第56話 エロガキだもの
観覧車から出たあと、係員の人に画板と絵の道具が入った肩掛けを受け取り、僕は放心気味になっているシオリちゃんの手を引いてメリーゴーランドに向かった。
そして丁度全景が見えるベンチにシオリちゃんを座らせ、僕は液晶に映る画像をみながらラフなデッサンを行った。
この時代のデジカメは液晶が小さいし画像も粗いし拡大や縮小も出来ない。
電池の持ちもあまり良くないのであまり付けっぱなしも出来ない。
だけど目に焼き付けた景色で補填出来るため、小さな画面を見るだけで、ラフなデッサンを描くことは余裕だった。
前の地球では絵心が無かったため、丁度簡単な絵心がある子供の絵ぐらいに仕上がってくれる筈だ。
「シオリちゃん」
「……」
うーん……、重症みたいだ。
シオリちゃんの赤面はゴンドラを降りる頃には治まっていたんだけど、画板と絵の道具が入った肩掛けカバンを受け取っている時に、後ろのカップルが通り過ぎがてら、「見てただろエロガキ」と言ってシオリちゃんにトドメを刺したんだよね。
僕は盗撮バレてないとホッとしたけど、シオリちゃんは覗きバレたとショックを受けちゃったみたいだ。
だからお詫びがてら、僕の描く絵は見つめ合ってる姿じゃなくて、実際にキスをしていて、口のあたりに小さなピンクのハートまで付けちゃうつもりだ。
エロガキからの恋愛成就のお守りだよ。
「時間内に簡単な色塗りまでしておかないと、学校に帰ったあと描けないよ?」
「……ミコト君……」
シオリちゃんは体の成長は僕と同じぐらい遅いけど、日焼け止めを兼ねて軽く化粧をしているし、仕草がちょっと大人びている。
小学校3年生ともなると、軽肥満の女の子は身長140cm近くあり、女性としての成長も始まっていたりする。
シオリちゃんがそれだったら、この熱っぽい視線で見られている状況は、結構ドキッとさせられたかもしれない。
「ほら、これメリーゴーランドに乗ってる人がいる時の写真だよ」
「……うん……」
この時代のデジカメは画像の取り込みにラグが大きいから、動きが早いものを撮るのは大変だった。
だからシオリちゃんに見せているのは、アトラクションの時間が終わり、ゆっくりなり始めた時を狙って撮ったものだ。
「鉛筆で線を描くまでしておかないと、先生に怒られちゃうよ?」
「……うん……」
まぁ、まだお昼前だから、充分時間はあるけどね。
でもお昼時間に1回お弁当を取りにいくため集合になっているし、そうなったら僕とシオリちゃんは別々に行動するかもしれないよ?
「じゃあ僕は水場でバケツに水を入れて来るからね」
「えっ?」
決まった水場以外でバケツの水を汲んだり零してはいけないと言われてて、メリーゴーランドからはちょっと遠い場所にしかないんだよね。
1年生の時の動物園は水場がいっぱいあったし、2年生の港の時は水場に近い場所で絵を描いたから困ら無かったけどさ。
まぁ軽く彩色するだけだし、バケツ1杯分で良いから一往復程度気にしないけどさ。
◇
バケツに水を入れて戻ると、シオリちゃんは水筒の飲み物を飲んでいた。初夏前で気温的には涼しいけど、太陽が出ていて汗ばむ陽気なんだよね。
赤白帽を被っているぐらいじゃ日差しを防ぐことは難しい。麦わら帽子が欲しいところだ。
「シオリちゃん大丈夫?あっちのテント下の方に行く?」
「大丈夫」
デジカメの画面を見て描くなら、日のある所より暗いほうが良いんだよね。なんせこの時代のデジカメの液晶画面は結構暗いから、太陽の下だと見にくいんだよね。
「ミコト君、早いね」
「絵が?」
「うん、もう絵の具使うんでしょ?」
「うん、長く描いたって意味ないからね」
ベタベタ重ね塗りする油絵ならいざ知らず、水彩画はラフな下書きにサッと色塗りする方が綺麗だと思うんだよね。
ポスターカラーみたいな絵の具ならきちっと線を描いてちゃんと塗るけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます