Chrono ―観測から選択へ―

ESMO & Chrono-CAP

プロローグ

「もう少し右だ。ああ、いや、そっちは動かさなくていい」

 舞台上でタブレットと会場を見比べながら大袈裟に手を振り回す男の指示で、十数人がかりがただの白い円柱や布の配置に右往左往している。本番になればホロプロジェクターにより、ただの円柱は豪華な彫刻の柱になり、布はシルクの光沢が美しいドレープとなる。

 男は腕時計に目を落とすと、舞台袖に駆け寄った。

「クラリス主任、そろそろお願いします」

 クラリスと呼ばれた女がパーティションの裏から出てくる。

整った顔立ちを一層華やかにする微笑みで男に軽く会釈し、三百六十度を映像記録する小型撮影機――ピコドローンが飛び交うステージへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る