嘘つきはだれのために

湊 マチ

あらすじ

あらすじ


東京。匿名告白アプリ「告白箱」を運営する企業で働くモデレーター・椎名紗耶(28)は、炎上を避ける編集と公開判断を日々こなしている。ある夜、人気トピック〈彼女の正しさを試す方法〉の文体から、投稿主が婚約者・早瀬悠斗(@lienight)だと直感する。

同時に、上司の神谷祐真を想起させる“社内ミスコンダクト”の匿名相談、親友の麻倉透子による外部SNSでの拡散ビジネス、そしてセキュリティ担当の九条凛が掴む「社外から管理画面に入られた痕跡」。紗耶の周囲で、匿名の声と実名の責任がねじれていく。


「守るために一部を伏せる」——紗耶の方針は“恣意的”と炎上し、運営は“透明性”の名のもとに可視化ダッシュボードを導入、現場裁量は奪われる。悠斗は複数アカウントで匿名工作を続け、透子は“告白の経済”でさらなる再生回数を狙い、神谷は“匿名に救われたい”と紗耶を揺さぶる。

やがて、紗耶の母でカウンセラーの椎名玲子が、正体を伏せて「告白箱」へ助言投稿していた事実も発覚——“母の嘘=娘を匿名で守る”という保護の形に、紗耶は初めて向き合う。


追い詰められた紗耶は、会見で**人名ではなく“構造”**を図で説明し、匿名の権利と手続きの正しさを提示。悠斗は実名で謝罪し、婚約は解消。透子との友情は壊れるが、互いに再起の余白を残す。

最終的に紗耶は運営を離れ、第三者機関のモデレーションNPOを立ち上げる道を選ぶ。凛は「嘘をつかなくてすむシステム」の設計を差し出し、そっと並んで歩く。


——短い嘘は終わりにする。長い本当は、ここから選ぶ。

匿名と実名のあいだで揺れる心を、手続きと言葉で救い直す、新時代のドロドロ恋愛スリラー。

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