KATANAの為に 蝦夷阿弖流為えみしあてるい

蝶紀代

    序章

蝦夷(えみし)のコオは荷物を背負って若狭に向かっていた

坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の記録した巻物と薬師如来像を寺に納める為だ

コオは思っていた

『俺が田村麻呂の処で生き残らされたのは、こんな役目をする時が来るからだったんだ

阿弖流為(あてるい)は分かってたんだ、

すごいな…

でも田村麻呂もすごいな、1000年って…』


「明通寺の住職に言って、この如来像と共にこの巻物を1000年開けること無く守ってほしいと頼んでくれ、

私と阿弖流為の真実が書いて有る、のちの世に本当の事を分かってもらう為だ

私の体ではもう若狭には行けないだろうから、コオ 頼む」

「分かった、それが田村麻呂の願いなんだな?」

コオが受け取った

「お前!家人のくせにご主人様を呼び捨てとは何だ!」

他の家人がたしなめた

「コオは田村麻呂の家人じゃない!

阿弖流為とリヨウに頼まれただけだ、

コオは今でも蝦夷橙族(えみしだいだいぞく)のコオだ!離れてたってみんなとの絆は繋がってるんだ!誰にも邪魔は出来ないんだ!」

「それで良い」

コオの言葉を聞いて田村麻呂は微笑んで言った

田村麻呂はまた眼を病んでいた

以前若狭で眼を病んだ時 霊夢を見た

「薬師如来を作らせ、戦いで死んだ者と苦しんだ者に傷病へいゆの祈願をしろ」

夢で何者かにそう言われ、若狭に寺を造り薬師如来像を納めた

しかしいくさは更に続き、また眼を病んだのだ

眼が見えるうちに大事な事を書き記し、

明通寺の住職に、新たな如来像の後ろに隠した巻物を頼んでもらう為に、コオを若狭に向かわせたのだ

「朝廷は事実を曲げてしまうだろう、

今でなくて良い、のちの世に真実が証されればよい

私の眼は多くの者を死なせた報い、

おそらくもう治るまい…」

田村麻呂はそう思っていた

よく見えない眼をつぶって田村麻呂は昔を思い出していた…

若かった日、自分の生き方さえ変えさせる程の、心揺さぶられた信念の男 阿弖流為との出逢いと激動の日々の事を…


             第1章へ つづく

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