Episode 2-7 - Judge!!

 ――裁きとは、正しくなければならない。


 なぜか? 正しくなければ、それは裁きとは呼べないから。もはやソレはただの、独り善がりの遊戯に過ぎない。


 ――正義とは、中立でなければならない。


 なぜか? 中立でなければ、それは片側から見た幻想でしかないから。争いが起きるたびに、そこには両極の正義が存在するのだ。


 ――故に、神々は正しく、中立でなければならない。


 なぜか?


「なぜだろうね」


 正しく、中立でないのならば、それは狂気だ。


「それは違うさ」


 真理が違うことはない。


「ふ、過去に囚われた幻影だというのに、生意気なことだ」


 真理に則らないのならば、他者を裁く資格はない。


「その資格は誰が与えると思っているんだい?」


 この世が定める。神々をも超越した、世界という力により定められる。


「そうかい」


 故に、裁く者は狂気にとらわれてはならない。


「それは肯定しよう。だが、此方にもひとつ言わせてもらおう――」


 ――ドッ、と、深き紺を帯びた魔力が見えるまでに溢れ出す。


 世界規模で描かれた巨大な魔法陣、その中心に立つ少年が、左腕にガベルを握った。モノクルがキラリ、と魔力の光を反射する。


「神も、独り善がりの遊戯で遊ぶのさ」


 愚かな。


「さて、開廷だ――此度も最後まで付き合ってくれたまえよ、『正義の画定者』スフェクル!」


 ――世界が割れた!


 一瞬にして世界が青いステンドグラスの如く砕け散ったかと思うと、すべてが大法廷へ塗り替えられる。


 判決者――『最高裁シュプリームコート』。


 被告――『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』。


 実際にその場に立たなければ、想像もつかないほどの重圧が互いの魂を締め付ける。だが、『最高裁』にとってその圧は絶対なる裁きへの責務であり、誇りでもある。


「っ……!?」


 『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』、その青年が、身動き一つできないことに目を見開いた。


「まず、君の正体を当てて見せよう。裁かれた魂の集合体、それが融合して成したある種のネットワークだ」


「……! ははっ、はは……」


「残念だが、君たちは二度裁かれる。ほかでもない、この此方によって」


 ――カァン!


 重々しいガベルの音が、幾度もこのフィールドにこだました。


「弁明はあるかね?」


「……っ、テメェらのせいだろうが……! もとは、テメェらが――」


 ――カァンッ!


 言葉を遮るように再びガベルが打ち鳴らされた。


「残念だが、現行法では自力救済は認められていない。さて、君の行いは立派な罪だ」


「そんな理屈が通用すると思うなァ! 偽善者が!!」


 碧眼の青年が、唾を飛ばしながらまくしたてる。その手に握る彼の本体――『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』を振るおうとも『最高裁』には届かず、その力も絶対的な裁きの場においては通用しない。


 正義という、無二至上の力がすべてを統制する。


「これは少々歪んだ考えであることは自覚しているけれど、力ある者が最終的には勝者だ。君が猛威を振るっていた時代、確かに君は正義だった」


 怒りに震える『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』をよそに、『最高裁』は飄々とした態度を崩さずに語る。


「今ここにおいての実力者が誰なのか、正義の制定者がどちらなのか、賢い君にはもうわかるだろう?」


「ふざけんじゃねェ、ぶっ殺してやる! 降りてきやがれッ、俺をその眼で見下すなァ!!」


「この領域で、あらゆる暴力行為は不可能だよ」


「舐めた口を――!!」


 ――バキン!!


 全力で振るわれた『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』が、ついに正義の束縛を脱し、『最高裁』へと襲い掛かる。


 だが。


「我が名において、君を裁こう」


「っ!?」


「安らかなる死を齎さん――」


 空間が割れた。


 ひずんだ漆黒の虚空から、あまりにも大きく、鋭い龍の爪が出現する。


「止めろ――やめろやめろやめろ止めろォオオオオオ!!」


「次に会う時は、敵ではないことを祈るよ」


 その爪が、『往日の咎罪の白銀杖ドルチェ・ン・リゾルート』に向かって振り下ろされた。


「尤も――君はその頃には、もう覚えていないだろうがね」


「嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだ――アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッッ!」


 ――神の遊戯が、幕を閉じた。

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