第17話 町を見に行こう
ギベルを見送るつもりの私も、一緒に城の中庭へ出た。
ギベルはふと城を振り仰ぐ。
「ここの城は本当に広いですな。作りもしっかりしているので、手を入れれば100年200年ともつだろうと、大工が言っておりました。代わりに冬は寒いので、苦労すると聞きますので、領主様のご心配は最もですな」
石造りの家は暖まりにくい。
夏は涼しくていいのだけど、冬は寒くていられないのだ。
また、酷暑だとなかなか冷えないという欠点もある。
「でもそのうち、この城も活用できるようにしたいですね」
錬金術で、暖かくしたりできれば冬の間でも城を使いやすくなる。
万が一にも大規模な魔物狩りの必要なんて出たら、あちこちから救援に来てもらった時に、ここに寝泊りしてもらうこともできるし。
そんなことを考えつつ、ギベルを見送ったのだった。
その後はお昼を食べた後、時間ができた。
なので、今のうちに領主らしいことをしようと思う。
「城下を見て来ようと思うの」
「では、付き添います。護衛も呼びますので、その間にお着替えを……ミカは執事のカルマン様に伝達を」
側にいた侍女のセレナが、ミカに執事への連絡を指示。
自らはクローゼット用の小部屋の扉を開けた。
ハンガーにかけられたドレスがいくつも並ぶが、右側には比較的おとなしい色合いや、質素な形の服がある。
私が領地へ行くにあたって、用意してもらっていた服だ。
採取などで綺麗なドレスなど着ていられないし、草などで足を怪我することもあるので、ズボンも沢山用意していた。
昔の小姓のようなふくらみのすくないズボンにブーツ。
その上から、ふくらはぎ丈のワンピースを着る。
「……本当に大丈夫ですか? 足首のあたりをさらすことになりますが」
心配そうなセレナは、貴族の係累の出らしい心配をする。
貴族の夫人は足首を晒さない。
恥ずかしいと思う人が多いから、そんな習慣になってしまっているのだ。
「平民の女性はこんな格好をしてるでしょ? 王都から遠い町なら、こっちの服の方が目立たないわ。それに裾が長すぎると山道とか森を歩けないし、そのために着るんだから」
これでも、膝丈でいいと言う私に、セレナが反対してふくらはぎ丈になったのだ。
今以上に長くしたら、本当に採取ができない。
「今日から採取に行かれるおつもりですか!?」
「さすがに今日は……。町の中と周りをぐるっと見て、その途中に気になる物があればとは思うけど」
山間の町なので、町を囲む石壁を出たら、そこはすでに山すそだ。
町の中よりは何かがあるはず。
「藪キノコとか、緑石英くらいはあるでしょ」
「あるでしょうけど……改めて、ではいかがですか?」
「王都にはむしろなかったから、拾っておきたいんだけども」
「そこまでおっしゃられるのでしたら……」
セレナが折れてくれる。
貴族の教育を受けて侍女になったセレナとしては、拾って歩くというのがちょっと受け入れにくかったのだろう。
ただこの一年、私と一緒に別邸で生活していただけあって、ある程度で引いてくれるようになったのだ。
「採取の時は、館に戻っていてくれていいわ。再婚する気がないバツイチなんだし、自分の領地でぐらいは気楽に動きたいから、護衛だけ置いていってもらえれば。セレナは兵士をつけるから、いいかな?」
「承知いたしました。領主様ともなれば、女性としてのあれこれより、領地のことが優先されるものですし」
付け足された言葉は、セレナ自身に言い聞かせるための物に違いない。
そんな心の広い侍女に、私は改めてお礼を言ったのだった。
「ありがとう、セレナ。色々常識破りなことを認めさせてしまって……」
するとセレナが微笑む。
「元伯爵夫人になった方が領地をいただくことはあっても、爵位をもらって領主をしながら錬金術師をしようなんて、史上初でしょうから。新しい物に、以前からの慣習を当てはめるのは難しいものでございますので、領主様」
※※※
そうして半時間後、私は館を出発した。
町までは距離があるので、練習がてら馬に乗っていく。
両親がいなくなる前までは、何度か練習していたこともあって、歩かせるのは難なくできて安心した。
これから採取の度に、馬を使おうと思っていたので。
町までは、城のある高台からゆるやかに曲がる道を進む。
真っすぐだと傾斜がきつすぎて、荷物を載せた馬車が上がれなくなるからだろう。
そんな高台の道の横は、葡萄や何かしらの作物が育てられているようだ。
もともと城を管理しているギベル達が、食糧難や葡萄酒の確保のために作物を育てさせているらしい。
そのために雇われている人達も、町の住人だ。
雇用があれば人が増えて、購買力が増せば豊かになり、何かを買いたいと思う気持ちが店や品を作り出すきっかけになって、また雇用を生む。
代官だったギベルは、人口が減少しそうな町のために、人を増やす施策として畑仕事で人を増やそうとしたのだろう。
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