キャトりに来た宇宙人にやり直しの機会を貰いました

まする555号

プロローグ編(2025年度)

第1話 宇宙人に誘拐された

 社会人になって15年。コツコツと続けていた投資に成功し、億り人になったので、会社をアーリーリタイヤし、田舎でスローライフを始めた。

 四捨五入すれば40歳となってしまう僕が嫁さんを迎えるのは難しいと思いつつも、マッチングアプリで時々結婚希望という女性に会ったりもしている。

 けれど僕の年齢について問題無いと回答する女性も、僕が住んでいる場所を伝えた瞬間に連絡が途絶えてしまった。まぁ特に期待していないので気にしないようにしている。


 そんな残暑が落ち着きを取り戻したある日、風呂上がりに夕涼みがてら、月夜に照らされた道を歩いていたら、急に空が暗くなった。


「月が隠れた?いや……」


 こういう独り言が増えてしまったのは、話し相手がいなくて寂しいからではあるんだよな。


「雲一つない空だったよな……、あれ星も見えない」


 秋の夜空は星が少ない。それでもこの田舎では数多くの星が瞬いている。


「うわっ!」


 星が瞬かない平坦な空に疑問に思い見上げていたら、急に目に眼底検査を受けた時の数倍のフラッシュが飛び込んで来た。


「目が、目が〜」


 3分待ったラピュタ王のように視界が利かなくなってしまい、うずくまると、急に地に足がついてないような感覚になり、エレベーターで上がる時の最初の感覚のような加速を体に感じた。


「えっ……、何……、体が浮かび上がってる?」


 そんな感覚がするものの、網膜が焼けた状態が解消しないのか、周囲の景色は真っ白なままで良く分からない。


「なんかものすごく上にいってる?」


 盲目だし周囲で聞こえていた秋の虫の鳴き声どころか風の音もしないし風も感じない。三半規管に感じる体が浮遊して持ち上げられている感覚と耳を塞ぎながら自身に声を体伝いに聞いているような変な感覚。


「一体何なんだ」


 そう言葉にした瞬間、今度は上がっていたエレベーターが目的の階で止まろうとする時のような胃が持ち上がるような気持ち悪さを感じ、今度は上昇が止まりつつあると予想した。


「あっ……、もしかして眩しかった?」


「えっ?誰?」


「地球人の光波長受容器官って低機能なくせに脆弱なんだよね……、まぁこれだけ単純だと治すの自体は楽なんだけどさ」


 そう言われたあと目に熱を感じたと思ったら、急に視界がくっきりした。しかも長年の酷使で衰えていた視力が回復してくっきりとだ。いやそれ以上身見えたものが理解不能で、頭がおかしくなりそうになってしまった。


「うっ……」


「あぁ、ごめんごめん。その脆弱で不完全な情報処理器官に入り過ぎちゃったね……、ちょっと周囲を片付けるね」


 そういって目の前にいる何やら分からない存在は、最近マッチングアプリで次に会う約束した女性とそっくりになり、周囲の景色も真っ白な空間になった。


「これなら情報が少ないからちゃんと君の脆弱な光波長受容器官でも理解できるでしょ?」


「えっ?ミサキさん!?」


「違う違う。僕は仝Å⇔‰〠✗∵ゞ∝……」


「うっ……」


「あっ……、ごめん、僕の自己紹介だけで、君の低密度情報受容器官の処理能力を大幅に超えてしまうみたい。えーっと、平たくいうと僕は宇宙人だよ」


「宇宙人……」


 そっかぁ、マッチングアプリって遂に宇宙人と会えるようなものになってるんだ……。


「それで君をアブダクション誘拐してここにきたのは君をキャトら解剖分解させて欲しいんだ」


「……はい?」


 何か目の前の自称宇宙人のミサキさん声がたまに二重に聞こえるんだけど、うまく理解できないよ。


「……あれ?君の脆弱な低密度情報受容器官と情報処理器官でも分かるように説明したんだけど……」


「いや、僕を解剖分解するって言われたから……」


 もしかして俺を食べる気?


「あっ……、良かった通じてた。うんそうなんだよ。以前君をアブダクション誘拐して、装置をインプラント埋込して観察していたんだよ」


「埋込!?」


 えっ?僕の体に何か異物が入っているの?


「君たち程度の文化水準でもやってるでしょ。破損した体内器官を補強するためだとか、別種生物の行動を研究調査するためだとか、繁殖させた別種生物を取引する際の情報伝達として」


「えっ?何それ」


「あれ?不良になった体液循環器官の調整装置とか、ウミガメの行動観測とか、和牛の生産者情報とか、君と同種が非常に原始的なインプラント埋込しているでしょ?」


「それって心臓のペースメーカーとか、ウミガメの発信機とか、牛の耳につけられてるタグとか?」


「そうそう、それと似た感じだよ。僕も学校の課題で下等な原始生物達の中でも比較上位な種の君にインプラント埋込してずっと観察していたんだよ」


 それって観察していたモルモットである俺を解剖調査するみたいな感じ?


「何で僕を?」


「えっ?|学校から観察するためだけにワープ次元航行してここまで何度も来るのが面倒だったからね。衛星軌道に観察装置を飛ばしておく事も出来るけど、幼生学校レベルの僕が作ったものだと、君の体の4つ分ぐらいの大きさにはなるし、そこまで大きいと、君の同種の誰かに発見されて壊されちゃう可能性があるんだよ。そしたら幼生学校の課題がこなせず初等学校への入学が遅れちゃうよ」


「いやそういう事じゃなくて、沢山の人の中から僕を選んで観察してた理由を知りたいんだけど」


「ん?最初に見つけた個体が君だっただけだよ。観察期間程度だったら持ちそうなぐらいの幼生個体だったし……」


「たまたま……」


 特別に選ばれたとかでは無いんだ……。


「初等教育生だったら、同種個体全部捕獲してインプラント埋込して、より正確な観察記録をとかするんだろうけど、僕ってまだ幼生学校にいるし……」


「幼生……」


 普通の成人女性に見えるけど……。いやミサキさんに化けてるだけだからこいつの見た目は実際には違うのか……。


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