第29話 最後の夏、地方予選を越えて
七月。灼熱の太陽がグラウンドを焦がす中、俺たち三年にとって最後の夏が始まった。
春の大会で準優勝に終わった悔しさ、そして二年夏に甲子園ベスト4で散った経験。その全てを胸に、今度こそ頂点を獲る覚悟で臨んだ。
序盤戦は危なげなく勝ち進んだ。勇気の出塁と盗塁、俺の長打で点を重ね、エース斎藤の好投で盤石の勝利。
だが準決勝は違った。相手は昨夏ベスト8の強豪。序盤に2点を奪われ、重苦しい空気が漂った。
七回表、勇気が四球で出塁。すぐに二盗を決め、観客席がどよめく。
「ここで一打だ、太陽!」
声援を背に振り抜いた打球は、センターの頭上を越える同点二塁打。スタンドが総立ちになった。
九回には田島の犠牲フライで勝ち越し、3―2で辛くも勝利。全員が声を枯らし、互いの背中を叩き合った。
そして決勝。
相手は昨年の王者。エース同士の投げ合いで、七回まで0―0の緊迫した展開が続いた。
八回裏、一番・勇気がライト前に弾き返す。続く二盗で一気にチャンスを広げた。
「太陽、頼む!」
勇気の声が聞こえた瞬間、迷いは消えた。初球、インコースの速球を力いっぱい振り抜く。
「カキィン!」
打球は左翼スタンドに突き刺さるツーランホームラン。
グラウンドもスタンドも揺れるような大歓声。俺は拳を突き上げ、勇気と熱く抱き合った。
斎藤が最後を三者凡退に抑え、試合終了。
スコア2―0。俺たちはついに甲子園への切符を掴んだ。
マウンドに駆け寄る仲間たちと、涙を浮かべる監督。
「よくやった……全国制覇へ行くぞ!」
その声に全員が頷いた。
勇気が俺の肩に手を置き、静かに言った。
「次は和哉だな」
「ああ……今度こそ決着をつける」
甲子園の頂点を懸けた戦いが、すぐそこまで迫っていた。
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