EP 25

百狼との取引

モウラは手際よくヴォルフを縄で縛り上げると、その腹に軽く拳を当てた。

「ハッ!」

闘気の衝撃が、ヴォルフの意識を無理やり覚醒させる。

「う、うぐ……?」

「どうするの? この狼」

優斗が、まだ朦朧としているヴォルフを見下ろしながら尋ねた。

「決まってるでしょ! 後で衛兵さんに突き出して、牢屋に放り込んでもらうわ!」

モウラはきっぱりと言い放つ。しかし、今はそれよりも優先すべきことがあった。

「……でも、その前にまずはエリーナを探すのが先よ!」

「そうだな。とりあえず、はぐれた場所に戻ってみよう」

優斗たちは、捕虜となったヴォルフの縄をぐいぐいと引っ張りながら、先ほどまでいた広場へと戻った。しかし、そこにエリーナの姿はどこにもなかった。

「いない……!」

「もう! あなたのせいで、大事な仲間とはぐれたじゃないの!」

モウラが、八つ当たり気味にヴォルフを睨みつける。それを聞いたヴォルフは、ニヤリと口の端を吊り上げた。

「……俺のせいか? まあいい。あんたら、人探しをしてるんだろ? 特徴を言ってくれたら、うちの『百狼』のメンバーに探させてやってもいいが?」

「……要求は?」

優斗が、即座に真意を問う。

「へっへっ、話が早くて助かる。勿論、この縄を解いて、俺様を無罪放免にすることよ」

ヴォルフの言葉に、モウラは「うーん……」と腕を組んで唸った。悪党をこのまま逃すのは、彼女の正義感が許さない。だが、優斗の考えは違った。

(普通の迷子じゃない。エリーナの方向音痴は、文字通り“致命的”だ。この広いエターナルで、変な路地裏や危険な地区に迷い込んだら、命に関わるかもしれない……!)

「良し! その条件、飲んだ!」

優斗の即決に、ヴォルフは満足げに頷いた。

「話の分かる奴で助かるぜ。――ウォォォォォン!!」

突如、ヴォルフが天に向かって、本物の狼のような遠吠えを上げた。その声に応えるように、周囲の建物の屋根や路地裏の影から、十数人の人影が音もなく現れ、ヴォルフの前に跪く。

「お前ら、聞いての通りだ。エリーナって名前の、エルフの女を探せ。特徴は……」

ヴォルフが二人に視線を送る。

「亜麻色の髪で、エメラルドグリーンの瞳! すぐ転ぶおっちょこちょいよ!」

「あと、極度の方向音痴です!」

「……だそうだ。総員、散れ!」

「「「分かりやした、兄貴!」」」

ヴォルフの号令一下、『百狼』のメンバーたちは、再び影の中へと溶けるように消えていった。その統率された動きに、優斗とモウラは息を呑む。

今はただ、この街の裏社会を支配する狼たちの情報網に、一縷の望みを託すしかなかった。

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