Ep.1-④ 発表
二人並んで通学路を歩いていた俺と美亜さんは、やがて在籍している私立・
春の陽気が満ちた校門付近は、同じく登校する多くの生徒で溢れかえっていた。
「人が多いですね。いったん別々に登校しますか?」
「いいえ、このまま二人並んでいきましょう。二年生初めての登校は、
「……そ、そうですか」
あぁもう、この
顔がにやけそうになるのを何とか堪え、互いがなるべくはぐれないよう、密着するぐらいの距離感で歩く。
「……あ、
校門を通り過ぎると、一人の女子生徒が美亜さんの姿を見かけて声を上げる。
すると周りにいた群衆は皆一斉に、俺と
「ホントだ、富岳さんだ」「ちんまりしてて可愛いなぁ」「ハァ……見てるだけで心が癒されるぜ」「全くだ……彼女こそ楷納高校を代表する美少女アイドルだよな」
生徒たちは石畳の上を歩く美亜さんの姿を観て、思い思いの感想を口ずさむ。
「おっぱいデッカ……アレを好きにできたら最高だろうなぁ」
「!?おいッッ誰だ今ッ不純なことを口走ったのはッッ!!?」「しばくッ!!」「コロスッッ!!!」
どこかの男子がポロリと溢した不純な本音に、群衆の一部は一触即発の危ない空気となる。いいぞ、やれ。見つけ次第シメ上げろ、と心の中でぼやく。
やはり、学園一の美少女の名を冠する美亜さんへの注目度は、新学期になってからも色あせないようだ。
しかしその反面、徐々に雲行きが怪しくなるのが、隣を歩く俺の存在に対してである。
「おい、富岳さんの横を歩く男子は誰だ?」「あんな大きい男子、うちの学校にいたっけ?」「富岳さん専属のボディガードとか?」「いやむしろ下僕?」
一年生の時は目立たず日陰寄りに生きていたのが災いしてか、俺を知らない大衆の不審がっている視線が、背中に突き刺さる。
というか誰が下僕だコラ。ボディガードは全然ありにしても。
「……あ、あの。やっぱり俺みたいなのが美亜さんの隣を歩くのは、不釣り合いな気がするんですけど。離れて歩いちゃだめですか?」
「ダメです。力也君は私の交際相手なので、毅然とした態度で隣を歩いてください。みんなが何と言おうと、私は力也君と離れ離れには動きませんから」
トゥンク。
ひゃだ、かっこいい……。
生徒たちからの訝し気な視線に尻込みしている俺とは違い、美亜さんには確固たる信念があるようだ。
そうして校舎に向けて二人並んで歩いていると、一人の男子生徒が大衆の中から躍り出る。
「やぁおはよう、
その男子は美亜さんに対してビシッ!と決めポーズをとり、ワックスで固めた髪をわざとらしく撫でる。
すらりと伸びた美脚に、すらっと滑らかな上半身。三角定規かと思うほどに鋭角な輪郭と美しく揃った顔のパーツ。いかにもメンズ系ファッション雑誌の表紙を飾りそうな、クール系のイケメンである。
「おはようございます、
美亜さんは一度歩を止め、ぺこりと頭を下げて挨拶する。隣にいる俺も一応それに続く。
そして米田先輩は爽やかにはにかんだ後、つかつかとこちらに歩み寄ってくる。
「今日は晴れて始業式の日だね。午後からは自由時間みたいだし、キミさえよければ僕と一緒にお茶でもどうかな?」
「結構です。昼からは別の予定を入れてありますので、そちらを優先させてください」
「なら今から、僕と一緒に少しお話でもしないかい?今の時間は自販機しか動いていないけど、キミの好きな飲み物を奢ってあげるよ」
「結構です。喉は乾いていませんし、少しでも早く教室に行きたいので」
米田先輩からの誘い文句を、美亜さんは淡々と突き返す。
米田先輩は渾身のアプローチを見舞っているというのに、美亜さんの反応はまるでハエたたきで羽虫を捌くかのような、温度差の激しい無機質さを放っていた。
……というか
