Episode 2-8 - Enough To Fool
――『最高裁』の、自室。
「お土産だ。ぜひ食べたまえ」
すっ、と差し出された焼き鳥を、Motchiyはぱくりと食べた。濃すぎない塩味はとても定番だが、この風味は彼女の良く知るそれとは少し違う。
「よくお土産を買う暇があったね……自分、まだくらくらするんだけど」
「くらくら程度で済んだことを喜ぶべきだ。山本君はまだ、全治まで二週間はかかる見込みだそうだよ」
「山本は……無茶するからね」
「君も大概ではないかね」
未だ、Motchiyは貫かれた心臓が万全に戻ってはいない。その場での山本の応急処置、それから『最高裁』による討伐後の迅速な治療によって一命を取り留め、おそらくもうこれが原因で何かが起こることはないだろう、という具合まで戻ることはできた。
だが、ズキズキと傷跡は痛む。しばらく動きたくないし、ずっと眠っていたいが、痛みのせいでゆっくり眠ることさえままならない。
「そのくらい、此方にとってはいつものことだ。カレイにウマトマがすぐにたたき起こしてくるものだからね、八時間以上寝れた経験は無いのだよ」
「あー……それはまあご愁傷様。でもずっとやってたら慣れるでしょ、さすがに?」
「そうだ。だから君も慣れるべき、と言いたいのだよ」
「……」
妙に納得してしまいそうな弁舌でMotchiyは丸め込まれてしまった。すこしムカついたので、焼き鳥をすべて食べ尽くす。
「ところで、悪性を失ったあの杖についてだがね」
『最高裁』は焼き鳥のことは気にしていない様子で、大事な話を切り出す。
「すっかり忘れるところだった」
「何のために君がここに来たんだい。……『
Motchiyはその報告を聞いて、少し考えこんだ。
「うーん……いや、強さが必要なわけじゃないからね。『
「ふむ……」
今度は『最高裁』が訝しむ番だ。
「……Motchiy君、最後にひとつ問わせてほしい。君は、あれを使って何をするつもりなんだい」
「……」
真剣な眼差しも半端な笑みにはぐらかされる。Motchiyに、その問いに答えるつもりはなかった。
若干だけ、彼女の先行きに靄がかかっている――『最高裁』は、そう感じた。
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