第27話 魔女は完全な女系である

 行き遅れの23歳だから、ちょっとあざとい感じもあるけれど、計算してやっているつもりじゃないんだろうな。


 今日、初めて合ったに近いんだ。まだ〈シヴァ〉の性格が分かるはずがないが、塗り薬を塗ってくれたんだから、きっと悪い娘じゃないと思う。


 それに比べて俺は、〈サラス〉に捨てられてウジウジとしていたくせに、もう違う女に愛想を振りまいているんだな。

 こんなんじゃ、〈サラス〉を責めることは出来ないし、自分ながら誰でも良いのか、と思わないわけでもない。


 だけど、何とか生きるすべを見つけられた俺は、暗闇に一人きりで取り残されたような絶望的な焦燥感から、日がして温かくて明るい安堵感へ気持ちが大きく変わったんだ。

 はしゃいでしまうのは、どうか許してほしい。


 薬を塗り終えた後に、〈シヴァ〉が持って来てくれたミルクがゆを、俺は「美味い」と言ってガツガツと食べた。栄養が身体中にいきわたるようで本当に美味しかったんだ。


 「私が見ててあげるから、早く寝なさいよ」


 2度目だ。どうしてこの娘は俺を見てていたいんだろう。


 「えっ、子供じゃ無いんだから、一人で寝られるよ」


 「あははっ、大きな子供みたいなもんよ。 私と歳は変わらなそうだから、子供じゃもちろん無いわ。 だけど、考えが足りないね。 だから見ててあげるのよ」


 〈シヴァ〉は自分と俺の年齢が変わらないと思っているんだな。

 それがどうして嬉しいのだろう。良く分からない女だな。俺には女性心理がさっぱり分からないから、どうしようもないな。


 そんなことを考えているうちに、俺は直ぐに眠ってしまったようだ。

 体がまだ休息を求めていたからだろう。



 結論から言うと俺は奇跡的に〈年下のメス1〉こと〈シヴァ〉の夫に無事なることが出来たんだ。

 奇跡的になれたのは、〈シヴァ〉に複数のマイナス要素があったからだと思う。

 俺の疑問に〈シヴァ〉が、ペラペラと教えてくれた結果、判明したことである。


 〈シヴァ〉の考えでは、夫婦になったのだから、隠し事をしてはいけないと言うことらしい。

 だから浮気をしそうになったら、先に言うように言われたのだけど、そんなの言うはずがないよな。

 絶対にしても良いよ、とは言わないだろう。


 【〈シヴァ〉のマイナス要素】


・5年以上も戦争が続いたので、若い男性が不足し、適齢期の女性が余っている。

・薬草を作る事の副作用で、魔女は子供が出来にくいため、子供がほしい人からは避けられてしまう。生まれるのも女の子ばかりだ。

・魔法薬作りの秘密を守るため、男性は養子になる必要があり、結婚後は魔女の家族との共同生活しか認められない。そのため、元の家族とは引きはがされることになる。

・生誕時に、偉大な魔女であった大おばあさんから、はるか遠方の男と結ばれる、と預言された。


 簡単に言えば、〈シヴァ〉は売れ残ってしまっていたんだ。


 〈年下のメス1〉改め、俺の妻となった〈シヴァ〉は、少し前に誕生日を迎え23歳と少々になっている。

 今俺がいる世界では、女性は20歳までに結婚しなければ、行き遅れと言われてしまうらしい。

 医学が発達していないこの世界では、高齢出産の危険が大き過ぎるので、当然の考え方なんだろう。


 〈サラス〉の歳を俺は40歳くらいと想像していたが、娘がまだ8歳なんだから、10歳以上は若いのかも知れない。

 この世界では老けるのが早いみたいだ。


 〈シヴァ〉はもう23歳だから、かなり焦っていたのだろう。

 贅沢ぜいたくは言っていられなくなり、俺でもしょうがないと判断されたんだと思う。


 それと〈シヴァ〉は、前からちょっぴり俺に興味を持っていたらしいのだが、そのことを追求する質問には沈黙で応えやがった。

 夫婦になったのだから隠し事はいけない、と言っておいて、これではな。

 先が思いやられるよ。


 俺と〈シヴァ〉の結婚式は簡素なもので、魔女の館の中でとり行われた。

 結婚式の形式は宗教色が薄い人面式に近いものだったと思う。

 料理は豪華なものが、壺に入った酒も、目の前に並べられていたのだが、俺はそれらに手を伸ばさなかった。

 〈シヴァ〉が手をつけようとしなかったからだ。


 俺は〈シヴァ〉に拾われた野良猫のようなものだから、ご主人様の許可が必要なんだと思う。


 〈シヴァ〉の家族の総勢8人と、〈ナーレ〉の街の村長や陶器組合の組合長も参列していた。

 他にもいたが来賓のあいさつをしたのが、二人だけだったので、他の人の事は分からない。

 村長や組合長が参列するのだから、この街で魔女は一定の勢力を持っているんだと思う。

 きっと魔法薬を独占しているせいだろう。


 俺と〈シヴァ〉は上座に座らされて、じっとしているだけだった。

 この式は新郎新婦をお披露目しつつ、魔女と各勢力との結びつきを強くする場なんだな。

 俺は単なる添え物でしかない。


 フレア袖と広がるスカートのシルエットが美しい純白のワンピースをまとった〈シヴァ〉が綺麗だから、拾われた俺には文句を言える権利はないんだ。



 【〈シヴァ〉の家族】


 〈シヴァ〉の両親と祖母および祖父はすでに亡くなっている。

 〈シヴァ〉は一人っ子で兄弟はいない。


 薬草の副作用で生まれる子供は女ばかりのため、魔女は完全な女系である。


 〈シヴァ〉の母親の姉妹は叔母が一人いるだけで、その女性は魔女でもある。

 その叔母とその夫は存命中であり、その間に娘が2人生まれている。

 2人の内、一人は魔女だが、もう一人は魔力が少な過ぎて魔女ではない。

 2人の娘はすでに結婚しており、それぞれ娘を一人産んでいる。


 かなりややこしいが、まとめると次のとおりとなる。


 50歳代の叔母が1人     名は〈ヴァサカ〉、魔女

 50歳代の叔母の夫が1人   名は〈シシド〉

 30歳代の従妹が2人     名は〈ヴァサニ〉、魔女じゃない。

                   〈ヴァサリ〉、魔女。

 30歳代の従妹の夫が2人   名は〈ラクガ〉〈カサン〉

 10歳までの従妹の子が2人  名は〈ヴァラニ〉〈ヴァカリ〉


 合計8人となり、女が5人で男は3人となる。

 俺と〈シヴァ〉を入れれば10人だ。


 式が終わった後直ぐに、〈シヴァ〉の叔母の〈ヴァサカ〉が俺のそばにやってきた。

 魔女の館の長老と言うかリーダーだな。

 女系だから女の方が上になるんだ。


 「〈クロヤ〉、改めて忠告するが、〈シヴァ〉を泣かせるようなまねをすれば、決して許さないからね。 薬草の買い取りで、悪い人間じゃないのは知っていたけど、〈シヴァ〉がかばわなかったら、もうこの世にあんたはいなんだ。 それを絶対に忘れるんじゃないよ」


 「はい。 絶対にしません」


 「おばさん、ありがとう。 私、絶対に幸せになります」


 「ふふっ、〈シヴァ〉なら必ずなれるさ。 困ったことがあればいつでも言うんだよ」

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