第43話 ユリウス、ダンジョン内、女子の格好
ユリウスはなにが気に入らないのか、鼻で笑った。
その後も度々ヴィルフリートに突っかかっている。シロイは意味が分からず内心で首を傾げた。
リュックの中のファビーも(元々仲が悪いのでしょうか)と不思議そうだった。もし、ユリウスがヴィルフリートの邪魔をするなら注意もするが、全て口頭でのことだ。シロイもファビーも口出しはしなかった。
ユリウスは獣人族だ。銀髪で目が青い。真っ青というよりも水色に近いだろうか。薄い。肌は白く、黙っていると美少年だ。ファビーがそう言ったので、そうなのだろう。シロイには人の美醜が分からない。
種族については、学生同士の自己紹介時に銀狼だと説明していた。その時に、護衛としてシロイたちも名乗った。ユリウスはシロイを見て耳をぴくぴく動かした。同じ獣人族に興味を持ったらしい。けれど、なにも聞かれなかった。演習は学校行事であり評価に繋がる。余計な発言は控えているのかもしれない。
道中、シロイを気にする素振りはあったものの結局話しかけてこなかった。というより、ヴィルフリートに突っかかる以外は無口を貫いている。
同じ組の女子二人はこそこそ話していたから対照的だった。
「ダンジョンの中でも銀髪は美しいままね。青い目も光っているわ。ね、やっぱりよく見えているんじゃないかしら。銀狼の獣人族ですもの」
「岩場も難なく進んでいらっしゃるわね。一年の男子とは違うわ。やはり三年ともなると体力もあるのね」
「あら、春先の模擬戦でもユリウス様は素敵だったわよ。とても強かったもの。わたし、近くの観覧席だったから覚えているわ」
「何度も聞いたわよ。あの時に憧れたのでしょう?」
「やだ、こんなところでやめて。恥ずかしいわ」
本人たちは小声のつもりらしいが、シロイにはばっちり聞こえている。学生たちは冒険者を背景だと思っているのかもしれない。
他の組を見てもそうだが、冒険者が近くにいるのに一切気にしていないのだ。
学校側から、過度な接触は禁止されているものの、それにしても不思議だった。
シロイは休憩時にそれとなくフランクに聞いてみた。
「学生のほとんどが貴族なんだぞ。貴族には常に使用人が控えているんだ。あー、侍従とか従者だっけ? 護衛の騎士もいるし、そりゃ、気にならなくなるだろ。ましてや俺たちは冒険者だ。屋敷に雇われている奴等より下だぞ。お貴族様にとっちゃ、俺らは芋だ。野菜。そのへんの石」
「ふーん、そういうものなんだね」
強者ではないのに強者のような振る舞いをする貴族という存在に、シロイは不思議な気持ちで頷いた。
ダンジョンの一階層は特になにもなく進んだ。迷路のような岩場があって見通しが悪いものの、危険な場面は一切なかった。スライムがいるぐらいだろうか。
拍子抜けした学生らはさっさと二階層に進んだ。ダンジョンによっては最下層まで石造りの牢屋みたいな景色が続く場合もあるが、ここは違った。草原だったのだ。外の世界に似ている。灯りは、天井付近にびっしり張り付いたヒカリゴケだ。ほんのりと明るい。
二階層ではゴブリンが出てきた。草むらには蛇の魔物も隠れているらしい。学生は足下を気にしながら、木や岩場の陰から出てくるゴブリンを倒す。
魔法学校の学生らしく、魔法攻撃が中心だ。短杖だけでなく長杖を持つ学生もいる。
魔法騎士を目指す学生は剣を使った。アルベルトがそうだ。身体強化の魔法を使ってゴブリンに迫る。
それぞれの得意分野で訓練の成果を見せていた。
ヴィルフリートも頭脳派の割には剣を持って器用に戦っている。
シロイは感心しながら学生たちを観察した。
ユリウスは獣人族らしく身体強化が得意だった。真っ先にゴブリンの下へ肉迫するのも彼だ。そのまま物理で戦うのかと思えば、魔法学校の学生だからか魔法を使っている。種族特性の氷系が得意らしく、氷の槍を放つ。ゴブリンはなすすべなく倒れて消えた。
ダンジョン内では魔物の死骸は残らない。素材と魔石だけが残る仕組みだ。どちらかあれば討伐証明になる。ゴブリンの場合は再利用できる素材がない。魔石だけが転がった。
ユリウスは小さな魔石を拾うと、ヴィルフリートにちらりと視線を向けた。眉を顰めた表情からも、彼がヴィルフリートに良い感情を抱いていないのがシロイにも分かった。
「嫌いなのかな?」
(ライバル視しているのではありませんか? 青年たちにはありがちです。書物にもありましたよ)
「え、ファビーは小説を読んでいるの?」
(いけませんか? 最近、師匠の残した資料を読むのに疲れましてね。僕にも趣味が必要です)
「あ、うん。そうだね。それはいいんだけど。どうやって? 師匠の家には小説はほとんどなかったよ。絵本はわたし用だったから、ファビーには物足りないよね」
(意外や意外。実は師匠の書棚の奥に封を開けていない箱がありましてね。開けていないのも当然でした。シロイが大人になったら読むかもしれないと、師匠がまとめ買いしてあったようです。整理がてら、僕が先に読ませてもらっています)
「へぇ、そうなんだ。わたしも読んでいい?」
(シロイにはまだ早いのではないでしょうか。どろどろとした人間模様も描かれていますし、当時の弱肉強食の世界観も出てきます。古代ではライバルというと、やることは殺し合いですからね)
シロイは顔を顰めた。
ファビーが「チチチッ」と鳴いて笑う。
(というわけですから、今の時代の小説が読みたいです。シロイ、今度図書館に連れていってください)
「うん。わたしもたまには魔法の勉強以外の本が読んでみたい。常識はヴィルフリートや商業ギルドの勉強会で学べるけど、魔法学校の人を見てたら全然足りてないなって思ったの」
(でしょうね。特に貴族特有の考え方や話し方はシロイに難しいのではありませんか)
「うん。すごく不思議。クラスメイトって同じ年なんでしょう? なのに『様』って呼ぶんだよ」
(敬称ですね。人間社会はいろいろと大変なんです)
「女の子たちは魔物より服が汚れる方を気にしてるし、髪型も邪魔じゃないかな」
長い髪を垂らしたまま来ているのだ。ゲアリンデなんて髪をくるくるに巻いている。
さすがに服装はパンツスタイルだ。騎乗服という。貴族は女子でも馬に乗る練習をするようだ。ほとんどは横向きに乗るけれど、落馬した際のことを考えてスカートは禁止だと聞いた。
スカートは禁止のはずなのに、騎乗服の上衣は長めだった。ゲアリンデなど膝ぐらいの長さがある。切り込みがないので動きづらそうだ。
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