6日目、湯布院散策
雪を積んだ阿蘇の雄大な大地
私はこれを一之瀬さんと見たいと思った。
気持ちを吐き出せなくて苦しかった夏
青々とした景色を
天空の世界を
一緒に見たかったんだ。
「通行止めーーー」
行けなかった。
「怖えな、チェーン巻いてても」
「こんな積もるとは」
神経使ってるドライバーをよそに
「美味しい〜」
「でしょ
これ安心院でしか買えないと思ってたのに
まさか阿蘇で買えるなんてね」
スパークリングワインで乾杯な女子二人。
だってめでたいじゃんね
越智さんと龍子さんが思い通じ合って結婚。
はい問題です!
『安心院』なんて読むでしょうか!
大分のワインの産地!
山並みハイウェイをトロトロ運転で進む
「ひーとみーなはーなにーよーうとーきもー」
※ 坊がつる賛歌
「綺麗ね、雪景色も」
「龍子さん写真撮ろ!」
カシャ
自撮りで二人撮ったり
「越智さーん」
「ん?」
後部座席を振り向く
カシャ
「や、ソロとかやめて」
「あとで龍子さんと二人とったげるね
公開プロポーズ記念に!」
「ユイに友人代表させようか」
「ユイちゃんには白ビキニで余興して欲しい」
「白ビキニで乾杯の音頭踊るね」
「音頭ってそっち?」
「やめてくれ」
「結婚式、準備すすんでるの?」
私と一之瀬さんの結婚式は4月の予定。
春休みの軽いピークが終わったあとにすることになっている。
ゴールデンウイークからの春のシーズンが始まる前に
南の島で仲いい人を呼んで、ってことは現実的に難しかった。
だから本社のお偉方と貸切の数人
司会進行は優美さんにお願いした。
寮の集会室で改めてお祝い会をしてくれると、龍子さんや咲さん、山中さんたち大先輩が企画してくれていた。
きっとこれが定番になるんだろうなって思う。
全寮制が撤廃されたガイド女子寮の最初の寿退寮。
「ぼちぼち〜」
「ユイの希望なんて皆無なんで」
完全に本社役員と関連会社のお偉方に向けた結婚式。
七バスと関係ない私の友達や一之瀬さんの友達は呼べなかった。
親族と会社関係と貸切のみ。
若者ノリで盛り上がる余興なんて始めからプログラムされてない。
一之瀬さんと結婚するのにそれは仕方なかったし、別に嫌とも思わなかった。
袴なスナイパーには薙刀を
タキシードなスナイパーには散弾銃を
雪深かった山間を抜け湯布院の街が見えてくると、車道に雪はなくなった。
だけどそびえる由布岳もその周りの山も家々の屋根も真っ白。
「なんかキレーイ」
雪をかぶった由布岳をカシャり。
「ホーム画面にしよ」
「ランタンの眼鏡橋はもう終わりか」
この旅行中、何度画面が変わったかわからない。
「雪化粧ってやつね〜ホント綺麗」
「あ!これが雪化粧か!
ホントにお化粧してるみたいだよね!」
すごいな〜綺麗だな〜って感動してるのに
「真っ赤な口紅でも塗ってやるか」
「下の方だけ紅葉してたら丁度良かったのにな」
変なこと言い出す男子たち。
「最近の若者のあの口なんなんだ」
「濃いよな」
「血を食ったみたいな口」
「あれが可愛いってことだよな。
俺はもうちょい淡い方が好きだけど」
「俺も」
見合わせる私と龍子さん
私の唇、正に真っ赤っか。
「言われてるわよ若者」
「これが可愛いんじゃん!」
「あ、流行りの子がいた」
越智さんが振り向き、バックミラー越しのスナイパーと目が合う。
「ん、でもお前のはなんか可愛い」
「……!」
「はいはい」
「悠二も可愛いとか言うんだな」
よかった。
今夜は絶対2人きりだもん。
真っ赤なルージュでぶっチューだ!
そんなこんなで到着したのは
「見飽きたー」
「おととい来たわ、私」
「おとといってことはないですよ
おとといはもう旅行に来てます」
「そっか」
「悠二今ドアスイッチ探したよな?
手が泳いだぞ」
「そんなとこ気づくな」
湯布院
「とりあえず金鱗湖行く?」
「とりあえずトイレ〜」
「お前絶対酔っ払ってるだろ?
ワインなんか飲むから…」
「酔ってなーい」
一之瀬さんが私のコートのボタンを留める手を止め、
呆れた顔で頬をムギュー。
「赤くなってます」
「なってなーい」
「その喋り方は酔ってんの」
ボタンを留め終えたら手を取った。
「龍子さん、トイレ行ってから追いかける」
「じゃお昼に金鱗湖で待ち合わせしましょ」
「オッケ」
二手に分かれ、越智さんと龍子さんも手を繋いで行ってしまった。
「今回ばかりはナイス余計なお世話だったな」
フフッてスナイパーな笑みを浮かべた一之瀬さん。
「余計なこと考えないでよし
カモさんも…
カモさんこそ心底よかったと思うはずだ」
「うん」
お昼の時間まで湯布院の街を歩いた。
「あ、ここつっちがくれたリングタワーのお店」
「あいつこんなとこ一人で行ったのか
勇気あるな」
ガラス細工のお店を見たり
「試飲してるよ!」
「はいどうぞ」
焼酎の試飲を一人で
「うわ!これ美味しい〜」
「湯布院限定なんですよ〜いかがですか?」
「三本ください」
「や…お前今三本も買ったら重い…!」
湯布院を堪能した私たちは、お腹が空いてきて金鱗湖に向かった。
「てかいないじゃん」
「なんで昼ごろってアバウトなんだ」
普段時間には厳しい私たちの意味不明なズボラさ
「もうその辺で食おうぜ」
「うん」
そして適当。
たぶん龍子さんたちも勝手に食べてる。
「だんご汁食べたーい」
「それな、熱いの食いてえ」
金鱗湖近くのお店にテキトーに入り
あったかだんご汁を堪能。
結局龍子さんたちと会うことはなかった。
「あ、しぐれ煮美味しそうだね」
瓶詰めのしぐれ煮を籠へ。
「椎茸の佃煮美味そう」
籠へ。
「あ!カボス汁ほしい!」
「いいね〜魚にかけたい」
一之瀬さん担当の土鍋ご飯に合う物を買い求め、湯布院の街を楽しんだ。
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