第36話 春キャンプとオープン戦
一月末。沖縄での春季キャンプが始まった。
プロ入りして初めての一軍キャンプ。緊張よりも、期待の方が大きかった。グラウンドに整然と並んだ報道陣、そして大勢のファン。その視線を浴びながらウォーミングアップをするだけで、心臓が跳ね上がった。
キャンプ初日から、基礎のレベルが段違いだと痛感した。
キャッチボール一つでも、球の回転が違う。打撃練習でも、バットに当たる音が鋭い。
俺は四番候補として注目されていたが、練習で凡打を繰り返すたびに不安が膨らんでいった。
「太陽、お前の打球はまだ軽いな」
ベテランの内野手がぼそりと漏らす。
悔しさに唇を噛み、ひたすらバットを振り続けた。
勇気もまた、苦しんでいた。
俊足は誰もが認める武器だが、打撃ではプロの変化球に翻弄され、三振の山。
「代走要員で終わるのか?」
そんな囁きが聞こえるたび、勇気は歯を食いしばって練習に没頭した。
一方で、福岡ホークスターズの和哉は、圧倒的な存在感を見せつけていた。
ブルペンで投げる152キロの直球、キレのあるフォーク。首脳陣は「すでに開幕ローテ確定だ」と口を揃えた。
そして迎えたオープン戦。
俺は途中出場で打席に立った。相手はリーグ屈指のエース格投手。直球は150キロを超え、変化球も自在。
初球、外角ストレートを見逃す。ボール。
二球目、低めのフォークに空振り。
三球目、真ん中のストレートに食らいついたが、打球はショート正面。
「くそっ……!」
プロの壁は、想像以上に厚かった。
ベンチに戻るとコーチが淡々と言った。
「太陽、振る力はある。ただ、読みと対応が遅い。考えて打て」
俺は深く頷いた。甲子園の延長では、この世界では生き残れない。
試合後、勇気も同じく打てずに悔しそうにベンチで拳を握っていた。
「太陽、俺たちまだまだだな」
「でも……必ず這い上がる」
お互いの瞳に、同じ炎が宿っていた。
一方で和哉はオープン戦初登板で3回無失点。150キロ台を連発し、プロの強打者を手玉に取っていた。スタンドも報道陣も、その投球に圧倒されていた。
――プロの世界。
ここでは「天才」と「凡才」の差が、容赦なく突きつけられる。
だが俺は心に誓った。
「必ず和哉を打つ。勇気と共に、この舞台で戦い抜く」
プロでの新しい挑戦が、ついに始まった。
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