第59話 不倫した男は沈め

 シオリちゃんと見た映画は、前の地球でも大ヒットした豪華客船が沈没するラブストーリーの奴だった。

 ちょっと大人向けのチョイス過ぎないかと思ったけど、さすが去年の冬からずっとロング上映を続けているぐらいの名作。シオリちゃんがボロボロ泣くぐらいに感動していたよ。


 僕も大迫力のスクリーンで見て感動しちゃった。でも、ちょっとエッチなシーンで、シオリちゃんがキュッと僕の手を握って来た時、自称宇宙人が化けたミサキ?バージョンの不機嫌顔が脳内でチラチラしていたよ。

 でも、振り払う事なんて出来なかった。有名な船の先っぽの一番良いシーンに水をさしちゃうしね。


 見終わったあと、「不倫した男は沈め」って言われてるみたいでちょっと嫌だった。いや映画で不倫してたのは女性の方だから違うんだけど心情的にね。

 いやいいラストだと思うよ?家庭の事情に振り回さてて空虚に生きてきた女性が、その後独立心を持って自由に生きましたって奴でしょ?

 自由フリーダムが好きなアメリカ人が好きなラストだよね?まぁ前の地球のアメリカは、LGBTQみたいな自由フリーダム過ぎる恋愛まで許容させようとする団体が幅を利かせて、懐古主義的なアメリカの人とぶつかるようになるんだけどね。


「えっ?土曜日の午後に体操クラブに通いたいの?」


「うん、僕って体が小さいから運動は不利だけど、器械体操は体が軽い小さい選手が有利らしいんだ」


 他にも競馬選手とか競艇選手とか、体が小さくて軽い方が有利というのも調べたらあったけど、賭け事に関わりたいとは思わなかったからね。


「ミコトは頭が良いのに、そっちの習い事はしないの?」


「勉強についていけないなら行くけど……」


 前の地球では、AIが発達して来て、頭を使う仕事がどうなるかって言われてたんだよな。


「お父さんが、ミコトを将棋の奨励会に参加させたがってたけど……」


「趣味で指すだけなら行かなくても充分だよ」


 すぐにオンライン将棋が出て来て、相手に困らなくなると思うし、AIが発達して人が勝てなくなっちゃうと思うからさ。


「何でこの子は体育会系なのかしら?」


「農家をするなら体が資本だよ」


 将来の義祖父母の茶畑を継ぐのか、母さんの実家でスローライフをするのかは分からないけど、農家をするのは決めてるからね。


「うーん……、ミツル兄さんは、農家は頭だって言ってたけど……」


「そのためのパソコンでしょ?僕、そっちは結構勉強してるよ?」


「それもそうね……」


 どうやら母さんは、僕が体操クラブに通うことを許してくれそうだ。まぁ父さんの給料があがって経済的なゆとりがかなり生まれてるもんね。


「でも宙返りとかするんでしょ?危なくないのかしら?」


「そんな事を考えたら、どんなスポーツも出来ないよ」


 プロのサッカー選手とか野球選手とか、しょっちゅう故障とかしてるもんね。


「ほら、母さんがマタニティ教室言ってたスイミングクラブとかどう?」


「そっちは土曜日の夕方だよ?」


「駄目なの?」


「駄目じゃ無いけど……」


 土曜日の午後なら……、いや夕方から水泳だって言えば大丈夫かな?


「もしかして、シオリちゃんを避けるために通うの?」


「えっ?うん……」


 どうやら母さんにバレてしまったらしい。


「はぁ……、シオリちゃん可哀想に……」


「だってミサキと婚約してるんだよ?」


「それって交友関係もしちゃいけないものなの?」


「だってシオリちゃん。僕の事を好きだって……」


 既に友達以上恋人未満の状態になっている気がする。恋人未満はミサキのためにも死守しないと。


「なるほど、もう告白受けてたのね……」


「うん……」


 母さんは少しだけ目を瞑って考え事をした。


「去年の夏休み前かしら?」


「えっ?」


 どうして分かったの?


「どうして分かるのって顔してるわね」


「うん」


「シオリちゃん、コトミにしょっちゅう会いに来てるのよ?去年の夏休みの間もたまに来ていたの。でも扉の前に来てるのに、入るのを躊躇した日があったのよ」


「……それだけ?」


「うん、それだけ。他は普段通りだった。凄い強い子ね」


「そうなんだ」


 学校では少しづつ距離が開いていったけど、ミコトに会いに来てた時は違ったんだ……。


「ミコトにはミサキちゃんぐらいの子が合うと私も思うわ」


「うん……」


「でも母さんはシオリちゃんを応援するわ」


「えっ?」


 何でそんな事を……。


「私には遠くにいるミサキちゃんより、近くにいるシオリちゃんの方が可愛いもの」


「……そんな……」


 そんなのミサキにどうしようも出来ない事じゃないか……。


「ミコトとミサキちゃんに不思議な縁がある事は分かるわ。でも私にはミコトとシオリちゃんにも不思議な縁があるように見えるの」


「……」


 そんなの無いよ。前の地球の僕は、シオリちゃんのような子にあった事はない筈だ。


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