第11話
翌週、僕らは学校の帰りに近所の河川敷で練習した。夕暮れ、ジョギングする人、犬の散歩をする人、ベンチで缶コーヒーを飲むおじさん。誰も彼女に気づかないわけじゃない。何度か「あれ?」という視線を感じた。けれど、誰も集まらなかった。僕らが、ふつうの速度で、ふつうの音量で、ふつうの顔でそこにいたからだ。
「ねえ、普通って、案外、難しくないね」
「難しいよ」
「どっち」
「最初は難しいけど、手触りがわかると、急に簡単になる。――たぶん」
「プロの言葉」
「プロの普通管理人だから」
「それ、やっぱりかっこよくはない」
「自覚はある」
ベンチの影に隠れて座りながら、僕らは新しい曲を作った。コード進行を先に決めて、メロディは鼻歌で探り、言葉はあとから追いかける。彼女は言葉の直感が鋭い。「光」という単語を嫌う。名前に星が入っているからかもしれない。代わりに「灯」とか「窓」とか「返り道」とか、生活の中の小さな光を連れてくる。
曲名は「ふたりの窓」にした。ありふれていて、きっとすぐ忘れる。けれど、僕らのあいだでは、忘れない。
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