17日目:未来の約束

夕方の教室。

窓の外はオレンジ色に染まり、机の上に長い影を落としていた。

俺と美咲は並んで宿題をしていたが、ふとした沈黙の後、美咲が鉛筆を止めた。


「ねえ、将来の夢って考えたことある?」


不意に問われて、言葉に詰まる。

「……急にどうした」

「進路調査、また来週出さなきゃいけないんだよ。私、まだ書いてなくてさ」


美咲は窓の外を眺めながら、少し恥ずかしそうに笑った。

「……私ね、保育士になりたいんだ」


「保育士?」

「うん。子ども好きだし。小さい子って、大人にはない素直さがあるじゃん。泣いて、笑って、全部真っ直ぐで。そういうのを守れる仕事、いいなって思うの」


その瞳は真剣で、でも輝いていた。

俺は胸の奥がじわりと熱くなる。

守りたい、と思った。

だけど――。


(俺には未来がない)


その事実が、心臓を強く締めつけた。



「悠真は?」

不意に逆に聞かれて、ペンを握る手が止まった。

「俺……?」

「そう。将来、なにになりたい?」


答えられなかった。

答える未来を、持っていない。


沈黙を察したのか、美咲は少し笑って誤魔化した。

「そっか、まだ考え中ってことね」


その笑顔が、胸に突き刺さる。




病室の夜。

ルカが横で見ていた。

「今日の奇跡は使わなかった」

「……使えなかった、だ」


俺は枕に顔を押しつけて、苦笑する。

「未来の話って、残酷だな」

「あなたが残酷なのではない。時間が残酷なのだ」


ルカの声は淡々としていた。

でも、振り返ったとき、彼女の瞳がほんの少し揺れているように見えた。


残り十三日。

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