自分のアプローチが響いていない、そう判断した米田先輩は爽やかな笑みから一転、表情を引き締め美亜さんの前に
「富岳美亜さん!――僕と、付き合ってください!」
「ッ!?」
「おぉっ!」「あの演劇部のエースの米田先輩が、富岳さんに告白したッ!」
俺と群衆の間に動揺が広がる。
米田先輩は顔スタイル共に整った美男子だ。それこそ大抵の女子なら二度ならぬ三度見し、彼が振り向けば黄色い声を上げるだろう。
そんな彼からの告白に対し、美亜さんは――
「ごめんなさい」
深く頭を下げ、拒絶の意思を表明する。
「ッ!!?」
俺がホッと肩を撫でおろすのと米田先輩がたじろぐのは、ほぼ同時のことだった。
「おぉっ!!」「あの米田先輩からの告白も玉砕だぁ!」
「さっすが俺たちの富岳さんだぜ!!」「皆が期待していたことを平然とやってのけるッ!」「そこにしびれる憧れるゥ!!」
周りの観衆も待ってましたとばかりに大きくどよめく。ジョ〇ョ好きなのが数人いるな。
「そ、それなら!お付き合いとは言わず、友達からでも……」
「それもお断りします。米田先輩とは、ただの生徒の関係を望んでいます」
米田先輩は慌てて代案を繰り出すが、それでも美亜さんは首を縦に振ろうとしない。
「な、なぜそこまで頑なに……?」
「すみません、先輩。私にはもう、心に決めた人がいるんです」
美亜さんがそう言い放ち、群衆がざわっとどよめいた、次の瞬間――
むにっ!
美亜さんはその豊満な果実がつぶれるほど強く、俺の二の腕に抱きつき密着する。
「……んぇっ!?」
「私は本日より、この隣にいる
俺が拍子抜けした声を漏らすのもつかの間、美亜さんはそれはもう輝かしい笑顔でカミングアウトをする。
刹那、俺と美亜さんを取り囲む一帯は時が止まったかのように静止し――
「「「「「えええぇぇぇぇえええっっっ!!!???」」」」」
生徒たちによる大絶叫が響き渡る。
「あの
群衆のうちの女子は驚きに目を皿のようにし、俺と美亜さんを交互に見比べる。誰が金剛力士像だ。
「おオヲ、俺たちの富岳さんが、一人の男の手に……!」「泣くな馬鹿野郎!!富岳さんが男子の誰かと結ばれるのは、いずれ分かり切っていたことだろうが!!」「おぉ、神よ……神よ……」
対して男子は、泣き崩れたりその場にうずくまったりと散々な有様であった。申し訳なさとは別の一種の優越感が沸いてくるあたり、もしかしたら俺も性格がひん曲がっているのかもしれない。
再び前を向けば、米田先輩の姿はすでに消えていた。
美亜さんが自分に脈無しならともかく、すでに交際相手が決まっていたともなれば、長くとどまる必要もなかったのだろう。
「ふふ。少し騒がしいことになってしまいましたね」
「……こうなることは、想像に難くなかったとは思いますが」
「こうして公に発表できたのは、私にとって願ったり叶ったりではあるんですけどね♪」
いまだに俺の二の腕に柔らかいおっぱいを押し当てているのも気にしないまま、美亜さんはニコニコと笑みをたたえる。
俺はそんな愛おしい彼女にはにかみを返しつつも、これからの学園生活に大きな波乱が待ち受けているのを肌身に予感するのだった。
(ここから著者コメント)
ここまで読んでいただきありがとうございます。かにゃびぃです。
ついに力也と美亜の、カップルとしての学園生活が始まりました。次回からの展開に期待していただけたら幸いです。
「この作品いいな」と少しでも思っていだけたなら、ブックマークへの登録にページ最後の応援ボタン、レビューやコメントなどを寄せてくださると嬉しいです。
読者様方からの各反応が作品更新の励みになります。よろしくお願いします!
かにゃびぃでした!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます