中のタイプだ。上空に向かって光が伸びる。居場所が分かると同時に到着を知らせられる。
(シロイ、来てください!)
ファビーが先に現場を捜索し、岩場の陰でエイプの集団と戦う冒険者を発見した。
近くには結界の魔道具を使う学生もいる。彼等は震えたまま、呆然と
辺りにエイプの素材や魔石がごろごろ見えるから、冒険者がどれだけ頑張ったかが分かる。
シロイはすぐに戦闘へ参加した。
混戦中だからアイテムは使わない。ナイフを使って止めを刺していく。
冒険者の中には倒れている者もいて、ギリギリだったようだ。
「助かった。ありがとよ、嬢ちゃん」
「シロイちゃんだったか? すまないな」
「ううん。もうすぐ応援が来るから、ちょっとだけ待ってて」
「そうか! 分かった」
安堵した声が震えている。
シロイは先に来て良かったと思った。
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