第2話 死ぬ前に童貞を卒業したい

 僕は昔、自称宇宙人にたまたま捕まって、何かを埋め込まれて観察をされ続けていたらしい。

 そしてその自称宇宙人から今度は僕を解剖すると言われている。


 意味が分からないけれど、目の前のマッチングアプリで会うことを約束していた女性に化けた自称宇宙人はは、そういうことが簡単に出来てしまう存在なんだという事はなんとなく理解した。


「それで先生から、そろそろちゃんとキャトっ解剖分解して、課題を終わらせなさいって言われたんだけど、僕が初めて観察したものだし、君に少しだけ愛着が湧いちゃったてさ。それに次の課題が、観察記録に基づく原始生物群の創造だって聞いたからさ、キャト解剖分解するついでに、君の記憶を複写して、それを僕が作った原始生物に転写すれば、ただキャト解剖分解すって標本にしたものを先生に渡すだけより良いと思ったんだよ」


「世界の創造って……」


 この自称宇宙人って世界の創造が出来る存在なの?神じゃん。


「一応好きに世界はいじれるから、君が好きそうな世界を作るよ?君みたいな原始生物はキャト解剖分解する相手でしか無いけど、居心地のいい環境を作ってのびのびして貰いたいからね」


「好きそうな世界?」


「えーっと、君が一番平均的に情報処理機関を活発化させた時……、「僕がオトナになった夏休み〜捕獲した虫娘とヤリまくれ」に基づいた世界が良いのかなと思ってるんだけど……。それとも「マジエロ学園ファンタジー〜淫紋の力でハーレム無双」が良い?「家畜コレクション〜擬人化娘とスローライフ」でも良いよ?それとも3つを組み合わせる?」


 それ、僕がオカズとして多用していたエロゲーじゃん。


「3つ組み合わせるって?」


「君の幼生期から初等期が「僕がオトナになった夏休み〜捕獲した虫娘とヤリまくれ」で、中等期から高等期が「マジエロ学園ファンタジー〜淫紋の力でハーレム生活」で、それ以降が「家畜コレクション〜擬人化した家畜娘とスローライフ」みたいな感じ?」


 3つとも全然違うジャンルのゲームだしおかしくない?「ぼく虫」はアドベンチャーゲームだし、「マジ淫」はロールプレイングゲームだし、「かちコレ」はシミュレーションゲームだし……、組み合わせたらカオス過ぎる世界のような……。


 あと僕の人生で一番の絶頂期って全部エロゲで抜いてる時だったんだ……。虚し過ぎるんだけどそれ……。一度リアルな女性と恋愛したかった……。


「どうする?」


「……その前にちゃんと童貞を卒業したい……、だからちょっとの間で良いから元の場所に戻して欲しい……」


 週末に会うことになるミサキさんに全力でアタックしよう。そして土下座しても良いからヤラせて貰おう。ミサキさんは30歳の女性だし誠意を見せれば懐深くいけるんじゃないだろうか。もしそれが叶うなら少しは未練が晴れる筈だ。

 あっ……、あと自宅のパソコンの外付けハードディスクの中身はクリーンにして、動画サイトの閲覧履歴もクリアにしておきたい。

 失踪したら捜索で警察に調べられるかもしれないし、死亡扱いされれば遺品整理で母さんとか従兄達に色々見られそうだしね。


「童貞の卒業って、あの原始的な繁殖活動をするって事?うーん……、今ワープ次元航行中で引き返すのが面倒なんだけど……」


「そこを何とかっ!」


「うーん……、それなら僕とする?君たちのような原始生物なら、どんな個体形状でも変身できるけど……」


「えっ?」


 僕の目の前のミサキさんにそっくりな自称宇宙人を見た。


「君が住んでた巣の再現をしても良いよ?ほら原始生物が繁殖活動する時って、自分の巣でやる割合が多いでしょ?」


「巣……」


 つまり自宅にミサキさんを連れ込む疑似体験が出来るということ?


