第53話 チーム内での信頼
九月の復調をきっかけに、俺は再び四番に座り続けていた。
監督から「太陽、お前が打線の中心だ」と言われたとき、背中に重みと同時に誇りを感じた。凡退すれば勝敗に直結する。だが、それこそが四番の責任だった。
勇気もまた、役割を変えつつあった。
それまで代走や守備固めが多かったが、出塁率の高さと走力が評価され、監督は一番打者としての起用を試し始めた。
「勇気、初回に塁に出ろ。お前が出れば試合は動く」
その言葉に勇気は笑みを浮かべ、バットを握り直した。
ある試合。
初回、勇気は粘って四球を選び、すかさず二盗を決めた。相手は完全に動揺し、続く打者も冷静にヒットを放つ。勇気は三塁を蹴って本塁へ。開始数分で先制点を奪った。
「勇気が出れば点になる」
ベンチが口を揃えるほど、切り込み隊長としての存在感は増していた。
そして五回裏、二死二・三塁の場面。打席に立つのは俺。
「ここで打たなきゃ、四番の意味がない」
相手投手は外角へ徹底して攻めてくる。だが狙い球を絞り、低めのストレートを逆らわず弾き返す。
「カキィン!」
打球はレフト前に落ち、二者が一気に生還。スタンドが歓声で揺れた。
ベース上で大きく拳を突き上げると、ベンチから勇気の「さすが四番!」という声が響いた。
試合後、監督は俺たちに声をかけた。
「太陽、四番としての自覚が出てきたな。そして勇気、お前が打線を動かしてる。二人はもう、このチームの柱だ」
その言葉に胸が熱くなった。プロの世界で、確かに信頼を勝ち取ったのだと実感した。
ロッカールームで勇気が笑いながら言った。
「太陽、俺たち、やっとプロのチームの中心になれたな」
「まだ始まりにすぎないさ。和哉に勝つまで、満足なんてできない」
拳を合わせた瞬間、未来への道がはっきりと見えた気がした。
凡才から這い上がった二人が、今やプロの舞台で信頼を背負う存在に。
だが、この成長は通過点に過ぎない。
――待ち受けるのは、和哉との再戦。
その日を見据えて、俺たちはさらに前へ進んでいく。
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