第5章 刑事の質問
社員は、少し緊張しながらも、
「…朝、出社して、PCを立ち上げて少ししたら、ECサイトに繋がらなくて…、そのうちアラートが鳴り…それで、システム管理部に連絡しました…」
と答えた。
朧月は、頷きながら、その社員の言葉を、ホワイトボードに書き留めた。
「…なるほど。…ありがとうございます」
朧月は、そう言うと、再び、影山の方を見た。
「…影山さん、あなたはこの会社のセキュリティ担当だそうですね?」
朧月は社員カードと影山の顔を見比べながら言った。
「…はい…」
影山は、動揺を隠しながら、答えた。
「…今回のシステムダウンについて、何か、ご意見はありますか?」
朧月の目は、影山を、じっと見つめている。
その視線から、逃れることはできない。
影山は、覚悟を決めた。
(…こうなったら、最後まで、シラを切り通すしかない…)
「…先ほども申し上げたのですが、外部からの攻撃である可能性が高いと思います。…ログには、不審なアクセス記録が残っていましたし…」
影山は、冷静を装って答えた。
しかし、その声は、わずかに震えていた。
「…そうですか」
朧月は、言葉を切り、少し間を置いた。
そして、
「…確かに、こちらでログを見た限り、ECサイトは外部の何者かに攻撃されているようでした。」
と、口にした。
社員たちは、ざわめいた。
「やっぱり、外部からの攻撃か?」
「一体、誰が?」
「何で…?」
口々に疑問の声を上げる社員たち。
「…一体、どうやって…?」
影山は呟いた。
その瞬間、朧月は、鋭い視線を、影山に向けた。
まるで、獲物を捉えた鷹のように、鋭く、冷たい視線だった。
影山は思わず口をつぐんだ。
青山は、ホワイトボードから視線を外し、影山と朧月のやり取りを、じっと見つめていた。
朧月は、小さく頷き、ホワイトボードに目を戻した。
マーカーを手に取り、「外部からの攻撃」と書かれた文字の下に、新たな単語を書き加えていく。
「…不審なアクセス記録…、」
マーカーの先が、迷いなく動く。
書き加えられた情報を見ながら、社員たちは、固唾を呑んで、朧月の次の言葉を待っている。影山も、表面上は平静を装いながらも、内心では、動揺を感じていた。
朧月は、マーカーを置くと、ゆっくりと社員たちを見渡した。
「皆さん、この中に、最近、ECサイトのサーバーで作業をされた方は、いらっしゃいますか?」
静寂が、会議室を包む。誰も、手を挙げない。
「…いない、と。…では、このサーバーへのアクセス権を持つ方は、どなたですか?」
静寂が、再び会議室を支配する。しかし、先ほどとは違う、重苦しい沈黙だった。
社員たちは、互いに顔を見合わせ、誰かが手を挙げるのを待っている。しかし、誰も動かない。
影山は、心臓が、口から飛び出しそうになるのを、必死に抑えていた。
(…まずい…、このままでは…)
彼は、覚悟を決めた。
ゆっくりと、手を挙げる。
「アクセス権なら持っています…他にもこの部署の人間なら、システムのメンテナンス作業をするために、たいていの者はアクセス権を持っています」
朧月は、影山を、じっと見つめた。その目は、まるで、全てを見透かしているかのようだった。
「…ありがとうございます。では、その中で、管理者権限を持つ方は?」
朧月は、さらに質問を重ねた。
「…サーバー自体のメンテナンス作業を行う者なら…」
影山は答えた。
「…具体的に、どなたですか?」
影山は、部内の社員の名前を挙げた。
朧月は、頷きながら、影山の言葉を、ホワイトボードに書き留めた。
「…なるほど」
朧月は、そう言うと、再び、社員たちを見渡した。
「…今、名前が挙がった方々以外に、管理者権限を持つ方は、いらっしゃいますか?」
誰も、手を挙げない。
「ちょっと待ってください。なぜ、管理者権限の確認を?…外部からの攻撃じゃないんですか?」
影山はたまらず朧月に聞いた。
「いえ、まだ、外部からの攻撃と内部からの攻撃、どちらの可能性も考えられます」
(さっきは、ログを見る限り、外部から攻撃されているようでしたと言っていた…)
朧月が内部と口にして、社員たちはどよめき始めた。
朧月はゆっくりと、会議室の中を見回した。
その目は、まるで、獲物を探す鷹のように、鋭く、そして、冷静だった。
社員たちは、皆、息を呑んで、朧月の次の言葉を待っていた。
影山も、内心では激しい動揺を感じていた。
(…何を考えているんだ…? この男…)
周囲のどよめきは数秒間、続いた。
「お静かにお願いします」
朧月は、そう言うと、再び、ホワイトボードに目を戻した。そして、「外部からの攻撃」と書かれた文字を、指先でコンコンと軽く叩いた。その目は、何かを深く考えているように、細められている。
「…システムダウンの原因は、まだ特定できていません。ログには外部の犯行を示す記録が残っています。…が、しかし、一つだけ、気になることがあります」
朧月は、プロジェクターのリモコンを手に取ると、青山が素早くプロジェクターを操作した。スクリーンに、昨夜のサーバールーム付近を映した監視カメラの映像が投影された。
映像には、23時00分前後の様子が映し出されており、時折、激しいノイズが走る。
「…これは…荒いですが…、昨夜のサーバールーム周辺の監視カメラの映像です。…ご覧の通り、ところどころ、映像が乱れています。」
朧月は、映像の一部分を拡大した。そこには、廊下の隅に、一瞬だけ、人影のようなものが映り込んでいる。
「ここに人影のようなものが映っています。」
朧月は、そう言うと、スクリーンから視線を外し、ゆっくりと社員たちを見渡した。
(大丈夫だ…、あいつは俺たちの反応を見ているだけだ。)
影山は、朧月の言葉を心のなかで反芻した。
「…そして、サーバールーム周辺の監視カメラの映像ですが、…このノイズ、どうも、細工された形跡のようです」
朧月の言葉に、会議室は、再び、静まり返った。社員たちは、皆、息を呑み、それぞれの思惑を巡らせている。ある者は不安げに顔を見合わせ、ある者は疑心暗鬼に周囲を見回し、ある者はただただ、床の一点を見つめ、硬直している。
影山は、冷や汗が背中を伝うのを感じながら、平静を装った。
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