9日目 動物園

 今日は動物園でアルバイトをすることになった。


 入口を入ると、にぎやかな声と、草や動物たちのにおいが混ざり合っている。

 胸が少しくすぐったくなる空気だ。


 最初に案内されたのはキリンのエリア。

 高い首をすらりと伸ばして、もぐもぐと葉っぱを食べている。


 僕も真似して首をぐいっと伸ばしてみたけれど……やっぱりナマケモノの首は伸びなかった。


 それを見ていたお客さんが「ほら見て、隣のぬいぐるみもがんばってるよ」と笑ってくれた。

 うん、笑ってくれたならそれで十分。


 次はゾウの水浴びを手伝った。

 ホースを持たせてもらったけれど、勢いが強すぎて、自分までびしょぬれに。


 ゾウがパオーンと大きな声で笑ったみたいに鳴いて、観客から拍手が起こった。


 びしょぬれのまま手を振ったら、子どもたちも手を振り返してくれて、胸の中まであたたかくなった。


 お昼の後は、飼育員さんに頼まれて「休憩中のぬいぐるみ」として展示スペースにちょこんと座った。


 来園者たちは「新しい動物?」「ぬいぐるみが本物に見える!」と話し合っていて、僕はただ目を細めてうとうとするだけ。

 それでも、なぜかたくさん写真を撮られた。


 夕暮れどき、園内にアナウンスが流れる。


 「本日も動物園にお越しいただき、ありがとうございました」


 僕も、こっそりお辞儀をしてみた。

 ナマケモノのスピードだから誰にも気づかれなかったけれど、それでいい。


 さて、明日はどんな場所で働こうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る