6日目、先輩とお揃いの笛飾り

キラーーーン


「いいないいな!可愛い!」

「でしょ~」


結局車集合になった。

戻ってきた龍子さんの指には


婚約指輪


「アンティークな雑貨屋さんあるじゃない?」

「ちょっと奥まったとこ?」

「そうそう」

「いいな~可愛いな~」

チラリ

「指輪やっただろ二つも」

「そうだけど~」


「ちゃんとしたのは帰ってから選びに行くよ。

 これはなんていうか記念的な感じで

 可愛かったし、りゅうぴょんが気に入ってたし」


「一之瀬さん!私も欲しい!」

「二つもありゃ十分だろ

 全部の指につけるつもりか」

「気持ちの問題なの!甘いのがほしいの!」


シンプルな二連の細いゴールド。

龍子さんのスッと細くて長い指によく似合う。

いっぽう、太くはないものの短い私の指。

そもそも手が小さい。

「あ、ささくれ」

「ひっぱるなって、また腫れるぞ」

そして荒れてる私の手。



「はい、これユイちゃんの」



「え…?」



元彼が小さな袋を。



「まだ未練あったの…?」

「未練というか過去の疑念?」


茶色の紙袋には横文字筆記体のお洒落なハンコ。

麻紐を結んだリボンが飾ってあった。



「わ~!キーホルダーだ!」



擦れたゴールドのボールチェーンに

コインの飾りと革の飾り。

大人っぽいお洒落な。


「ユイ、お揃い」


龍子さんが見せてくれたのは、革の色が少し違う同じ物。


「笛につけるのにいいなと思って」


ウエーーーン


「あらうれし泣き?」

「喜んでる」

「俺のガラス玉は取られるのか…」

「ドンマイ浩介」


憧れた大先輩と同じ飾りを笛につけるなんて嬉しい!

龍子さんが一緒につけようって選んでくれたのが嬉しい!


「買ったのは俺ですけど」

「とことんお前が可哀想に思えてきた」



湯布院を出発したのは午後。

雪道が怖すぎて山並みハイウェイは断念し、国道をちんたらと別府へ向けて走った。


「早く帰って笛につけたいな~」

とりあえずスマホにつけたキーホルダー。


「早く仕事行きたいな~」


「「「は?嫌だし」」」


運転席からも助手席からも隣からも反感を食らった。


「あと一泊あるのに現実に連れ戻すな」

「考えたくない…」

「あーー…私次の日から四国周遊」

「うわ」

「かわいそう龍子さん」

「ユイは?」

「西九州ツアー」

「今行ってきたのにまた行くの?」

「しばらく行きたくねぇな」

「飽きた」

「俺だけ送迎福岡空港でごめん」

「マジずるい」

「イッチーは?」

「木見島フェリーの研修」

「いいな!切符カチカチやりたい!」

「自動改札導入したからカチカチはやりません」


山を離れると道は普通に雪もなく、しばらくして見えてきた湯けむり。


「見飽きた感がすごい」

「最後の贅沢か~」

「旅館の名前なんだっけ」

運転は一之瀬さん。

「海屋荘」

「別府観光から入ったとこよ確か」

「別府観光から入る道とかあった?」

「あ、あれじゃない?」

「せまっ!」


「あ、七バス発見!」


別府観光に停まっていた三台口のレインボーカラー。


「できれば避けて入りてぇな」

「「「同意」」」

このまま入っていけば確実に顔を合わせてしまう距離感。

「681って加藤さんじゃない?」

「本気嫌だ」

「どっか行く?」

「あ、お土産買いに行こうよ

 海沿いにあるじゃん、道の駅みたいなやつ」

「いいね」


そうして、ここからそう遠くないお店へ。


「うわ~白菜でか!」

「ユイ、これ帰ってから半分割りにしようよ」

「するする~」

「りゅうぴょん味噌あるよ」

「わ、ほんとだ~助かった」

お土産というより日常のガチの買い物。

お土産品はあまり置いてなかった。

「一之瀬さん卵美味しそうだよ

 かごに入ってるとかオシャレ~」

「明後日コープで産直玉子来ます」

「そうだった」


そうして買い物をし、旅館はすぐそこなのにトイレを済ませ

「もういくらなんでも回送してるはず」

私たちは旅館へ向かった。

「面倒くさいね、観光バスで働いてると」

「ホントそこだけは面倒よね」

「「同意」」

加藤さん達のバスはもういなかった。

挨拶に寄ってもいいんだけど、やっぱりどうしても面倒。



「到着~」

「老舗感すごい~」


この旅行、最後の夜が始まった。

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