第7話 初冒険(お隣)

「これなんだけど」


「あーファイン様謹製の聖剣ですわね。」


昨日袋から出した剣をスカーレットちゃんと一緒に眺めていた。

鞘、鍔、柄。シンプルながらも美しく纏められた装飾は、グリップ以外は純白に染められ、差し色には金が施されている。


「刀身は見たんですの?」


「いや、恐らく神器だろうから怖くて抜いてないよ」


「賢明な判断でしたわね、近隣が吹き飛ばなくてラッキーでしたわよ。」


「ラッキー、近隣が!?吹き飛ぶて……」


鞘から抜いた瞬間に光が出ても困るから。そんな軽い気持ちで鞘から抜かなかっただけだよ。


「ん〜〜まだ目覚めていないようですわね。意志を感じませんわ」


「へー目覚めて…へ?剣が意志を持ってるの??」


「はいな!クローム様の魔力をドバッと流せば一丁上がりってもんですわ!」


そんな蕎麦みたいな…

しかし意志を持つ剣か、前世のゲームでもなんか見たな。


「剣によっては四六時中話掛けてきますわ」


「えぇ……」


僕としては自作の武器を使いたくて転生者をやってる所が有るのに。四六時中自分を使え!なんて言われるのは嫌だなぁ。


「流さない…この剣に魔力は流さない!」


「へ?女神様の作ったすっげー聖剣ですのに?」


「う、うん。やっぱり自分で武器を出し…作りたいんだ。他人の力ではなく、僕自身の力で作った武器を使いたいんだ。」


「チートは他人に貰った力ですが……クローム様はどんな武器を出すんですの?」


どんなって、勿論蛇腹剣とペンデュラムだ。後、出すではなくて製作だ。


「強い物、美しい物、使いやすい物。例えば強い物を出すにしても、クローム様は世界に合った物を出せる様にしないとダメダメですわよ?女神様の聖剣は恐らく、この世界基準で最強だと思いますわよ?」


この世界基準ったって、僕は外に出た事すら無い。石が割れる程でも強いのか?岩を斬れたら強いの?それとも山?


「この世界基準の強さってどの位なんだろう?」


「さぁ分かりませんわね。どのみちクローム様なら素手で勝てない相手は「やめてよ!」


まだ見ぬ強い魔物やドラゴンなんかが居るはずなんだ。きっと居るんだ!強い魔物居るもん。「ドラゴンが相手なら、武器を使わざるを得ない」そんな展開があるはずなんだよ…


「聖剣を鑑定して、どのくらいの位の能力か見るのはどーなんですの?カンニングすりゃ早いんですわ?」


「なるほど!」


では–−−鑑定っと!




名前 : 星降りの剣


刀身から星の光が溢れる

竜族特効  水棲モンスター特効  エンチャント不可  

STRに+45の補正有り

備考 : 女神の武器 神性により破壊不可の加護有り 魔力不足により休眠中 神器




「「おぉ」」


ゲーム基準なら最終武器に相応しい聖剣だよ。エンチャント不可ってのもバランスを取ろうと言う気概を感じる。と言うかSTRって表記が有るな。名前がまた星だけど。


「素晴らしい剣ですわね?クローム様!こういうので良いんですの。こういうので!」


確かに素晴らしい武器だ。しかし僕には自作の武器を使うと言う目的が有る。


「スカーレットちゃんにあげるよ」


「えっ!?こっ、困りますわよ!ファイン様がクローム様に授けた物ですし!それに私には使うと決めた武器が有りますし…」


チラッとこちらを見るスカーレットちゃん。ブーメラン作る約束しちゃったから。


「とりあえず魔力を流すのはやめよう、僕ら以外に鑑定出来る人がいたらマズイから」


都合良く休眠中、寝てるのにわざわざ起こすのも可哀想ってもんだよ。

頷くスカーレットちゃん。


「今回思ったのは、世界を…とりあえずご近所でもいいから見てみたいんだ」


「独房の鉄格子付き窓からじゃ壁しか見えませんものね…」


「……」


独房では無いが、彼女の言う通りだ。仕方なく使ったフライの魔法で窓から外を見ても、家は高い壁に覆われている。きっと訓練場で矢が飛び出さないよう対策していると思う。


「まるで囚人を逃さない刑務「やめて!」


あーもう!違う意味で家から出たくなってきた。


「今のままでは学園に通う年齢まで軟禁されちまいますわね…」


「怖い事を言わないでよスカーレットちゃん。冗談だよね?えっ!?やばい?軟禁って」


「せめて商業区位は出歩けるようにしませんと。ご両親にクローム様離れをさせないと私達はおちおちデートも出来ませんわよ?学園にも二人が付いてくる可能性も有りますわよ?それでも良いんですの?」


