第52話 9月の再挑戦
八月の連戦で疲れ切った体は、思うように動かなくなっていた。打率は下降線を辿り、新聞には「夏に失速」と書かれ、勇気も盗塁を阻止される場面が続いた。
だが九月に入ると、俺たちは再び動き出した。もう一度自分たちを取り戻すために。
まず取り組んだのは、配球対策だった。
俺は映像を徹底的に見返し、相手投手が追い込んだときに使う決め球の傾向をノートにまとめた。スライダーが多いのか、フォークなのか。外角を攻め続けるのか、最後にインコースで詰まらせるのか。
「和哉の球に比べれば、どんな投手だって攻略できる」
自分にそう言い聞かせ、狙い球を絞って打席に立つことを意識した。
一方で勇気は、走塁に変化を加えていた。
ただ速さだけに頼るのではなく、投手の癖を研究し、わずかな動作の違いを見抜く練習を重ねた。
「勝負はスタートの瞬間で決まる」
投球モーションの一瞬の間、キャッチャーのサインのタイミング。その全てを映像で研究し、塁上で試し続けた。
そして迎えた9月中旬の試合。
六回裏、同点で迎えた俺の打席。
カウント2-2、相手は落ちる球を多投してきた投手。狙いを絞り、思い切ってスイングした。
「カキィン!」
打球はライナーで左中間を真っ二つに割った。二塁打で勝ち越しのランナーをホームに迎え入れ、スタンドが歓声で揺れた。
久々にバットの芯で捉えた感触に、胸が熱くなった。
その直後、勇気が代走で一塁へ。
投手は警戒して何度も牽制を投げる。だが勇気はわずかな癖を見抜いていた。
「今だ!」
スタートを切り、キャッチャーの送球より早く二塁へ滑り込む。判定はセーフ。観客が総立ちになった。
さらに続く打者のライト前ヒットで、一気にホームイン。俊足と頭脳で掴んだ追加点だった。
試合は3-1で勝利。ヒーローインタビューでは俺がマイクを渡され、こう答えた。
「苦しい時期もありました。でも、仲間と一緒に乗り越えられた。この勝利をきっかけにもっと成長します」
ベンチで勇気が大きく頷いていた。
九月、再挑戦の月。
工夫と修正で掴んだ小さな復調の兆しが、俺たちをもう一度前へ進ませていた。
――そしてその先に、必ず和哉との再戦が待っている。
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