泥んこ聖女はわからせたいッッ! ~追放された元聖女、ギフト『泥遊び』を極めて食器を作ったら、やりすぎて荒れ地が理想の領地になっていた件について~
開拓しーや@【新ジャンル】開拓者
第1話 泥んこ聖女、やらかす
ねぇ、みんな知ってる?
泥団子って砂でピカピカ磨き上げると、宝石にも負けないくらい綺麗になるんだよ?
六歳の誕生日を迎えた貴族たちが集められた聖堂教会。
慣れないヒラヒラした布を握りしめたわたし――ハイネ・レイベリオンは、純白の巫女服を身にまとい、煌びやかな壇上を歩かされていた。
急遽、整えられた聖女爆誕のお披露目式。
まるで某アイドルグループのセンターに一般人が紛れ込んだような居心地の悪さにわたしの心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
(たかだか女神さまから聖女として認められた程度でこの騒ぎって。ほんといい加減にしてもらいたいんだけど)
それもこれも先日たわむれに作った聖餐器に女神の奇跡が顕現してしまったせいだけど――
「ハイネ。よくぞここまで成長した。お前は私たちレイベリオン家の誇りだ」
「――お父様」
珍しく感極まったように涙ぐむ父親の姿に、思わず視線を逸らす。
い、言えない。
長年、追い求めてた土が見つかって、つい浮かれて魔力を込めすぎただけなんて。
「見てくださいませ、ハイネ様ですわ!」
「さすがレイベリオン家の寵児、立ち振る舞いまで洗練されていてお美しいですわ」
「それに比べてわたくしはいったいどのようなギフトを授かるんでしょう」
「聖女に選ばれずともせめて癒し系のギフトを戴きたいですわね」
やや明かりの落とされた聖堂に耳を傾ければ、自分の将来を語りあっては、上品にキラキラと瞳を輝かせる子供たちの声が聞こえてくる。
ごめんね。みんなほんっとごめん。
人生で一度しかない貴族として成人と認められた子供たちが集まる初のお披露目の場、しかも貴族として自分の将来を決めるかもしれない大事な『ギフト』を女神さまから授かるお披露目式なのに、こんなめちゃくちゃな日程捻じりこんじゃって。
「ううっ、本当なら和気あいあいとしたお披露目式になるはずだったのに」
それ以上に後ろで子供たちを見守る大人たちのまなざしが痛いッッ!
憎しみ、嫉妬、怒り、羨望。
お父様とは対照的に付き添いでやってきた他の貴族の親たちが、並々ならぬ気迫で子供たちを凝視していた。
なにせこの儀式の結果次第で、この聖霊都市で自分の子供たちの将来が決まる瀬戸際なのだ。
わたしは特例で聖女に任命されたことになってるからお父様も落ち着いていられるけど、貴族の子供を持つ親たちからすれば気が気じゃないんだろうけど、
「ほかにもいいジョブはいっぱいあるのに、なんだってみんな聖女になりたがるんだろ」
――聖女。
それは、聖霊都市に住まう者であれば、誰もがお世話になっている『聖餐器』と呼ばれる食器を唯一作れることができるジョブの名称であり、国王より貴く崇められるべき権威の象徴だ。
一族のうちに聖女となれる者が誕生したとなれば、例え底辺の貴族だったとしても王族に影響を及ぼすほどの強大な権力を手にすることができるようになることからわかる通り、この国では聖女の親というだけで崇められる。
そしてこの洗礼の儀は、この場に集められた聖女見習いたちが、この聖霊都市を支える聖餐器を作るに足る才能を持つ者かどうか『作品』を発表することで判別する神聖な場でもあるのだ。
(ふぅ落ち着けわたし、今は目の前の発表会のことに集中しなくちゃ)
このお披露目のために、多くの準備をしてきた。
作品も万全。
今回ばかりは失敗は許されない。
「今日こそ、みんなに『アレ』のすごさをわからせてやるんだから」
意気揚々と気合を入れ、天幕が上がり背筋を伸ばす。
そして始まった洗礼の儀。
一人一人、自分の名前を呼ばれる子供たちが授かったギフトに喜びの声を上げていく。
そして最後の一人の名前を呼び終え、わたしは別の意味で胸を高鳴らせていると、鈴を鳴らすような女性の声が会堂に響き渡った。
「それではこれより女神イシュタリア様に選ばれし聖餐器を生み出すに至った聖女のお披露目と展覧会を始めたいと思います」
大聖女の登場に拍手が巻き起こる。
おおっ、さすがはみんなの憧れ大聖女さま。
すごい人気だ。
すると彼女の後ろから祭祀服を着た年老いた男が前に出た。
「それでは大聖女イシュタリア様に代わり、このわたくし大神官アブサロムめが、この国を支える未来の聖女たちの作品を発表いたします」
恭しく頷く大神官のおじいちゃんの口から、次々と新しく聖女に選ばれし子供たちの名前が呼ばれ、壇上で銀色の食器を披露される。
個人個人の作り手の違いはあれど、見事なまでに均一化された細工模様だ。
さすがは見習いから聖女として認められただけのことはある。
だけどわたしの作品だって負けてない。
そして最後にわたしの名前が呼ばれ、恭しくお父様と共に壇上に上がれば、
「では最後に、若干六歳ながら女神の奇跡を発現せし、寵愛を受けた未来の大聖女候補ハイネ・レイベリオンさまの作品になります」
さぁ! 見て驚け。わたしの作品を!
そうして勢いよく純白の布が剥ぎ取られ、茶色の聖杯を披露すれば、
「きゃあああああああ! 穢れだああああああああああああああああああああ!」
わたしの作品を目にしたであろう観覧席からいくつもの悲鳴が上がり、クモの子を散らすように会堂がざわめきだした。
優雅に躾けられてきた大の大人が我先にと逃げ惑うように走り出し、まさに阿鼻叫喚を絵にかいたようなパニック状態。
隣に誇らしげに立っていたお父さまは、今は泡を吹いて痙攣してるし。
わたし、ただ粘土で湯飲みを作っただけなんだけど――
「あれ? もしかしてわたしやっちゃった?」
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