届かぬ狂愛
まなじん
届かぬ狂愛(0:0:1)
所要時間 約10分
登場人物
私:性別不問。無敵の人の「あなた」を愛する異常者。
※最後に「女の子のお話なのです」とあるが、男性が演じて「男の子」に変えても構わない。
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嗚呼、私もそちら側なのに。
初めて自分と同じものと出逢えたのに。
運命だ、と思ったのに。
濁った瞳はキラキラしてて、
穢れたもの同士がそこにいるだけで
私は幸せでした。
私も壊してくれたらあなたと一緒になれた。
なのに
なんで
あなたが終わった時に隣にいられなかったの。
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かつて無敵の人と呼ばれていたあなた。
失うものがないから目についた人間を喰らいました。
傍からはそれはそれは
残虐な行為に映ったでしょう。
無慈悲でも理不尽でもあったのです。
けれど私から見たあなたは。
光でした。
泥のように重たい水底から引き上げ…いいえ。
ともに、堕ちていってくれていました。
光も音も届かない場所に沈んでいた私を
あなたは傷つけました。
けれどそれはとても幸せでした。
あなたの手がそこにあったから。
どのような理由であれ
あなた自身が私に触れることがどれだけ幸福か。
私は、あなたのすべてを
根こそぎ愛してしまったのです。
どんな汚濁に塗れた所業だって、
人を人と扱わなくたって、
死に値する業と罰だって、
私のような異常な思考を持つものにとっては
やっと出逢えた運命でした。
深い紅に染まったその衣。
鉄の味がする赤に頬を染めたのも。
他の皆には潰えた自分たちの末路に見えても、
私の目には美しく映っていた。
あなたが蔑んだこの世界も、
あなたが蔑んだ自らも、
私は丸ごと包み込みます。
私が知らない以前のあなたも
私が知った今のあなたも
私には愛しいあなたに変わりありません。
そんなあなたに私は自分から
触れることができました。
表情は冷たくしましたが、内心はどれだけ
胸が高鳴ったことか。
殺意と堕落と罵倒と自暴自棄と無気力。
それらが共存するここは
孤独なあなたがひとりぼっちで作り上げた
願いだったのでしょう。
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そんな夢の中で、夢のような光景を
この目に焼き付けました。
橙色に傾き始めた廊下を歩いていれば
錆びれた鉄格子の向こうから音がしました。
好奇心に押されそっと覗くと。
陽の色を纏い、小さなステップを踏む
ひとりの少女がいました。
私が恋焦がれるあなたさまでした。
好きなこと、なのでしょうか。
誰もいない部屋で
何の音楽もなく
さみしそうな微笑を浮かべた、憐れなプリマ。
翻すたびに聞こえる衣擦れと、ピンスポットの逆光。
おそらく誰も理解しないあなたにまた堕ちました。
憂いげな表情は
なにを思い浮かべているのですか。
手を伸ばしました。伸ばしたけれど、
瞬間あなたが幻と化する気配がして
ただ、私だけのあなたを
この目に焼き付け、独占した。
そんなこともありました。
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あなたは知らないでしょう。
同族がここにいるのを。
どうでもいい罪人に正義の名のもとに
鉄槌を下す。
善者の振りをしているだけです。
そうすれば、
あなたは私を見てくれる。
私に触れてくれる。
私と喋ってくれる。
あなただけができる方法で⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
私を、壊してくれる。
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幸せは、続きませんでしたね。
いつか終わりを迎えるものです。
いつもより美味しそうで温かそうなお盆を
あなたのために運ぶ手を見下ろしたら、
視界は滲んでいました。
結局あなたは、床の上に立った。
私がどれだけ懇願しても
周りはボタンを押す役割を与えてくれませんでした。
雨が降ったとき、
絶望したあなたの隣にいたかったです。
私がそばにいますよ、などと我儘を宣えば
あなたは私を
汚物を見る目で見つめてくるでしょうか。
それとも、
ひとりじゃなかったと微笑んだのでしょうか。
身内も、友達も、道行く傍観者も、
正義の味方も、悪意の敵も、
これまで出会った誰だって
追いついてくれなかった夢と願いの中に、
清廉潔白の皮を被った愛がいたことを、
どうか覚えていて。
これはこれは
遠いとある悪人に
恋して愛した正義の女の子のお話なのです。
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あの後。
あなたと同じ場所で暮らせる方法を思い出しました。
奇跡のようでした。
神様が与えてくれたご褒美でしょうか。
今度こそ
ふたりで、幸せになりましょうね。
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END
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