第13話 つながらない話がつながるとき


 本当の内輪の話をするとだ、とジオリールは話を止めた。

「ローザリオンは、俺のじーさんの婚約者だったんだ。でも情勢は許されなかった。レデカッツの人間至上主義の思想は危なくて、他国へも被害が出るだろうと予想され、レデカッツの今後を憂いた。王女だったゾーラばぁさんが嫁ぐことは最善策で、その突破口の一つで、いずれ、レデカッツで生まれた子孫をこちらの王家に迎え入れる計画をしたんだ。風穴をあけるために。交流が生まれれば、国交も貿易も最小限なんて言えなくなるからな。ローザリオンは随行する護衛騎士と結婚して侍女としてゾーラばあさんと一緒にレデカッツに行った」

「レデカッツは昔にそんな交流があったんだ」

 ジョージがそう言った。なにしろ間に一つの国を挟んでいる。もっと山脈側なら隣接しているが、この土地ではあまりなじみがない。その上閉鎖的なのだ。交流を持つだけでもなかなかの難題だ。

「でもまぁ、ゾーラばぁさんやローザリオンが生きていたころはちょっとずつ交流もあった。そういうこともあって、15年ほど前、フォルモードがレデカッツの姫を迎えたいと言ったら婚姻了承の返事があった。レデカッツの7番目の姫とで仮婚約と言いう話になった」


「そのおひいさんとジオが婚約、ですか?」

「すごい」

「このお姫さんと俺とは少し年が離れていたが、手紙のやり取りがあって、国際会議なんかの第三国で会うこともあって関係は良好だった。普通のお姫さんだと思っていた。だがな、ある日突然彼女は成人できないという身体上の重大な瑕疵があり、結婚はできなくなった、という知らせだ。それっきり連絡がつかない。知らせが届いたころに先代王妃のゾーラばぁさんが亡くなっているからそのせいかと思ったんだが、そうじゃないらしい。内情を知っているローザリオンにも連絡を取ったんだが、今は話せない、という連絡が来ただけで、そのあと、1年ほどしてローザリオンはレデカッツでの役目を終えたとしてこっちに戻ってきた」

「えっ?」

「レデカッツでは、死者の遺髪を生誕の地に還すのは最大級の敬意とされているの。だからローザおばさまがゾーラさまの遺髪を国に持ち帰るのは不思議ではないし、輿入れ当初から決められていたことなんです」

「でも、老齢のローザリオンがレデカッツから間に二つの国を隔ててフォルモードに到着するのは奇跡に近い。事実、本人に強力な守護の魔法がかかっていたから無事に何事もなく到着したんだとわかったよ。実際、その術式を支えていた魔石が寿命を終えると、本当に徐々に効果が無くなった」

「魔術師長が解読したあの術式ですか。本当にシンプルだけれども、美しい呪文でした。ローザリオン様を守るように、ローザリオン様が無事に国に戻れるようにという術式でしたね」

 アルトが補足説明し、感心するようにブロウが頷いた。

「ああ、おかげでじーさん、先代の王はローザリオンに会えた。俺の婚約者がどうなっているのかも知れたんだ。彼女は命がけで情報を持って帰ってきてくれた」

「ジオ様?」

「じーさんはこういった。ローザは姫のことを類まれな魔術師だと評価した。もしかしたら自分の運命は自分で切りひらくかもしれない。その時に手助けできればと、じーさんは侯爵家の力を使って次の布石を打っておいたと。……つまり、姫が自分の人生を切り開いたとき、助けられるようにと」

「ちょ、ちょ、ちょ、ジオ、ストップ。何それ? 第一その姫さん、生きてりゃいくつなの?」

「生きていれば17になる」

 アッシュのパニックも無理はなかった。17歳といえば、まだ若い。しかし、目の前のディーノもとても年若い。年若いと言っても成人したばかりの女性に見える。

「成人できない身体上の重大な瑕疵、が問題ですか?」

 ブロウが尋ねた。

「レデカッツのクソな因習に、体に出た紋章、レデカッツ流に言えばマークカードがどこに現れるかで、人間の良しあし、特に王家でのカーストが決まるのは知っているな? 純血種の人間が最上位。その中でも、紋章がどこに現れるか、で人間の貴賤が出るという習慣があってな」

「は?」

 ブロウやアッシュの頭が混乱してくる。自分たちにそういった習慣や風習はないから、信じられない思いだ。

「王族は、体の心臓あたりに出るものだとされている。胴体にあるのが当たり前で、それ以外の場所に紋章が出た場合は、穢れているとして追放処分となる。貴族もそれに準じる。平民はその限りではないが胸糞悪い」

「王子?」

「紋章が現れる場所なんていうのは偶然の産物に過ぎない。出た場所がここだから穢れているというのは迷信に過ぎないし、人間だけが至高であるという考え方もついていけない。もっと胸糞悪いのは穢れているとされた場合は、追放処分になることだ」

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