「だめ?」


「うっ……」


 偽物だと知ってるのに、このミサキさんに似た宇宙人可愛いな。さすが1秒に4組マッチングさせていると宣伝されているアプリ。僕の好みの女性を的確に探し出してくれているらしい。


「よっ……、幼生学校の生徒なんだろ?繁殖活動なんてして良いの?」


「えっ?僕にとっては、あんな原始的な繁殖行動なら大したものじゃないしいいよ。ほら、君がミーと名付けて可愛がってた原始生物に発情されて外部組織をこすりつけられても平気でしょ?」


「なるほど……」


 そういえば、もう家に出入りしていた野良猫のミーちゃんにも会えないって事か……。


キャト解剖解体する準備が終わるまでだから、君の体感時間で……、えぇと1年と7日間と3時間24分58秒だね……、惑星の自転公転や光の速度みたいに変動するものを時間の単位に使うなんてやっぱ原始的だね」


「えっ?光の速度が変動?」


 何それ、アインシュタインに助走つけてグーで殴りつけるぐらいびっくりな言葉なんだけど……。


「うん、∋ⅶ⊥‥⊕❖ωΛ〇∮がωΘψ……」


「うっ……」


「あぁ、ごめんごめん、君の脆弱な情報処理器官では、このレベルでも受け止めきれないんだったね」


 この理解できないものを無理やり脳に叩き込まれて思考が押し流される感じは、滅茶苦茶気持ち悪くて慣れそうにない。とりあえず自称宇宙人は理解を超えすぎた存在だって事を魂で理解させられた感じがするな。



 謎の自称宇宙人に与えられた1年と少しの疑似恋愛を行った。そこで僕は自称宇宙人が化けたミサキ?と出会い、すぐに告白をした。


 自称宇宙人が化けたミサキ?は結婚願望が強かったようで、すぐに僕の家まで来ても良いと言ってくれた、そして田舎に連れて行った日に結ばれた。本当に天にも昇るような体験を僕はすることが出来てとても満足した。


 その後、身内だけの結婚式をあげ、豪華な新婚旅行をして、その後は自称宇宙人のミサキ?と期限付きのスローライフを送った。

 驚いた事に自称宇宙人のミサキ?はすぐに妊娠した。新婚旅行中を含めて毎日のようにした結果だけれど、自称宇宙人が化けたミサキ?が妊娠を演出してくれるとは……。


 けれど自称宇宙人が化けているミサキ?は、僕のような原始的生物には見分ける事が不可能な存在なぐらい同じ存在だと聞いていた。

 つまり僕は地球にいるとき、同じようにマッチングアプリで出会うミサキに告白すれば、こうやって結ばれ結婚する事が出来たという事らしい。


 自称宇宙人が化けたミサキ?は月満ちて小さな女の子を出産した。僕はその子にミナギと名付けた。しかし僕は1月も経たずキャトら解剖分解される事になっていた。


 僕がこの1年疑似体験した世界そのものが自称宇宙人の一部で、僕をキャトっ解剖分解したあとは、自称宇宙人が化けたミサキ?もミナギも全て無にされてしま事を聞いていたからだ。


 僕は自称宇宙人に願った。僕が望む世界が作れるのなら、人生やり直しが出来る世界にして欲しいと。そして僕の目の前にいるミサキとミナギに会える世界に行きたいと。


 僕はミナギに母乳を与える自称宇宙人が化けたミサキ?に全てを話した。

 自称宇宙人が化けたミサキ?は自身が偽物で消える存在だという事を理解してくれた。いや、そういう記憶を僕が告白した瞬間に与えられたようだった。

 自称宇宙人が化けたミサキ?は次の地球があるなら会いたいといってくれた。

 そして自称宇宙人が化けたミサキ?は、人生の分岐になるような出来事や、僕を好きになったポイントなどを教えてくれた。

 自称宇宙人が化けたミサキ?の願いは、「次の私を、私より幸せにして」というものだった。


「じゃあお休みなさいあなた、また会う日まで」


「あぁ、またねミサキ、そしてまた生まれて来て欲しい」


 自称宇宙人が化けたミサキ?とミナギと川の字になって眠り、僕は最後の時を迎えた。そして自称宇宙人にキャトら解剖分解されただの記憶になった。

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