立場違い
花萼ふみ
私の位置
私、森永香澄は同じクラスの吉田英治に恋をしている。
「吉田ー今日の部内戦、吉田も参加しない?」
「え~でも俺部員じゃねぇしなー」
「いいじゃん!別にウチはそんなお堅い部じゃないし、先輩たちだって吉田のこと好きだし」
「まじ?じゃあ行こっかな!」
「やった!じゃ、放課後に体育館な!」
「え!吉田、今日バスケ部参加すんの⁉じゃあ、うちらも見に行きたーい!」
そんな、所謂陽キャの間で交わされそうな会話の中心に彼はいる。かたや私は教室の端、俗に言う「当たり席」であろう窓際の一番後ろに座って本を開いていた。こうしていれば、たとえページを捲っていなくてもばれることなく彼らの会話を盗み聞きできるから。予鈴が鳴ったのを合図にそれぞれの席に戻ろうと散っていく彼等を横目に、私は窓の外に目を遣った。
私が吉田のことを好きになってしまったのは些細な出来事がきっかけだった。同じクラスになった当初から吉田は目立っていて、同じく明るい人たちと仲良くしていた。だから、私は勝手に吉田のことを敬遠していたのだ。それなのに、体育祭の準備期間に学年競技の大縄跳びを練習していた際、縄に足を取られて無様にも転んでしまった私に一番に手を差し出してくれたのだ。いつもと変わらない屈託のない笑みに「大丈夫?保健室行こ」と寄り添うような声音。私は勝手に吉田たちのようにクラスの中心にいる人たちに、自分のような暗い人間は影で「あいつと話すのめんどくね?暗くて何考えてるか分かんないし」みたいな後ろ向きなことを言われていると思い込んで距離を置いていたのに。この人にはそういった壁はないのか。そんな、本来気づけたであろう事実に今更気づいて何だかむず痒い気持ちに襲われた。保健室で処置を施してもらった後の「はい、これでもう大丈夫ね」という保健室の先生の言葉に安堵したように「よかったな」と微笑む姿に、すき、とそんな気持ちが沸き上がってきてしまったのだ。それからずっと、私は彼に恋をしている。
だけど、分かっているのだ。彼と私とでは世界が交わることなんてなくて、今いる場所も全然違うってことに。「身分違いの恋」とでも形容すればいいのだろうか。…でも、ここはただの高校で身分制度なんてない。だから、強いて言えば「立場違いの恋」なのかもしれない。卒業までもう二年を切った。三年に上がる時にはクラス替えだってあるだろう。その時までに私はこの思いを告げられるのだろうか。たとえ、というか十中八九振られるだろうことは想像に難くないけれど、せめて後悔だけは残さないように。そんな小さな覚悟を胸に私は彼が写る窓を眺めていた。
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