第8話 無骨剣ヴェーク
Side:斬殺職人
「師匠、あの話してた1流の剣ですけど、作れると思います。斬殺職人さんの理想の剣も同時にです」
【鍛冶職人:さすが我が弟子じゃ。鍛冶仕事の才能は皆無じゃが、設計に才能ありじゃな】
【斬殺職人:ふん、俺の理想の剣なら使ってやる。じじい、早く作れ】
「ええとですね。斬殺職人さんはマナブレードを使えますよね」
マナブレードはスキルではない。
普通の技だ。
魔力を剣に纏わせる。
それだけだ。
魔鍛冶ならハンマーに、魔法使いならメイスや杖に同じことをしたりする。
ただし、習熟は難しい。
例えるなら、血液を制御するに等しい。
それぐらいに難しい。
【斬殺職人:そうだな。使えるぞ。それが何だ?】
「刃のない鈍器みたいな頑丈な剣で、魔力の通りだけを物凄く良くすれば、良いんです」
【鍛冶職人:わははは。刃のない剣を作る武器職人はおらんのう。訓練に使う木剣ならともかくじゃな。なんとゆうか愉快な発想じゃ】
【斬殺職人:俺の魔力は少ない。長い時間、使えないぞ】
「ええと、たぶんですけど、魔力ならたくさん使えると思います」
【鍛冶職人:そうじゃな。坊主が許可すれば、わしの魔力を使えるはずじゃ。全部の魔力を使えば、山ぐらい崩せるじゃろう】
修練ではなくて、アイデアの一言で、達成される最強。
しかも借り物の力でだ。
だが、装備やスキルで強くなるのを俺は否定しない。
剣を持つ時点で、剣の力を借りている。
良い剣を求めるのは剣士として当然だ。
装備で強化しするのはありだ。
ただ、装備は壊れたりするから、狙われたら弱点にはなる。
なので俺の好みではないがな。
スキルは才能のひとつだ。
生まれ持った才能は否定しない。
【斬殺職人:くそっ、何だか騙された気分だ。しかし、これは俺が最強と言うより、小僧が最強なのでは】
【鍛冶職人:それは最強をどう捉えるかじゃな。最強の戦士を部下にしてる王が最強かどうかじゃな。全盛期の錬金王みたいにのう】
【斬殺職人:くそっ、もやもやするぜ】
俺の最強は達成されたのか?
いや、まだだ。
魔剣での1流剣を、じじいが満足できなかったと言った気持ちが、良く解ったぜ。
これも一つの解だが、別の解も求めたい。
斬り方だって無限にある。
見事に斬れたからと言って、それが至高で理想だとは限らない。
【鍛冶職人:坊主、剣を作るぞ。体の支配をくれんかのう】
「はい。【職人魂】師匠】
「【収納】、アダマンタイトとミスリルかのう。【魔鍛冶】。ほれ、できたわい」
【メモアーレン:【職人魂】キャンセル。師匠、銘は何です?」
【鍛冶職人:無骨剣ヴェークじゃ】
これがひとつの最強の解か。
こんなの至高ではない。
ないが、もし俺が生きている時に魔力量の増量に努めたら。
借り物の力でなくて、最強が実現されていた。
小僧に教えられるとはな。
おお、俺はやり直せるのだった。
今からでも、魔力の増量は問題ない。
【斬殺職人:解を示されたから、名乗っておくぜ。俺はヴルツェルだ】
【鍛冶職人:わしはバンブスだ】
「ええっ! 斬殺職人さんて、無分別剣聖なんですか?! 本人?! うわっ、有名人だ!」
【鍛冶職人:わしは気づいとったがな】
【斬殺職人:小僧、俺は斬殺職人だ。剣聖じゃない。2度と呼ぶな。じじい、勝手に人の記憶を見やがって。待てよ。バンブスって言えば、錬金王の宝物庫にあった剣を打った鍛冶師じゃないか】
「錬金王の宝物庫に師匠の剣があったんですか? 二人とも有名人だったんですね。えっと、斬殺職人さんはなんで、自分の銅像を斬ったんですか?」
【斬殺職人:裏切った糞弟子達が作ったからだよ。俺の金でだぞ。俺の名前で寄付を集めて大半を懐に入れやがった】
「それは酷いですね」
【斬殺職人:だから、弟子が作った門派など全て潰す】
「分かりました。ではこうしませんか。門派は道場破りで潰しましょう。それなら殺す必要はないはずです」
【鍛冶職人:坊主、急に賢くなった気がするんじゃが】
【斬殺職人:剣のアイデアといい。確かにこの歳の子供として異常だな】
「ええと、たぶんですけど、二人の頭の良さを僕が少し借りて使ってるみたいです」
【鍛冶職人:ふむ、となると将来的にはわし達の全てを受け継ぐのじゃな】
【斬殺職人:小僧に負ける日が来る恐れがあるのか。小僧。いつの日か立ち合おう】
「ええ、殺し合いでなくて、試合ならオッケーです。全てを受け継ぐのはたぶん50年は掛かると思います」
試合と言えば、確か……。
◇◆◇
「師匠、免許皆伝の試験が殺し合いですか?」
「そうだ。俺の屍を越えていけ。それこそが俺の流派を受け継ぐに相応しい」
「試合じゃだめなんですか?」
「逃げるならそれも良し。ただし、今後、剣士とは名乗るな」
「分かりました。立ち合いましょう」
「おう、やるぞ」
こうやって、免許皆伝を申し出る弟子の全てを斬り殺したんだったな。
後悔はしてない。
斬り合いこそが最強を作る。
◇◆◇
【鍛冶職人:お主、馬鹿じゃのう。何も学んでおらんのか。魔力を増やすという解を受け入れたということはじゃな。今までの方法以外の解があるということを認めたのじゃぞ】
【斬殺職人:殺さないという選択肢が存在するってことか。理想ではないかも知れないが、ひとつの解なのか。しかも今のところ、それが最善かも判断できない。一度解を出した小僧に従うか。道場破りで殺さないでやる】
「僕もそれが正解かは判らないです。判るのはきっと全知全能の神様だけですね」
【鍛冶職人:神は全知全能などではないわい。その証拠にこの世界は不完全じゃ】
【斬殺職人:俺も神や神が起こした奇跡など見たことがないぜ。自分の目で見たことのないものは信じないことにしている】
「では、道場破りの日にち決めですね。敵の関係者が全て揃った日が良いでしょう」
【斬殺職人:小僧、道場破りの日まで、剣の修行だ。いずれ全て受け継ぐにしても、弟子なのだから、指南してやる】
「お手柔らかにお願いします」
【斬殺職人:ヴルツェル流に手加減などという文字はない】
たぶん、この小僧が最後の弟子になるな。
裏切られてから、弟子は取るまいと思っていたが、こいつなら良いだろう。
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