第14話 ブランシュ公園と視察、住んでいる場所




 まずは当日迷わないようにブランシュ公園を目指す。その途中にある店を敵情視察だ。


(魔道具店が多いですね。彼等の競合店となると、やはり表通りのリーツ魔道具店でしょうか)

「クレアーレ魔法学校の表門から近いもんね。お店もすごく大きいし」

(ですが、あそこは売り上げを優先しすぎのきらいがあります。保守に関して全く考えていない)

「そうなの? 今まで入ったことないよね。店の前を通っただけなのに分かるんだ」

(こっそり夜中に侵入しました)


 シロイはびっくりして鞄の中身を凝視した。ファビーは平然としている。


(ご安心を。下手は打っておりません)

「そういう問題じゃないんだけど」

(まあまあ。とにかく、僕は好きじゃありません。それより、さっき通ったお店の魔道具は面白くて好きです)

「ぱっと見ただけで分かるの、すごいね」

(シロイも早くそうなってください)

「はぁい」


 ぼそぼそと話しながら、シロイはようやく王都の中央にある一番大きな公園に辿り着いた。

 中央地区にある商業ギルドまでは乗合馬車に乗って、そこからは歩いてきたが結構時間がかかった。シロイは獣人族だから体力がある方だけれど、普通の女の子には厳しい距離だ。


「当日、荷車で運ぶとしたら馬車に乗れないね。どうしようかな。師匠の作った保管庫を使うと目立っちゃう?」

(迷いますね。今の時代は腕輪型が主流だそうですよ。ヴィルフリートも持っていましたね)

「うん」

(シロイの保管庫は小型のポーチ型ですから目立つと言えば目立つでしょう。あ、量も隠さないといけませんよ。おそらく、腕輪の保管庫は種類によって入る量が違います。リーツ魔道具店に置いていなかったので調べられなかったのが悔やまれますね)

「高価な品は置いてないのかな」

(今度、ヴィルフリートに聞いてみましょう)

「そうだね」


 ヴィルフリートに頼まれたアイテムはもう出来上がっている。明日には取りに来る予定だ。その時に聞けばいいと話し終えたところで、お腹が鳴った。


(さて、どのお店が良いでしょうか)

「視察なんだから、リストから探そう。ええとね、一番近いのは公園裏のパン屋さんだね。あ、公園の中にもあるんだ」

(どれどれ。ふむ、この長ったらしい名前、高級店のような気がします)

「え、やだ。高級店って服装規定があるんだよね?」

(よく覚えていましたね)

「師匠が絵本を読んでくれたことがあったの。帝都には煌びやかなレストランがあるんだって。ドレスじゃないと入れないんだよ」

(そうですね。そうだ、シロイもそろそろドレスを作ってもいいのでは?)


 シロイは飛び上がって頭を振った。

 ファビーは苦笑し(分かりましたから、落ち着いて)と宥めてくる。


(シロイはまだまだお子様ですね。でもそのうち、ドレスに憧れる時が来ますよ)

「え、そうかな。そんなことないと思う。わたしは普通だもん」


 普通でありたいシロイにとって、特別は要らない。

 特別に良いことがあれば、反対に悪いことだってある。

 母親に長い間「お前は異形だ、悪い子だ」と言われ続けたシロイにとって、普通でいられることはとても大事だった。

 虐げていた人たちはもういないのに、ふとした拍子にトラウマが蘇る。


「普通の女の子は、ドレスは着ないよ」

(まあ、そこはおいおい教えていきましょう。さ、それよりも食事です。僕のおすすめはリストの三ページ目にあるカフェです。なんと、シロイの好きなお魚料理があります)


 シロイは尻尾をピーンと立てた。


「行く!」

(では、少し我慢して歩きましょうか)


 シロイはファビーの入った鞄を大事に抱えて、大通りから一本外れたところにある店に走った。




 * * *




 翌日はヴィルフリートと約束していたため、午後もずっと店にいた。お客さんは相変わらず来ない。

 昨日と打って変わり、誰とも喋らない日だった。ファビーは念話だから喋るという感じではないのだ。

 近くの青果店や精肉店では必要最低限の会話だし、そもそも毎日買い物はしない。隣に住んでいるお爺さんとは滅多に会わず、反対隣は空き家だった。何軒か先からは家内工業を営む並びになっており、忙しいのか顔を合わせる機会がない。

 精肉店の女将さんがお客さんに「最近は西側に人が集まっててねぇ、ここらへんは寂れていく一方だよ」と愚痴を零していたが、シロイにとってはちょうど良かった。


 シロイが住むのは王都の東の端になる。王都は頑丈な壁でぐるりと囲まれていた。家から少し歩けば東門が見えてくる。門を抜ければすぐ傍に森だ。この森は北部に行くほど鬱蒼としている。

 王都の北側は全部が王領になっていて、こちらも壁に囲まれているそうだ。その外側にある北の森は禁足地になっている。塀で区切られているので間違えて入る人はいない。

 というのも手前までなら誰でも森に入っていいからだ。自然に育った森の恵みを得てもいい。その代わり、魔物に襲われる危険があった。そこで出番となるのが冒険者だ。

 魔物を間引いてもらいたいから国は森の出入りを許しているのだろうとは、ファビーの意見である。

 冒険者が魔物を倒すことで一般人も森に入れる。

 魔法学校が東の端にあるのも素材を採取するためらしい。実は暴発対策でもあるとか。万が一を想定して、王都の端に建てられたそうだ。王立学校は王城側に作られている。魔法学校の方が危険視されているのは誰にでも分かった。


 その学校に通うヴィルフリートが、注文した品を受け取りにやってきた。


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