「学園は…困るなぁ」


「そうでしょうそうでしょう!今からズバッ!と一緒に話合いに行きますわよ!」


➖➖➖➖➖➖


「だから!私のお家なら徒歩15秒ですの!安全ですわ!街には衛兵も巡回してま…えっ?衛兵はクローム様を誘拐などしません!いや、私はまだクローム様を攫ったりはしません!軟禁?それはそちらでは?」


一緒にするはずの話合いに口を挟むタイミングが見つからない。


「ですから!王都より治安が良いんですの!安全ですわ!えぇ!?クローム様の可愛いさで犯罪率が跳ね上がる…確かに可愛いらしいですが…う〜ん。いえいえ、私も四歳ですしここまで一人で通ってますのよ?いえ、クローム様はお強い…なんで分かるのかって?いや〜…兎に角、安心安全で…え?安全安全と怪しい?」


あのスカーレットちゃんが押されている。


「パパ、ママ!僕はスカーレットちゃんのお父さんに挨拶をしたいんだ!一緒に着いてきて欲しいな!」


「「仕方がないなぁクロームは。でも僕、私達を頼るのは良い判断だ!わ!」」


チョロい。良い判断だったのかは分からないけど。


「今までの時間は何だったんですのよ……」


スカーレットちゃんはげっそりしちゃったね。お疲れ様。


兎にも角にも初外出だ。こうやって慣らして行けば外出も一人で出来るかもしれない。安心安全な街みたいだし!


「今ならパパは居るはずですから、皆さんをお招きしますわ。ドドンと三名ご招待ですわ!」




➖➖➖➖➖➖




「ふおおぉ!これが娑婆の空気!」


胸いっぱいに空気を吸い込む。長かったお勤め。しかし独房での生活は思ったより悪くは無かった。振り返れば良い思い出だった。


地面は土だと想像していたが、石畳。我が家の前は大通りで中央の分離帯?には花が植えられ街路樹と交互に道の先まで伸びていた。道路脇には魔道具の街灯もあり、夜間も安心出来そうだ。


「僕達で壁を作るんだ…」「何があってもこの手だけは離さないっ!手を離せば心まで離れてしまいそうだから……」


小声でやり取りする両親。目的地はお隣だ。


道行く人達の表情は明るく、この街の活気を物語っている。

確かに治安は良さそうだ。すぐそこでは衛兵に道を尋ねる冒険者らしき人達も居た。

衛兵は笑顔で応対している。辺境伯の手腕かな?良い街じゃない。


「ここですのっ!」


「ふゎあ〜大きい…」


我が家も大きいが、スカーレットちゃんの家は更に一回り大きい。

悪い貴族がみたら難癖をつけそうな豪華さだ。僕よりも寧ろスカーレットちゃんの方が誘拐されそうじゃないか…


使用人に扉を開けてもらい応接間に通される。おぉ!調度品が幾つか置いてあるけど嫌味を感じさせないシックな物ばかりだ。

しばらくするとスカーレットちゃんパパがやってきた。


「今日は皆さんわざわざ訪ねてきてくれてありがとう。どうだいクローム君、我が家は?」


「素晴らしいですね。調度品も落ち着いていて、僕の好みです。あちらの風景画も暗色で整えられ、この部屋との調和を…敷物も品がありますなぁ!南の国の色が見え……」


「クローム君は四歳なんだよね?難しい言葉を良く知っているね」


おっと!家族やスカーレットちゃん。誰も僕に指摘してくれなかったから、普通に喋ってた。


「クロームは頭が良いだろう?」「麒麟児よ、全てを持って生まれた子!太陽の子!それがクロームよ」


親の欲目もここまで来るといっそ清々しい。あれだけ褒めてくれたが両親の前で才能を見せた事は一度も無い。


「スカーレットちゃんのまねしちゃった」


最近の小芝居で培った演技力で四歳児を演じる。…僕は四歳…僕は四歳…


「クローム様!私の部屋にずいっと案内しますわ!」


「わ?わぁいスカーレットちゃんのお部屋だ〜!」


過剰すぎたか?四歳の仕草が分からない。四歳児のはずなのに!!

スカーレットちゃんの助け船に乗り、逃げる様に去る。最強の転生者の姿か?これが…


「ここがスカーレットちゃんの部屋か!可愛らしい部屋じゃない!」


「もう!二人きりになるとすぐ口説き文句ですの?困ったお人ですわ」


部屋を褒める事が口説き文句かどうかはさておき……


「スカーレットちゃん!とりあえず作成成功だよ。こうやって外出の機会を増やして行こう!ありがとう」


彼女の手を握って感謝を伝える。


「いけませんわ、クローム様。パパが見ていますわ。ガン見してやがりますわ…」


真っ赤な顔で呟くスカーレットちゃん。たまに口調が荒くなるけど、純情なお嬢様なんだよ。ほっこりしながらスカーレットちゃんを見つめていると、背後からオホンと咳払いが聞こえる。

僕がスカーレットちゃんを見つめて、メルスさんが僕を見つめて……


良しっ!絶対に後ろは振り向かない!

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